政府は週20時間未満働く短時間労働者も雇用保険に加入させる検討を始めました。
現在は育児休業を取得した際の育休給付金やスキルアップにつながる教育訓練給付金、失業給付の対象外となっています。
非正規社員であっても正規社員と同じように子育てや学び直しの支援を受けられるようにしたい考えです。
詳しく解説していきます。
合算した労働時間が週20時間以上は雇用保険の対象外
雇用保険は現在、雇用形態にかかわらず週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある場合は原則として加入します。
2021年度は230万事業所に適用され、4400万人が被保険者でした。
保険料は労使が指定の料率分を負担します。
厚労省によると週20時間未満の労働者は18年度時点で550万人と推計されています。
離職後の失業手当や、育休取得中に賃金の最大67%が支給される育休給付、教育訓練給付などの対象から外れています。
複数の職場で雇用されているパート・アルバイトのなかには合算すれば労働時間が週20時間以上になるのに、雇用保険に加入できていない人もいます。
働き方が多様化するなかで保障は乏しいです。
正社員以外の職場内訓練の実施率は正社員の半分
財務省は2023年4月24日の部会で、岸田政権が掲げる「人への投資」を進めるうえで適用拡大が重要との認識を示しました。
2021年度に正社員に対して計画的な職場内訓練を実施した事業所は59.1%ありましたが、正社員以外は25.2%と半分以下でした。
働き方にかかわらず教育訓練給付が活用できるようになれば、個人がより主体的に学び直しに取り組めます。
日本は教育訓練に対する公的支出が低い
教育訓練給付は在職中または離職後1年以内に厚労省が指定する教育訓練を受講した場合に費用の最大70%を保険から支給します。
経営学修士号(MBA)や人工知能(AI)、データサイエンスのスキル習得などが対象となる。
賃金の上昇や成長市場に労働力を移す狙いがある。
日本は教育訓練に対する公的支出が低いです。
経済協力開発機構(OECD)によると、2018年時点の労働市場への公的支出はGDP(国内総生産)比0.31%でOECD平均の1.37%に遠く及びません。
雇用調整助成金も雇用保険が財源
新型コロナウイルス禍で多額の資金を投じた雇用調整助成金も雇用保険が財源になっています。
休業や事業縮小を余儀なくされた企業向けに従業員に支払う手当や賃金を補填しています。
雇用維持が重視される一方、経済成長につながる労働移動を阻害した面もあります。
財務省はスキルアップなど教育訓練を促す制度への見直しを主張しています。
雇用保険の保険財政は悪化している
適用拡大に向けては週の労働時間をどこで線引きするかが焦点となっています。
短時間労働者を多く雇う業界や企業にとっては保険料の追加負担になるため反対する恐れがああります。
新型コロナの影響で雇調金の支給が多額になったため保険財政は悪化しています。
教育訓練や失業手当に充てる「失業等給付」の積立金も雇調金の財源に回っています。
このため積立金はコロナ前の2019年度の4.4兆円から2022年度は2900億円まで目減りする見通しです。
2022年度の失業等給付は保険料収入7900億円に対し、1.4兆円の給付となる見込みです。
収支は均衡しておらず、2023年度は料率を0.2%分引き上げました。
適用拡大にあたっては保険料率の水準も検討課題です。