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不妊治療と仕事の両立という課題【支援制度の必要性と企業の役割】

不妊治療と仕事の両立という課題【支援制度の必要性と企業の役割】

2022年4月に体外受精や人工授精などの不妊治療が公的保険に適用されるようになり、多くの夫婦がこの制度を利用して不妊治療を受けやすくなりました。

それまで高額な費用が妊娠を望むカップルにとって大きな壁となっていたため、保険適用はまさに画期的な一歩と言えます。

しかし、公的保険が適用されたからといって、不妊治療のハードルが完全に取り除かれたわけではありません。

特に、仕事と治療の両立という課題は依然として残っています。

働く女性にとっては、治療のために仕事を続けることが難しくなり、最終的に退職を余儀なくされるケースが少なくありません。


詳しく解説していきます。


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女性にとっての不妊治療の障壁:通院の負担と仕事の両立

女性にとっての不妊治療の障壁:通院の負担と仕事の両立

不妊治療を受けるためには、排卵や月経の周期に合わせて定期的に病院に通院する必要があります。

しかし、突然通院が必要になることも多く、仕事のスケジュール調整が非常に難しくなります。

このような状況で急に有給休暇を取得しなければならないことが多々あり、これが女性にとって大きな精神的・身体的負担となっています。

通院のために何度も職場を離れることが求められるため、同僚や上司に対して気まずさを感じることも少なくありません。

結果として、治療を続けながら仕事を続けることが難しくなり、多くの女性がキャリアを犠牲にしてしまう現状が続いています。

ガイドさん
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不妊治療では、排卵のタイミングが非常に重要であるため、急な通院が必要になることが多いです。

これが仕事と治療の両立を困難にする一因です。


企業の支援体制:サイバーエージェントの「妊活休暇」

企業の支援体制:サイバーエージェントの「妊活休暇」

このような背景を踏まえ、企業は従業員が不妊治療と仕事を両立できるように支援体制を強化しています。

その中でも、サイバーエージェントは先進的な取り組みを行っており、不妊治療を目的とした「妊活休暇」という制度を導入しています。

この制度では、1か月に1度までの休暇を取得でき、しかも当日でも申請が可能です。


特に注目すべきは、女性社員が不妊治療をしていることを周囲に知られたくない場合、この休暇が通常の有給休暇と同様に扱われ、他の社員に理由が知られることなく休暇を取得できる点です。

プライバシーを守りながら必要な支援を提供するこの制度は、従業員にとって大変有益であり、安心して治療に専念できる環境を整える役割を果たしています。

ガイドさん
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「妊活休暇」は、通常の有給休暇と同じように扱われるため、周囲に不妊治療をしていることを知られたくない女性にとって安心して利用できる制度です。


制度創設の背景:サイバーエージェントの「マカロンパッケージ」

サイバーエージェントが「妊活休暇」を導入した背景には、2014年に社内で行われた新規事業提案コンペがありました。

このコンペで、女性社員への支援をテーマにしたプレゼンテーションがいくつかあり、その中で不妊治療に対する支援が求められることが明らかになりました。

藤田晋社長が「せっかくやるなら、インパクトのあるサポートを提供しよう」と決断し、その結果生まれたのが「マカロンパッケージ」です。


このパッケージは、女性社員がより活躍できるようにサポートする包括的な制度で、不妊治療支援に加えて、看護師や専門家によるカウンセリング、さらには卵子凍結の費用補助なども含まれています。

このような広範な支援は、従業員がライフイベントに対応しながらもキャリアを積み重ねていける環境を提供しています。


システム化と周囲の協力:支援制度の実行に向けた取り組み

「妊活休暇」や「マカロンパッケージ」などの制度を実際に運用するにあたっては、企業全体のシステム化と周囲の協力が欠かせません。

例えば、紙ベースで管理されている業務がある場合、休暇を取得した社員が重要な書類をどこにしまったか分からなくなるといった問題が発生します。

これを防ぐために、業務をデジタル化し、誰がどの業務を担当してもスムーズに進行できるようにしています。

このような取り組みが、急な休暇取得が必要になった場合でも、業務が滞ることなく進行する環境を整えています。

ガイドさん
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業務のデジタル化は、突然の休暇取得があっても業務が滞らないようにするために非常に重要です。

これにより、社員が安心して休暇を取得できる環境が整います。


女性社員によるキャリア支援:サイバーエージェントの「カラメル」

また、サイバーエージェントでは、女性社員が主体となってキャリア支援に取り組む「カラメル」という組織も設立されました。

この組織は、社内の女性社員が横断的に連携し、キャリア支援を推進する役割を担っています。


「カラメル」では、定期的に社内ミーティングやセミナーを開催し、特に不妊治療と仕事の両立をテーマにしたイベントが行われています。

例えば、実際に不妊治療を経験した社員が集まり、情報交換や経験談を共有する場が設けられています。

オンラインセミナーでは、60人以上が参加することもあり、特にセンシティブな話題について、他の社員と情報を共有することで、不安を解消できる場となっています。

ガイドさん
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「カラメル」のような組織は、不妊治療と仕事の両立をサポートするために、社員同士が経験を共有し合う場を提供することが重要です。


企業の取り組みが広がる:ヤプリの「リリー」制度

企業の取り組みが広がる:ヤプリの「リリー」制度

サイバーエージェントだけでなく、他の企業でも不妊治療を支援する取り組みが広がりを見せています。

例えば、アプリ開発会社のヤプリは、2022年に「リリー」という出産や育児、不妊治療に関する休暇制度を導入しました。

この制度では、不妊治療や検査にかかる費用を手厚く補助しており、1人当たり50万円を上限に治療費の9割を会社が負担する仕組みを整えています。


特に注目すべきは、この制度が女性だけでなく男性社員も対象としている点です。

不妊治療は夫婦の問題であり、男性にも支援が必要であることを考慮した取り組みは、非常に先進的であり、社員の約5%がこの制度を利用しています。

このような取り組みが広がることで、夫婦が協力して不妊治療に取り組むことができ、より多くのカップルが安心して治療に専念できる環境が整っていくことが期待されています。

ガイドさん
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ヤプリの「リリー」制度は、男性社員にも支援を提供することで、夫婦共に治療に専念できる環境を整える先進的な取り組みです。


経済的負担の軽減:オムロンとパナソニックの支援制度

経済的負担の軽減:オムロンとパナソニックの支援制度

不妊治療にかかる経済的負担は非常に大きく、多くのカップルにとって治療を続ける上での大きな障壁となっています。

オムロンでは、2005年から不妊治療を受ける社員に対して休職制度を設けており、1か月以上の休職が必要な場合でも、通算365日までの休暇を取得できるようにしています。

また、治療費に関しても、2年間で20万円を上限に補助を行っており、多くの社員がこの制度を利用しています。


同様に、パナソニックも2006年に不妊治療を支援する休職制度を導入し、社員が安心して治療に専念できる環境を整えています。

ガイドさん
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不妊治療は、経済的な負担が大きいことが治療継続の障壁になります。

企業が治療費を補助することで、社員が安心して治療に専念できる環境が整います。


オムロンとパナソニックのような大企業が率先してこのような支援制度を導入することで、他の企業にも良い影響を与え、業界全体での支援策の導入が促進されることが期待されます。

特に、不妊治療のために仕事を続けることが難しいと感じている社員にとって、こうした支援制度は非常に重要です。

これにより、キャリアを犠牲にせずに治療を続けることが可能となり、仕事と治療の両立がより現実的なものになります。


社員のキャリアを守るために:企業と国の役割

社員のキャリアを守るために:企業と国の役割

不妊治療を支援する企業の取り組みは重要ですが、これを支える国の役割も非常に大きいです。

企業が独自に支援制度を整えることは一歩前進ですが、国全体での支援がなければ、すべての従業員が公平に恩恵を受けることは難しい現実があります。


厚生労働省が行ったアンケート調査によれば、不妊治療を経験した257人のうち、4人に1人が仕事と治療の両立が難しく、最終的に退職や治療の中止、雇用形態の変更を余儀なくされています。

これらの人々の多くは、治療にかかる時間やスケジュールの調整が難しいため、通院の負担が大きいことを理由に挙げています。

ガイドさん
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国による支援が充実することで、中小企業でも不妊治療支援制度を導入しやすくなり、より多くの従業員が公平に恩恵を受けることが期待されます。


こうした課題を解決するためには、国によるさらなる支援が不可欠です。

例えば、助成金の提供や制度導入に向けた情報提供を通じて、中小企業が不妊治療支援の制度を整備しやすくすることが重要です。

中小企業にとって、福利厚生の充実は大きな経営負担となる場合がありますが、国がこれをサポートすることで、より多くの企業が従業員に対する支援を提供できるようになります。

また、企業が支援策を導入した際には、その効果を最大限に発揮できるように、国が企業と連携して支援策の運用を支えることが求められます。


キャリア志向の強い人への配慮:制度設計の工夫

キャリア志向の強い人への配慮:制度設計の工夫

特にキャリア志向の強い人々は、不妊治療を公にすることによるキャリアへの影響を懸念しがちです。

このような人々にとって、不妊治療支援制度を利用することが周囲に知られると、昇進や評価に悪影響が及ぶのではないかという不安が強く、結果的に治療を隠しながら仕事を続けることになります。

このため、企業は制度設計において、従業員のプライバシーを最大限に尊重することが求められます。

ガイドさん
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キャリア志向の強い従業員が安心して制度を利用できるように、プライバシー保護を徹底した制度設計が必要です。


例えば、不妊治療に特化した休暇制度を設けるのではなく、通常の有給休暇や病気休暇として利用できるようにすることで、他の社員から特別視されることなく休暇を取得できる仕組みを整えることが有効です。

また、制度利用時には、プライバシーが保護されるようにするため、休暇の取得理由が詳細に記録されないような工夫も必要です。

このように、従業員が安心して制度を利用できる環境を整えることが、企業の信頼性を高めるだけでなく、従業員が長期的にキャリアを積み重ねる上での大きな支えとなります。


男性への支援も不可欠:ヤプリの取り組みが示す新しい視点

男性への支援も不可欠:ヤプリの取り組みが示す新しい視点

不妊治療の支援において、男性へのサポートが重要であることはあまり語られることがありませんが、ヤプリの取り組みはこの点で非常に先進的です。

不妊治療は夫婦共に取り組むものであり、男性もまた治療の過程でさまざまなストレスや負担を抱えています。

ヤプリでは、男性社員にも不妊治療支援を提供しており、治療費の補助や休暇制度の利用を可能にしています。

このような取り組みが広がることで、男性も安心して不妊治療に取り組める環境が整い、夫婦共に支え合いながら治療を進めることができます。

ガイドさん
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男性への支援を提供することで、夫婦が共に不妊治療に取り組みやすい環境を整えることができます。


男性が不妊治療に積極的に関与できるような支援策は、夫婦の絆を深めるだけでなく、企業にとっても多くのメリットをもたらします。

男性社員が治療に専念できる環境が整うことで、彼らのストレスが軽減され、結果として業務のパフォーマンス向上にもつながります。

また、夫婦共に安心して治療に取り組むことができるため、治療の成功率も向上する可能性があり、これは夫婦にとっても大きなメリットとなります。


女性の社会進出と不妊治療支援:企業が果たすべき役割

女性の社会進出と不妊治療支援:企業が果たすべき役割

女性の社会進出が進む中で、不妊治療と仕事の両立を支援する企業の役割はますます重要になっています。

キャリアを築きながら家庭を持つことを希望する女性が増えている現代において、企業が女性社員のライフイベントに対応した柔軟な制度を提供することは、働きやすい職場環境の実現に直結します。

特に30〜40代の女性社員は、企業の中核を担う重要な人材であり、彼女たちが安心して治療に専念できる環境を整えることは、企業全体の競争力を維持するためにも不可欠です。

ガイドさん
ガイドさん
女性社員が安心して不妊治療に専念できる環境を提供することは、企業の競争力を高めるためにも重要です。

企業が不妊治療支援の制度を導入することで、社員が仕事を辞めることなく治療に取り組むことができる環境が整います。

これにより、キャリアを積み重ねながら家庭を築くという選択肢が広がり、女性の社会進出をさらに推進することができます。

また、企業がこのような支援策を積極的に導入することで、他の企業にも良い影響を与え、業界全体での支援策の導入が促進されることが期待されます。

企業間でのこうした取り組みの広がりは、最終的には社会全体の働き方の改善にも寄与するでしょう。


特に、仕事とライフイベントの両立が当たり前のようにサポートされる職場環境が整うことで、女性にとってのキャリアの選択肢が増え、より多様な働き方が実現されるのです。


国際的な視点から見る不妊治療支援:他国の事例と日本の取り組み

国際的な視点から見る不妊治療支援:他国の事例と日本の取り組み

世界的に見ても、企業や国が不妊治療支援に積極的に取り組む国々があります。

例えば、スウェーデンやデンマークでは、国家レベルでの不妊治療支援が充実しており、治療費の大部分が公的資金でカバーされています。

また、これらの国々では、不妊治療が一般的に受け入れられており、社会全体での理解とサポートが進んでいます。

これにより、仕事と治療の両立がしやすく、キャリアを中断することなく治療を受けることが可能です。

ガイドさん
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北欧諸国では、不妊治療が国家の支援のもとで広く普及しており、社会全体での理解も深まっています。

日本もこれらの事例を参考に、さらなる支援策を検討することが重要です。


一方、日本では、まだまだ不妊治療に対する社会的な理解が十分ではなく、企業による支援も一部にとどまっています。

日本の企業が国際的な事例を参考にしながら、より包括的な支援策を導入することで、社員の多様なニーズに応えることができるでしょう。

また、国による支援の拡充も、企業がこうした取り組みを進める上での強力な後押しとなります。


結論:不妊治療と仕事の両立を支えるために必要な取り組み

まとめ

企業が率先して不妊治療支援の制度を導入し、それを効果的に運用することは、従業員が安心して働き続けることができる社会を実現するために非常に重要です。

特に、プライバシーに配慮した柔軟な制度設計や、男性社員を含めた総合的な支援策の提供が求められます。

また、企業単独の取り組みにとどまらず、国による助成金の提供や中小企業への支援を通じて、すべての従業員が公平に支援を受けられる環境を整えることが必要です。


このような取り組みが広がることで、不妊治療と仕事の両立が当たり前のこととして受け入れられる社会が築かれ、将来的にはすべてのカップルが安心して治療に専念できる環境が整うことが期待されます。

不妊治療に取り組むすべての人が、キャリアを犠牲にすることなく、希望を持って治療に専念できる社会を実現するために、企業と社会全体で取り組んでいくことが重要です。

ガイドさん
ガイドさん
不妊治療と仕事の両立を実現するためには、企業と国、そして社会全体が一体となって支援を提供することが不可欠です。


企業が従業員のために環境を整えることは、単なる福利厚生の一環にとどまらず、社会全体の進歩に貢献する重要な役割を果たします。

特に、人口減少が進む日本において、少子化対策としても不妊治療の支援は不可欠です。

社員一人ひとりが自身の健康とキャリアの両方を大切にできる職場づくりは、結果的に企業の持続可能な成長につながります。

今後も企業と社会が協力し、働きやすい環境を提供し続けることが求められています。


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