
わが子に障害があるとわかったとき、多くの親がまず抱えるのは「この子の将来はどうなるのだろう?」という漠然とした不安です。進学や就職、生活の自立、そして自分がいなくなったあとの人生──想像すればするほど、心配の種は尽きません。しかし、その不安の多くは「知らないこと」から生まれているのかもしれません。

本書『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて 第2版』は、保育や教育、就労支援、年金、相続、成年後見制度にいたるまで、障害のある子どもと家族が人生の各段階で直面する課題に応じた支援制度を網羅的に解説した実用書です。
著者は、障害のある子の父親であり行政書士でもある渡部 伸氏。制度の知識だけでなく、当事者としての実体験が随所に活かされており、「何を、いつ、どう準備すべきか」が具体的に見えてきます。

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書籍『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて 第2版』の書評

本書は、障害のある子どもを持つ家族や支援者が直面する「親なきあと」の不安に対し、具体的な制度やサービスを通じて解決策を提示する実用書です。
以下の観点から、その内容と魅力を詳しく解説します。
- 監修:渡部 伸のプロフィール
- 本書の要約
- 本書の目的
- 人気の理由と魅力
それぞれ詳しく見ていきましょう。
監修:渡部 伸のプロフィール
渡部 伸(わたなべ しん)氏は、行政書士・社会保険労務士として長年にわたり福祉と法律の現場に携わってきた専門家です。慶應義塾大学法学部を卒業後、出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、障害福祉分野への道を選びました。その背景には、彼自身が重度の知的障害のある娘を育てる父親という立場があり、単なる制度解説者ではない「当事者の目線」を持った専門家という特徴があります。
2014年には「親なきあと」相談室を開設し、障害のある子の将来に不安を抱える保護者を支援する活動を本格化。全国で講演やセミナーを行い、支援者や自治体職員にも制度の正しい理解と活用方法を伝えています。法律と現場をつなぐ力に優れ、理論と実務の両方に精通していることが、彼の大きな強みです。

本書の要約
『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて 第2版』は、障害のある子どもが、乳幼児期から成人、そして親の死後に至るまで、どのような支援や制度を利用できるのかを一冊にまとめた実用書です。
教育、就労、年金、医療、住まい、生活支援、相続・成年後見制度といった主要なテーマを章ごとに分類し、それぞれの時期に「何ができるか」「どこに相談すればよいか」「どんな準備が必要か」が明確に解説されています。
単なる制度紹介に終わらず、具体的な利用の流れや費用、メリット・注意点まで記載されており、専門知識がなくても迷わず読み進められるよう工夫されています。また、法改正にも対応しており、2024年4月施行の障害者総合支援法の改正点なども丁寧に反映されています。

本書の目的
著者が本書を通して伝えたかった最大のメッセージは、「不安を抱える親が、前向きに行動を起こすための情報と心構えを持つことができるように」という点です。障害のある子どもを育てる親の多くは、将来について漠然とした不安を抱えています。しかしその不安の正体をつかみきれず、何から手をつけていいのか分からないまま日々が過ぎていくという現実があります。
その“見えない不安”を“見える課題”に変えるために、制度やサービスを年齢やライフステージに応じて可視化する。それがこの本の設計思想です。また、「自立とはすべてを一人でこなすことではなく、適切な支援を使いこなす力である」という考え方が貫かれており、それは親だけでなく、子ども本人にとっても安心感をもたらす考え方となっています。

人気の理由と魅力
本書が高く評価され、多くの家庭に受け入れられている理由は、内容の正確さや網羅性だけではありません。まず第一に、2024年施行の最新法改正に即した情報が反映されており、読者が「いま必要なこと」をタイムリーに得られる構成になっている点が信頼されています。
さらに、コラムやQ&A形式、チェックリスト、図解など、読者の理解を助ける仕掛けが各所に盛り込まれており、制度に詳しくない人でも読みやすいよう工夫されています。読み手の気持ちに寄り添った語り口や、制度の背景にある社会的な意味づけも丁寧に解説されており、単なる手引き書ではなく“学びの書”としての側面も持っています。
また、実体験に基づいた視点が随所に見られるため、読者が「この人は自分たちのことを分かってくれている」と感じられる点も大きな魅力です。制度だけを語るのではなく、感情の機微までくみ取った文章が多くの共感を呼んでいます。

本の内容(目次)

本書は、障害のある子どもの将来を見据えて、必要となる支援制度をライフステージに沿って解説しています。各章では、保育・教育の初期段階から始まり、就労支援や福祉制度の利用、年金の仕組み、さらに親が亡くなったあとの備えまで網羅されています。
具体的な章立ては次の6つです。
- 第1章 障害のある子が受ける保育・教育
- 第2章 わが子が働く年齢になったらどんなサービスがあるか?
- 第3章 障害者手帳によるサービスの種類と受け方
- 第4章 生活面で利用したい各種のサービス
- 第5章 20歳になったときの障害年金の受け方
- 第6章 親が亡くなったあとわが子はどうなるか?
それぞれの章について順に解説していきます。
第1章 障害のある子が受ける保育・教育
この章では、障害が疑われた初期段階から、就学、進学までの支援体制について取り上げています。保護者が最初に直面する「子どもの発達が他の子と違うかもしれない」という不安に対して、どこに相談し、どんなサービスを受けられるかを示しています。
たとえば、発達の遅れがある子どもには、医師の診断前でも利用できる「児童発達支援」や、「要観察児」を対象にした支援制度があります。これは、正式な障害認定がなくても、育てづらさを感じる家庭が相談・利用できる貴重な仕組みです。
また、就学に向けた選択肢として、通常学級・通級指導教室・特別支援学級・特別支援学校の違いや特徴が説明されています。「インクルーシブ教育」という理念のもと、障害のある子が地域の学校に通いながら支援を受ける体制も紹介されています。
さらに、特別支援学校の高等部では、作業学習や職業訓練といった、就労を見据えた教育も行われており、将来を見越した進路設計の視点が得られる内容です。

教育は「今の学び」だけではなく、「将来の自立」につながる支援の起点です。
環境を選ぶ視点と、支援をつなぐ視点の両方が必要になります。
第2章 わが子が働く年齢になったらどんなサービスがあるか?
この章では、障害のある子が社会に出て働くタイミングで活用できる制度や支援を取り上げています。就労支援は「できる仕事」を見つけることから、「続けられる仕事」を支えることまで、段階的にサポートが用意されています。
まず、就職への不安がある場合には「就労支援センター」や「ハローワーク(専門援助部門)」で相談が可能です。職業訓練や就労移行支援といった制度を通じて、実際の仕事に近い訓練を受けながらスキルを身につけることができます。
障害のある人が働きやすい職場として紹介されているのが「特例子会社」です。これは大企業が設立した関連企業で、障害者雇用に特化した職場環境が整っています。本人の能力に応じた仕事を用意してくれるため、初めての就職先として人気があります。
さらに、就職後も「就労定着支援」や「ジョブコーチ支援」といった継続的なフォローアップが受けられるため、職場に長くなじめるようサポートが続きます。在宅ワークを希望する場合にも支援窓口が存在しており、多様な働き方が考慮されています。

第3章 障害者手帳によるサービスの種類と受け方
障害者手帳は、社会資源にアクセスするための重要なツールです。この章では、手帳の種類、取得方法、それによって受けられる具体的な支援について詳しく解説されています。
手帳は主に3種類に分かれます。「身体障害者手帳」「療育手帳(知的障害)」「精神障害者保健福祉手帳」があり、それぞれの障害特性に応じて申請可能です。発達障害の場合は、知的障害や精神障害としての手帳取得が可能となるケースもあります。
取得によって得られるメリットは多岐にわたります。公共交通機関の割引、携帯電話の基本料割引、税制上の優遇措置、障害者扶養共済制度(「しょうがい共済」)の加入権利など、日常生活を支える仕組みが多数あります。
また、医療面でも「自立支援医療制度」や「障害者医療費助成制度」があり、治療にかかる費用の自己負担を軽減できる制度が整っています。これらは手帳の等級や所得によって異なるため、丁寧な確認と申請が必要です。

手帳は「取得するか迷うもの」ではなく、「必要な制度にアクセスする手段」。
メリットと制度の全体像を知ることが、利用への第一歩です。
第4章 生活面で利用したい各種のサービス
この章では、障害のある人が日常生活を営むうえで活用できるさまざまな福祉サービスと、その根拠となる「障害者総合支援法」について詳しく説明されています。この法律は、18歳以上の障害者を対象に、生活支援・就労支援・介護・居住支援などを包括的に提供するものです。
まず、どのような人が対象となるのか、どのような支援メニューがあるのかが分かりやすく整理されており、「自宅での生活が難しい」「外出の介助が必要」「社会参加を目指したい」など、それぞれの状況に応じた選択肢が提示されています。サービスを利用するには、市区町村への申請と、「障害支援区分」という認定を受ける必要があります。このプロセスも丁寧に説明されており、実際の申請時に迷わないよう配慮されています。
また、2024年4月に施行された法改正のポイントも要点がまとまっており、特に注目すべきは「グループホーム利用者への自立支援の充実」と「障害者の就労継続支援の強化」です。これは、施設生活だけでなく、地域での単身生活を希望する人にも対応した支援が制度化されつつあることを意味します。

第5章 20歳になったときの障害年金の受け方
この章では、障害のある人が20歳になったときから請求できる「障害基礎年金」についての知識と申請手続きが詳述されています。特に「20歳前障害基礎年金」は、初診日が20歳前であることが要件となり、保険料納付歴に関係なく受け取れる制度です。家計を支えるうえで非常に重要な支援であり、知っておくべき制度の一つです。
障害年金の受給資格、認定基準、等級の考え方(1級・2級)なども具体的に解説されています。さらに、「就労と年金の関係」についても触れられており、働きながら年金を受け取れる場合と、支給停止になる場合の条件など、制度の“誤解されやすいポイント”を明確にしています。
申請手続きに関しては、「診断書の取り方」「病歴・就労状況等申立書の書き方」「申請から支給までの流れ」まで、実務的なステップが順を追って記載されており、初めて手続きを行う家族にとって大変心強い内容です。
また、障害者の親が亡くなった場合に支給される「遺族年金」についても言及があり、世帯全体の生活保障の観点から制度を立体的に理解できるようになっています。

年金制度は「申請しないともらえない」仕組みです。
必要書類の整備や準備期間も踏まえて、早めの情報収集が肝要です。
第6章 親が亡くなったあとわが子はどうなるか?
この章は、本書の中でも特に感情に訴えかける内容です。障害のある子どもの将来を考える上で、親が最も不安を感じるテーマ――「親なきあと」について、法的・制度的な備えを具体的に解説しています。
まず、障害のある子どもに財産を残すための基本知識として、「相続の順位」や「法定相続分」「遺留分」といった用語が丁寧に説明されています。あわせて、障害者に有利な税制「相続税の障害者控除」や、「特別障害者」に該当する場合の優遇措置についても例を交えて紹介されており、相続対策に踏み出しやすくなっています。
さらに、遺言書の書き方として、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」の違いや、「付言事項」を活用した親の想いの伝え方まで解説されている点が大きな特徴です。単なる法律知識にとどまらず、「家族がもめないために」「子どもが安心できるように」といった配慮が感じられる構成です。
成年後見制度についても、法定後見と任意後見の違い、それぞれの利用タイミング、後見人の選び方など、実務上の注意点が網羅されています。支援の継続性と安心感をどう担保するか、という観点で制度を選べるようになっています。

相続や後見は“いつか考える”ではなく、“今から準備する”テーマ。
愛情を制度に変える作業こそが、真の備えです。
対象読者

本書『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて 第2版』は、障害のある子どもを取り巻く環境に携わるすべての人にとって、心強い知識と実践のガイドとなる一冊です。
読者それぞれの立場に応じて、以下のような方々に特におすすめできます。
- 障害のある子どもを育てる保護者
- 支援学校・支援級の教員
- 福祉関係者・ソーシャルワーカー
- 障害児者支援を志す学生や新人職員
これらの読者層に向けた具体的な内容と活用の視点について、以下で解説していきます。
障害のある子どもを育てる保護者
本書が最も強く寄り添う対象は、障害のある子どもを育てる保護者です。日常の育児や療育、将来への備えまで、多くのことを同時に考えなくてはならない家庭にとって、信頼できる情報源を持つことは非常に重要です。
本書では、「どの制度が、どのタイミングで、どう使えるのか」が具体的に書かれており、難解な制度もかみ砕いて説明されています。また、制度の手続きだけでなく、親としてどのように心構えを持てばよいのかという点にも触れているため、読んでいて安心感を得られます。
とくに「親なきあと」の章では、子どもに残すべきもの、支援を引き継ぐ仕組みについて詳しく解説されており、不安を一つずつ整理していく助けになるでしょう。

支援制度は“知っている人だけが使える”もの。
子育ての合間に読む時間が限られている保護者こそ、必要な情報が一冊にまとまった本書を活用すべきです。
支援学校・支援級の教員
障害のある子どもたちと日々接する教員にとって、本書は家庭との信頼関係を築くうえでの“共通言語”として機能します。教育現場では、保護者から「年金ってどうなっていますか?」「就労移行支援は使えますか?」といった制度に関する質問を受けることも多く、学校教員としての範囲を超える知識が求められる場面があります。
本書を読むことで、こうした問いかけに対する制度の概要を把握できるだけでなく、適切な相談窓口を紹介するための判断材料にもなります。さらに、福祉と連携した進路指導や、合理的配慮に関する基礎的な理解も深めることができます。
教育と福祉が連携する今の時代、教員が制度を知っていることは、“学びの支援”を“生きる支援”へと高める大きな力になります。

子どもに寄り添うために、まず保護者の不安に寄り添える知識を。
この本は、学校と家庭の橋渡しになる教員の必携書です。
福祉関係者・ソーシャルワーカー
日々現場でケースワークを行う福祉職にとっても、本書は「制度と人をつなぐ実践のヒント」が詰まった参考書です。特に、相談支援専門員やケアマネージャー、自治体の福祉窓口に従事する方にとっては、横断的な制度理解が求められる場面が多くあります。
本書は、法律や制度の背景、対象者の年齢や状態による違いなどを丁寧に分けて記述しており、「このケースには何が使えるか」を的確に判断する助けになります。また、制度の“使い方”だけでなく、“どのように伝えるか”という視点でも役立ちます。
現場では、制度があっても「申請に踏み切れない」「難しそうで手が出せない」という家庭も多く、そうした利用者に寄り添う際の言葉がけや説明の仕方も、この本から学ぶことができるでしょう。

福祉職にとっての制度知識は、“武器”ではなく“橋”。
相手が一歩を踏み出せるよう背中を押す、その第一声がこの本から得られます。
障害児者支援を志す学生や新人職員
社会福祉学や特別支援教育、医療福祉などを学ぶ学生や、実務経験の浅い新人職員にとっても、この本は極めて有益です。実際の支援現場でどのような制度が使われているのか、それがどのように子どもや家庭を支えているのかが、リアルに伝わってきます。
専門用語にとらわれすぎず、制度の全体像を“ライフステージ”というわかりやすい軸で構成しているため、制度の暗記ではなく“意味づけ”を伴って理解できるのが大きな利点です。また、具体的な相談シーンや手続きの流れも多く盛り込まれており、実践をイメージしながら読むことができます。
知識と現場の間にある“実感の壁”を、本書が丁寧に取り払ってくれることでしょう。

学生・新人時代にこの一冊に出会っておくと、制度を“人のために使う”という原点を忘れずにいられます。
まさに実践につながる教科書です。
本の感想・レビュー

制度の全体像が見えた
私の娘は中学2年生で、軽度の知的障害があります。これまで、必要に応じて支援の情報を探してきましたが、正直なところ「今この瞬間」に必要なことばかりに目がいっていて、将来を見通した準備はあまりできていませんでした。
そんな私にとって、この本は“福祉制度の全景マップ”のような存在でした。保育の段階から教育、就労、年金、そして親が亡くなったあとの相続や後見制度にいたるまで、子どものライフステージに沿って情報が丁寧に整理されています。
何よりありがたかったのは、「どの制度が、いつ、どんな条件で利用できるのか」が体系立てて書かれていたことです。単に制度の名前が並んでいるだけでなく、「誰にとって必要なのか」が明確なので、自分たちに必要な情報を選び取ることができました。
読後には、「今から準備すべきこと」がはっきりと見えてきました。不安だった将来が、少しずつ「具体的な予定」に変わっていく感覚を得られたことが、この本を読んだ最大の収穫です。
親の不安を代弁してくれる導入文に共感
本を開いて最初の「はじめに」を読んだとき、私は思わず本を閉じて息を吞みました。まるで私の心の声がそのまま言葉になっていたからです。
私は息子が3歳のときに自閉スペクトラム症と診断され、それからの数年間、ずっと「この子は将来どうなるの?」という不安が頭から離れませんでした。療育、就園、就学…ひとつひとつの判断が重く、先が見えない怖さが常につきまとっていました。
そんな中、この本の冒頭にあった「将来に対する漠然とした不安」の話に、深く共感しました。そして「悩みを可視化することで、不安に押しつぶされないようにする」という言葉が、まるで背中をそっと押してくれたように感じたのです。
この本は制度の知識だけではなく、親の心に寄り添い、感情の整理を助けてくれる存在でもあります。誰かに話を聞いてもらえたような、そんな安心感が得られました。
章立てが実生活に即していて実用的
我が家の次女は現在、小学5年生。発達障害の診断を受けています。これまでも少しずつ制度について学んできたつもりでしたが、情報が点在していて、「どうやってこれからの人生を組み立てていけばいいのか」が見えていませんでした。
この本の構成は、本当に生活に即しています。年齢や人生の節目ごとに章が分かれており、自分たちに必要な部分だけを重点的に読めるので、時間がない中でも効率よく学ぶことができました。
たとえば、教育の章では小学校の選び方、支援級との違い、インクルーシブ教育の説明などが、実際に迷いやすい点をしっかりカバーしていて、「うちの子の場合はどうすべきか?」と考える材料になりました。
「今どこにいて、どこへ向かうのか」が整理されていく過程で、不安よりも「準備していこう」という前向きな気持ちに変わったのが、大きな変化でした。
自立支援の定義が心に響いた
大学で特別支援教育を学んでいる学生です。私は「障害があっても自立できるようにする支援」とは、基本的な生活動作を訓練することだと思っていました。でも、この本で紹介されていた“自立”の考え方には、衝撃を受けました。
本書の「はじめに」で語られていた「自立とは、一人で何でもできることではなく、必要な支援を必要なときに使えること」という言葉に、目が覚めるような思いがしました。支援を受けながら生きること自体が“自立”という価値観に触れ、私の中にあった無意識の偏見が剥がれ落ちたように感じました。
教育現場を目指す者として、制度の理解だけでなく、こうした思想的な学びを得られたことはとても大きな財産です。この一冊に出会えたことで、支援とは何か、教育とは何かを改めて考え直すきっかけになりました。
イラストやコラムが読みやすさを後押し
私は本を読むのが得意ではありません。福祉の制度も難しそうだし、専門用語が多くて理解できないのでは…と最初は不安でした。でもこの本は、そんな私でも最後まで読めました。理由は、イラストとコラムがたくさんあるからです。
章の途中に挟まれるコラムでは、実際の利用者や家族の声が紹介されていて、「自分だけじゃない」とホッとできました。また、制度の仕組みを説明する場面では、図やイラストがすごく分かりやすくて、文章だけではピンとこない内容も、すっと頭に入ってきました。
本そのものがとても親しみやすいデザインで、まるで優しい先輩が隣で教えてくれているような感覚。読むことに苦手意識がある人にも、ぜひ手に取ってほしい本です。
実際の手続きに役立つ情報が満載
私は現在、障害のある子どもを育てながら、家事と仕事を両立しています。日々の暮らしに追われるなかで、制度の手続きを調べる時間も取れず、「支援制度があるのは知っているけれど、実際には何も動けていない」状態が続いていました。
この本が手元に届いてから、まず感じたのは「具体的すぎて、ありがたい!」ということ。制度の概要だけでなく、「どの窓口に行けばよいか」「手続きの手順」「必要書類」まで一つひとつが丁寧に書かれていて、まさに“動き出すための設計図”として使える本でした。
読みながらメモを取り、付箋を貼り、読み終わった頃には「次の週末に役所に行こう」と、自然と行動に移していました。情報が整理されていて見やすいのも大きなポイントで、忙しい家庭の強い味方になること間違いなしです。
将来設計の指針として最適
私がこの本を手に取ったのは、子どもが就学前の発達検査で知的な遅れがあるかもしれないと指摘された頃でした。何をすればいいのか、どこに行けばいいのか、全く分からず、不安だけが積もっていた中で、この本を読み始めました。
一番心強かったのは、「何歳のときに、どんな制度が利用できるのか」が時系列で把握できるように構成されていた点です。今は保育のことで頭がいっぱいでも、いずれ進学、就労、年金、相続…と、段階を経て必要になる情報が自然と頭に入ってくる作りになっていました。
制度の名前や仕組みを並べるのではなく、「人生の流れにそった支援の形」を提示してくれるからこそ、「子どもの未来を一緒に見てくれる本」だと感じました。読み終えた今、少し先の未来に対するイメージが持てるようになり、計画的に準備していこうという前向きな気持ちが芽生えました。
自分も前向きになれたと実感
私は50代で、重度の知的障害がある息子と暮らしています。今までは、なんとか目の前の課題に対処するだけで精一杯でした。将来のことを考えると、不安で夜中に目が覚めることも多く、いつも「もっと情報を集めなきゃ」と自分を責めていました。
この本を読んで驚いたのは、「不安を抱えている親のための本」だということでした。制度を教えるだけでなく、「不安があるのは当たり前」「見通しを持つことで安心できる」というメッセージが、何度も繰り返し語られています。
読み終えたときには、ただ知識を得ただけでなく、「やっていけるかもしれない」という気持ちになっていました。自分の気持ちが少しずつ前に進んでいるのが分かります。福祉制度の本で、こんなに気持ちが軽くなったのは初めてです。
まとめ

本書は、障害のある子どもとその家族が、将来に対する不安を“知識と行動”に変えていくための羅針盤となる1冊です。
ここでは、最後に本書の価値を振り返りながら、今後の行動指針として整理しておきましょう。
- この本を読んで得られるメリット
- 読後の次のステップ
- 総括
それぞれのポイントを順に見ていきましょう。
この本を読んで得られるメリット
以下に、読者が本書を手に取ることで得られる主なメリットを3つに整理してご紹介します。
制度の全体像が一冊でつかめる
この本の大きな魅力は、障害福祉に関する制度の“網羅性”にあります。保育・教育・就労・年金・医療・生活支援から、相続や後見制度にいたるまで、人生の各段階で必要になる制度が一つひとつ丁寧に紹介されています。しかもそれぞれが年代別・シーン別に整理されているため、自分の家庭が今どの位置にいるのか、これから何を意識すればよいのかが、自然と見えてくる構成です。全体を俯瞰できることで、「点と点だった知識」が「線でつながる理解」へと変わります。
将来への備えが自然とできる
子どもの将来に不安を感じつつも、何から始めたらいいのかわからないという保護者は多いでしょう。本書では、「親なきあと」をどう迎えるかという視点も丁寧に扱われています。相続の基本から遺言の書き方、成年後見制度に至るまで、家庭で話し合うべきことや、やっておくべき手続きがわかりやすく説明されています。これにより、未来に対する漠然とした不安が具体的な準備という形で整理され、精神的な安定にもつながります。
読むことで“気持ち”にも変化が起こる
本書は単なる制度ガイドブックではありません。章の冒頭やコラムには、当事者の視点で語られるメッセージが数多く盛り込まれており、制度の話だけでは得られない“感情的な安心感”をもたらしてくれます。「親なきあと」や「自立の意味」といった、心の奥に潜むテーマにも優しく触れており、読者は自分だけが悩んでいるのではないと感じることができるでしょう。それが、「準備を始めよう」という前向きな気持ちを後押ししてくれるのです。

制度は「知ること」が目的ではなく、「使いこなす」ことが目的です。
本書はそのスタートラインに立たせてくれる、頼もしい道具といえるでしょう。
読後の次のステップ
この本を読んだことで、さまざまな制度や支援の仕組みが明確になり、これから先に何が起こるかという“見通し”が立った方も多いでしょう。しかし、本当の意味で役に立つのは、得た情報を行動に移してこそ。
ここからは、読後に具体的にどんなアクションを起こせば良いかをいくつかのステップに分けて紹介します。
step
1家族で情報を共有し話し合う
まず取り組むべきは、得た知識を家族や周囲と共有し、障害のある子どもの未来について話し合うことです。制度や支援の知識を持っているのが保護者の一人だけだと、いざというときに対応が遅れる可能性があります。家族会議を開き、今後のライフプランや財産の分け方、緊急時の連絡先などを整理することで、全員が安心して子どもを支える体制を作ることができます。
step
2必要な支援の候補をリストアップする
現在地が分かったら、次に必要な支援や制度を洗い出してみましょう。本書には利用方法や手続きの流れまで詳しく書かれているので、「もしかしてうちも対象かも?」と感じたものは積極的に候補に加えてかまいません。この段階では“申請できるかどうか”よりも、“どんな支援があるかを知る”ことが大切です。候補が多くても問題ありません。自治体の窓口や相談機関で確認しながら、取捨選択していけばよいのです。
step
3専門機関・窓口に相談する
制度の活用には、必ず行政や支援機関との連携が必要になります。本書では、各制度ごとに相談窓口の種類が紹介されており、どこに問い合わせればよいかも明確です。ここで大事なのは、「自分だけで抱え込まないこと」。支援を受けるためには、まず“声を上げる”ことがスタートラインです。役所の福祉課や障害者支援センター、学校の相談担当者など、最初に話を聞いてくれそうなところに一歩踏み出してみましょう。相談は無料で受けられるものがほとんどです。
step
4手続きの準備に取りかかる
どの制度を使うかが明確になったら、必要な書類や情報を集めて手続きを進めましょう。障害者手帳の申請や障害年金の請求、成年後見制度の利用などは、それぞれに提出書類や期限があります。準備が整っていれば、手続きもスムーズに進行します。本書には申請に必要な実務的な情報も丁寧に記載されているため、実際の準備作業にすぐ応用できます。

本を読んで満足するだけでは変化は訪れません。
小さくても具体的な行動に移すことで、障害のある子どもの未来は確実に前進していきます。
総括
『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて 第2版』は、単なる福祉制度の紹介本にとどまりません。これは、不安と向き合い、行動を促す「実用的な人生設計のガイドブック」です。障害のある子どもを育てる保護者が「知らなかったでは済まされない」大切な情報を、タイミング別・目的別に的確に届けてくれる構成となっています。
本書の最大の価値は、福祉・教育・就労・年金・相続など、多岐にわたる制度や支援策を一冊に集約している点にあります。読者は、今必要な情報だけでなく、「いずれ必要になる」未来の準備まで含めて視野を広げることができます。加えて、法律や制度の改正にも対応しており、2024年の最新情報までカバーしている点は、実務で活用するうえでも非常に信頼できます。
また、監修者である渡部 伸氏の経験と知見に裏打ちされた情報は、理論に偏らず、生活実感に根ざしています。「専門家の視点」と「当事者の視点」の両方を持ち合わせているため、読み手の立場に寄り添った語り口で、不安を安心に、疑問を理解へと変えてくれます。

この本を手に取った人は、きっと「もっと早く読んでおけばよかった」と感じることでしょう。しかし、重要なのは「今」から始めること。
本書は、障害のある子の将来に対して、今日から取り組める一歩を見つけさせてくれる羅針盤です。
子どもの笑顔を守るために、そして親自身の心を軽くするために、まずは一読してみることを強くおすすめします。

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