この記事では「医の論理」について解説していきます。
医療従事者は勝手気ままに医療を提供しているわけではありません。
規範があり、それに基づいて患者と接しているわけです。
この記事を読めば、「ヒポクラテスの誓い」「ジュネーブ宣言」「医師憲章」「医師論理の4原則」などを知ることができます。
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医の論理とは
医の論理とは、医療行為や医学研究において守るべき行動の規範・基準のことです。
医療に従事する者は、治療に関するどのような決定においても患者にとって最善の利益を考慮し、臨床上の決定を行わなければなりません。
ヒポクラテスの誓い
ヒポクラテスの誓いとは、医師の職業的論理を始めて明文化した宣言文です。
患者の利益の優先や守秘義務などが明文化されており、後年の「ジュネーブ宣言」の基礎となっています。
ヒポクラテスの誓い | |
患者の利益の優先 | 能力と判断の限り患者の利益となる養生法をとり、悪くて有害と知る方法を決して取らない |
安楽死の否定 | 頼まれても死に導くような薬を与えない。それを悟らせることもしない |
墜胎の否定 | 妊婦を流産に導く道具を与えない |
医師の論理性 | 純粋と神聖をもって生涯を貫き、わが術を行う |
患者の利益の優先 | いかなる患家を訪れる時も、それはただ病者を利益するためであり、あらゆる勝手な戯れや墜落の行いを避ける |
患者の差別の否定 | 女と男、自由と奴隷の違いを考慮しない |
守秘義務 | 医に関すると否とにかかわらず他人の生活について秘密を守る |
「ヒポクラテスの誓い」は、医療者が守るべき基本的原則を定める一方、医師が最良と判断するものを患者に施すという父権主義的思想に基づいたものです。
この考え方は20世紀までの長い間にわたって引き継がれ医師主導の医療が行われてきました。
ジュネーブ宣言(第2回WMA総会)
ジュネーブ宣言は、「ヒポクラテスの誓い」をもとにした、医師の論理についての宣言です。「現代版ヒポクラテスの誓い」ともいえます。
1948年の第2回WMA総会で採択されました。
ジュネーブ宣言 | |
患者の健康の優先 | 私の患者の健康と安寧が、私の第一に考慮すべきことである |
人命の尊重 | 人命に対して最大限の尊重の念を持ち続ける |
差別の否定 | 私の医師としての職責と患者との間に、年齢、疾病もしくは障害、信条、民族的起源、ジェンダー、国籍、所属政治団体、人種、性的思考、社会的地位あるいはその他いかなる要因でも、そのような要因に対する配慮が介在することを容認しない |
守秘義務 | 私への信頼のゆえに知り得た患者の秘密を、たとえ患者の死後においても尊重する |
医師の良心と尊厳 | 良心と尊厳をもって、その最高の医学水準に従って、私の専門職を実践する |
人権の尊重 | たとえ脅迫の下にあっても、自分の医学的知識を使って、人権や国民の自由を侵害することはしない |
ジュネーブ宣言では、専門職としての医師の良心・尊厳や患者への配慮などが具体的に示され、また医学的知識の悪用から人権や国民の自由を守るべきことが明示されています。
医師憲章
医師憲章とは、2002年に欧米内科3学会により策定された憲章です。
医療を取り巻く社会的状況の変化とそれに伴う医師としての責務遂行の困難化を背景に、医師のプロフェッショナリズムの「原則」と「社会的責務」について明文化しています。
基本的3原則
- 患者の福利優先の原則
- 患者の自律性に関する原則
- 社会正義の原則
プロフェッショナルとしての10の責務
- プロフェッショナルとしての能力に関する責務
- 患者に対して正直である責務
- 患者情報を守秘する責務
- 患者との適切な関係を維持する責務
- 医療の質を向上させる責務
- 医療のアクセスを向上させる責務
- 科学的な知識に関する責務
- 有害衝突に適切に対処して信頼を維持する責務
- プロフェッショナルの責任を果たす責務
- 有限の医療資源の適正配置に関する責務
医師の職業論理指針
日本医師会は、医師の論理向上を目的として、2000年に「医の論理網領」を採択しました。
2004年には「医師の職業論理指針」が作成され、医師が守るべき下記の3つの基本とする原則を示しました。
- 患者の自律性の尊重
- 善行
- 公正
医の論理網領
- 生涯学習
- 人格向上の務め
- 患者の人格尊重
- 医療関係者との協力
- 法規範の尊守
- 医業の非営利目的
医師の職業論理指針
医師の職業論理指針 | |
医師の基本的責務 | 医学知識・技術の習得と生涯学習、研究への関与、信頼の基盤となる品位の保持 |
医師と患者 | 患者の権利の尊重、医師の義務、患者の個人情報・診療情報の保護と開示 など |
終末医療 | 延命治療の差し替えと中止、ターミナルケア,安楽死 |
生殖医療 | 生殖補助医療、着床前診断、出産前診断 |
遺伝子をめぐる課題 | 遺伝子検査、遺伝カウンセリング、遺伝子解析結果にもとづく差別への配慮と守秘義務 など |
医師相互の関係 | 医師相互間の尊敬と協力、医師間での診療情報の提供と共有 など |
医師とその他の医療関係者 | 他の医療関係者との連携、医療関連業者との関係、診療情報の共有 |
医師と社会 | 医療事故の対応、異状死体の届出、社会に対する情報発信 など |
人を対象とする研究 | 規制の国際的動向、新薬の開発とGCP,利益相反 |
医師論理の4原則
医療論理における重要な原則としては「自立尊重」「無危害」「善行」「正義」の4つがあります。
これらは、1979年にビーチャムとチルドレスが著書『生命医学論理』の中で示したもので、臨床・研究を問わず医療全般に共通する原則として広く受け入れられています。
医療論理の4原則 | |
自立尊重 | 患者の自己決定を尊重する |
無危害 | 患者に害を与えない |
善行 | 患者にとって善を促進する |
正義 | 各人に対し公正・公平にする |