2023年5月29日、財務相で行われている財政制度等審議会は、政府の少子化対策の財源確保へ歳出改革の徹底を求める建議をまとめました。
75歳以上の医療費を巡って、窓口負担を原則2割に引き上げるよう検討すべきだと要請しました。
現状、所得の低い人は1割負担ですが、それが2割になるので、自民党や医師会からの反発も強く、議論の行方は見通せません。
詳しく解説していきます。
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少子化対策の財源に年間3兆円の予算が必要
政府は児童手当の拡充などの対策に年3兆円ほどの予算が必要だと試算しています。
すでに確保した予算を最大限に活用して0.9兆円を集められそうです。
さらに社会保障費の歳出改革を続け、5~6年かけて計1.1兆円を捻出する予定です。
足りない分は、企業や個人の医療保険料などに上乗せして集める構想です。
歳出改革で生まれる財源が上振れすれば、それだけ支援金は少なくて済みます。
財政制度等審議会では、「財源負担をこれから生まれる子供たちの世代に先送りする赤字国債に頼るべきではない」との声が上がっています。
75歳以上の医療費の窓口負担を原則2割にする
財政制度等審議会は、全世代型社会保障の考え方に立って医療・介護などの歳出改革を断行することを求めました。
全世代型社会保障とは年齢ではなく能力に応じて負担し、必要な人たちへの給付に重点を置いています。
具体的には75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担を原則2割にすることについて「前向きに検討される必要がある」と明記しました。
現状は原則1割負担で、所得が145万円を超える人は3割に上がる仕組みとなっています(詳しくは後述します)。
所得だけでなく保有資産や金融所得を勘案する
個人の負担能力を判断する際に、マイナンバーを活用して保有資産や金融所得を勘案することを検討すべきとも言っています。
これまで収入基準で判断していたものを、貯金や株などの資産も判断材料に入れる考えです。
こうした霞ヶ関による制度改正の声は、少子化財源を確保するための歳出改革のたたき台としての意味を持ちます。
少子高齢化で社会保障費が膨張し財政悪化に歯止めがかかっていないことも背景にあります。
制度改革に反発の声が上がっている
さっそく、自民党の一部や日本医師会からは制度改革に反発の声が上がっています。
日本医師会は物価上昇に対応するには原資が必要だと主張し、医療の対価にあたる診療報酬を2024年度に引き上げるよう要望しています。
これについて、財政制度等審議会は29日の建議で反論しました。
新型コロナウイルス感染症への対応のため医療機関には多額の補助金が交付されています。
病院の財務状況は2020年度から2021年度にかけて純資産が事業費の5%の規模で増加していると指摘。
「賃金・物価高にはこうした資産を活用すべきだ」と強調しました。
先行きは不透明
財政制度等審議会は財政再建の監視者と言えます。
政府が6月にまとめる経済財政運営と改革の基本方針や年末の予算編成に向けて、例年春と秋の年に2回、建議をまとめます。
ただ必ずしも政府の政策に反映される訳ではありません。
過去にも後期高齢者の窓口負担の引き上げを検討するよう訴えてきましたし、公的年金の受け取り開始年齢の引き上げを提起したこともあります。
このように、野放図に財政支出が膨らまないように警鐘を鳴らしてきたのです。
医療費1割と3割の基準になる所得
現状の医療費1割と3割の基準になる所得を解説しておきます。
75歳上の後期高齢者で医療費の自己負担が1割ですむのは、課税所得額が145万円未満の人です。
同居している後期高齢者の中に課税所得が145万円を超える被保険者がいれば、現役並み所得者の扱いとなり、医療費の自己負担額も3割負担になります。
たとえば、妻の課税所得が0だとしても、夫の課税所得が145万円を超えていれば、夫、妻とも自己負担割合は3割になります。
ちなみに課税所得は、公的年金控除などの各種控除を引いた後の金額です。
課税所得145万円以下というと厳しい基準に感じますが、収入に直すと被保険者が1人の場合で383万円未満、被保険者が2人以上の場合で520万円未満になります。