厚生労働省は2024年4月16日、年金制度の改革に向けて議論の土台となる5つの項目を発表。
パート労働者のほぼ全員が加入可能となる厚生年金の対象拡大案などを提示しました。
各項目の給付水準を試算し、保険料を払う加入者や事業主への影響を見極めたうえで改革に盛り込むかを判断します。
具体的には
1.厚生年金の加入要件の緩和
2.基礎年金の保険料納付期間の延長
3.基礎年金の給付抑制期間の短縮
4.在職老齢年金制度の見直し
5.保険料算出の基準となる標準報酬月額の上限引き上げ
の5項目です。
詳しく解説していきます。
1.厚生年金の加入要件の緩和
厚生年金に短時間労働者が加入するには従業員101人以上の企業に勤務し、週20時間以上働き、月収が8.8万円(年収換算で106万円)以上といった条件を満たす必要があります。
10月からは51人以上の企業に拡大されます。
今回の検証では従業員規模の要件を撤廃したうえで、就労時間や月収が一定水準を超える全員が加入可能になった場合の将来の給付水準を計算します。
パート労働者でもほとんどの人が基礎年金だけでなく厚生年金ももらえるようになる一方、事業主側の拠出は増える見通しです。
配偶者に扶養されている第3号被保険者への影響
配偶者に扶養されている第3号被保険者への影響も見逃せません。
年収が一定額を超えると保険料の負担が発生するため、厚生年金の対象にならないように勤務時間を減らす人が多くいます。
今労働市場は人手不足を背景に賃金が上昇しているため、働き控えが増える環境にあります。
制度によって人々の労働意欲を阻害することがあってはいけません。
2.基礎年金の保険料納付期間の延長
基礎年金の保険料納付期間を巡っては現行の40年間(20~60歳)を45年間(20~65歳)へ延長することで給付額がどれくらい上がるかが試算されています。
全ての加入者の年金額は多くなりますが、低所得者を中心に保険料の負担感が強まるという課題があります。
また、基礎年金の納付期間延長は財源の半分を占める国庫負担が増すと指摘されています。
3.基礎年金の給付抑制期間の短縮
基礎年金の給付額に関しては「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みによって抑制される期間が厚生年金よりも長いです。
この期間を厚生年金の財政から基礎年金の財政への拠出額を増やすことで短縮し、年金額がどれくらい増えるかを試算します。
4.在職老齢年金制度の見直し
働く高齢者の厚生年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」の見直しも議題します。
現在は賃金と厚生年金の合計が月50万円を超えると年金が減額となるため「働き損」を敬遠して就業時間を調整する人がいます。
高齢者の就業促進に向けて制度を廃止・緩和した場合の効果を調べます。
在職老齢年金制度は廃止した場合、将来の給付水準が減ることが2019年の試算で示されています。
5.保険料算出の基準となる標準報酬月額の上限引き上げ
会社員や公務員が入る厚生年金の保険料は「標準報酬月額」と呼ばれる基準額に保険料率18.3%を掛けた分になります。
負担が過大にならないように上限が設けられており、月給がどんなに高くても厚生年金の標準報酬月額は65万円より大きくなりません。
この上限額を引き上げた場合の影響も確認します。
対象となる人の将来受け取る年金が増えるだけでなく、保険料収入が拡大することによって全体の給付水準も高まる可能性があります。
いずれの改革にもハードルがある
いずれの改革にも負の側面があります。
厚生年金の加入拡大は、事業主側の拠出負担が増えるためパート労働者の割合が多い業界から段階的な措置を求める声が多いです。
例えば、月収8万8000円以上で厚生年金に加入する場合、事業主は月額8000円程度、年額では9万6000円の負担増になります。
保険料は労使の折半で、パート労働者の負担も同じ額だけ増えることになります。
事業主は労使で分担する雇用保険や医療保険などへの拠出も加わります。
2025年の通常国会に関連法案を提出する方針
年金改革案は公的年金の持続性や給付水準を点検したうえで夏に発表する「財政検証」に盛り込まれます。
財政検証では、中長期の実質経済成長率をマイナス0.7%からプラス1.6%までの間で4通り置く経済シナリオを想定しています。
今回の検証は労働参加と経済成長が比較的大きく進む「長期安定」と、一定程度進む「現状投影」の中間シナリオの2つを軸に試算します。
厚労省は財政検証を基に年金制度改正案を年末までに詰める。25年の通常国会に関連法案を提出する方針です。