出典:photoAC
この記事では「母子健康手帳」について解説していきます。
子どもをその身に宿すことになると、喜びと同時に不安もあるかと思います。
母子健康手帳には、妊婦と胎児の健康を記録する今後の予定が記されているため、初めての妊娠でも、手帳を手にすることで安心も手にすることができます。
この記事を読めば、「母子健康手帳の内容」「交付の条件」「課題」などを知ることができます。
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母子健康手帳とは
母子健康手帳は、妊婦健診や出産の記録、赤ちゃんの発育記録、予防接種記録などを記入し、就学前までのお子さんの健康記録として活用するものです。
母子健康手帳は、母子保健法により妊娠の届出をした者に対して交付され、妊娠・出産・育児に関する一貫した健康記録であり、かつ妊娠と乳幼児養育に関する行政情報、保健・育児情報が提供されるため、母子健康管理において重要です。
近年では、さらに必要な知識の提供や子育て記録、支援ツールとしての役割も期待され、妊婦の自己管理する能力を高めることに母子健康手帳は有用です。
その一方で、母子健康手帳を子どもへ開示することへの抵抗感を示す女性もいること、および、母子健康手帳に記載する分娩の経過項目と特記事項欄に対して、施設側の記載への消極的な風土や、分娩状況がスティグマとなってしまう社会的風潮の中で助産師が母子健康手帳の記載に戸惑いや迷いがあることが明らかになっています。
つまり、母子保健指標の改善の役割を果たして妊産婦・乳幼児の健康管理を促すために重要とされてきた母子健康手帳であるが、医療職や母親によっては情報記述を躊躇し実際に活用されていない可能性があります。
母子健康手帳の交付は市区町村の役所
母子健康手帳の交付は、自分の住んでいる市区町村の役所で行われます。「妊娠届」に必要事項を記入して提出すれば、その場でもらうことができます。
ただし、市区町村によっては、産院の証明書などが必要な場合があります。よって、何が必要なのかは各市区町村の役所に問い合わせて確認してください。
また、本人ではなく代理の人がもらうこともできますが、身分証明書や印鑑などが必要になってくることもあるので、この場合も各市区町村へ事前に確認してください。
母子健康手帳は妊娠6~10週頃にもらえる
母子健康手帳は、妊娠して直ぐに給付されるわけではありません。
胎児の心拍が確認できる妊娠6週目ごろ~初期流産の心配がなくなる妊娠10週目ごろになると、医師から「給付の指示」を受けることになります。
母子健康手帳の役割
母子健康手帳の役割は、妊娠期から乳幼児期までの健康に関する重要な情報が、一つの手帳で管理されるということです。
妊産婦、乳幼児は、健康であっても急激に状態が悪化することがあるため、特に保健上の配慮を要します。また、乳幼児期の健康は生涯にわたる健康づくりの基盤となります。
このように、妊産婦、乳幼児の時期の健康の保持及び増進は重要であることから、母子保健は公衆衛生の中でも重要な分野として発展してきました。
母子健康手帳は、妊娠期から産後まで、新生児期から乳幼児期まで一貫して、健康の記録を、必要に応じて医療関係者が記載・参照し、また保護者自らも記載し管理できるよう工夫された、非常に優れた母子保健のツールです。
母子健康手帳には、妊婦健康診査や乳幼児健康診査など各種の健康診査や訪問指導、保健指導の母子保健サービスを受けた際の記録や、予防接種の接種状況の記録がなされます。
これらが一つの手帳に記載されるため、異なる場所で、異なる時期に、異なる専門職が母子保健サービスを行う場合でも、これまでの記録を参照するなどして、継続性・一貫性のあるケアを提供できるメリットがあります(母子保健法第16条において、母子健康手帳には、妊産婦、乳児及び幼児に対する健康診査及び保健指導の記録を行うことが規定されています)。
さらに、母子健康手帳には、妊娠期から乳幼児期までに必要な知識が記載されています。
雑誌やインターネットなど子育てに関する情報があふれる中、妊娠・出産や子育てについて信頼のできる情報を提供する媒体としても、母子健康手帳は有用です。
その他、母子健康手帳には、妊婦や保護者が、妊娠中や出生時、誕生日などの折々に、そのときの気持ちなどを記録できる欄が設けられており、家族の子育て期の記録、子育て支援ツールとしての活用も期待されています。
母子健康手帳は赤ちゃん1人につき1冊
母子健康手帳は赤ちゃん1人につき1冊支給されます。双子だと2冊、3つ子であれば3冊の母子健康手帳を管理することになります。
双子の場合、一卵性で7~8週目、二卵性で早くて4~5週目、遅くて5~6週目に、超音波検査でわかります。
母子健康手帳は1942年に始まった
母子健康手帳の原型は1942年に規程された妊産婦手帳です。
その後、1947年に妊婦と赤ちゃんの記録が一体となった「母子手帳」として様式が定められ内容の充実が図られました。
1965年に制定された母子保健法で、現在の「母子健康手帳」と名称が変更され、その後も女性の働き方や保健福祉制度の変化、乳幼児身体発育曲線の改訂などを盛り込んで内容の改正が行われてきました。
日本で生れた母子健康手帳は世界に広まった
日本で生れた母子健康手帳はアジアやアフリカの国々に評価され、利用される地域は広がっています。現在は、30か国以上の国や地域で活用されています。
出典:HANDS
国・地域全体に普及または国家プログラム | 日本、韓国、タイ、インドネシア、ブータン、東ティモール、オランダ、フランス、ユタ州(米国)、ニジェール、チュニジア、コートジボワール、セネガル、ブルキナファソ、ベナン、ケニア、ドミニカ共和国、など |
普及プロジェクトが推進中(JICA、ユニセフ、NGOなどの協力) | ベトナム、パレスチナ、ラオス、カンボジア、バングラデシュ、フィリピン、ミャンマー、モンゴル、マダガスカル、カメルーン、タンザニア、など |
導入を準備・検討 | ブルネイ、中国、ウガンダ、など |
母子健康手帳で受ける検査項目
項目 | 検査する時期 | 内容 |
妊娠週数 | 毎回 | 健診時の妊娠週数 |
子宮底長 | 妊娠中期以降毎回 | 恥骨の上から子宮の最も高い位置(子宮底)までの長さ。 妊娠20週前後から、赤ちゃんの発育と羊水量を調べるために測ります。 妊娠4ヵ月で12cm、5ヵ月で15cm、6ヵ月以降は妊娠の月数×3+3cmがおおよその目安 |
腹囲 | 妊娠中期以降毎回 | お腹の周囲の長さ。おへその位置で測ります。これでママの脂肪のつき方をチェックします。 |
血圧 | 毎回 | 安静時に測定します。最高血圧が140mmHg以上、最低血圧が90mmHg以上の高血圧が続く場合は、妊娠高血圧症候群を発症している可能性があります。 |
浮腫 | 毎回 | むくみのことを言います。足のすねを指で押し、へこんだ部分の戻りが悪いとむくんでいる証拠。その時は「+」になります。 「+」が続くと以前は、妊娠高血圧症候群の症状の一つとされていましたが、現在では無関係とされており、単なる浮腫なら心配はいりません。ただし、妊娠28週未満で浮腫が発生した妊婦の3分の1は、後に高血圧や蛋白尿を合併すると言われているので、塩分や同じ姿勢で長時間いることを控えるなどの注意は必要です。 |
尿蛋白 | 毎回 | 尿にタンパク質が出ているかを調べる検査です。タンパク質が検出されない時は「−」、問題ない量のタンパク質が検出された時は「±」、検出された時は「+」、より多く検出された時は「++」と表記されます。一度検出されても、次の検査で「−」に戻ればあまり心配はいりません。ただし、「+」以上が連続する場合は、妊娠高血圧症候群の可能性があります。 |
尿糖 | 毎回 | 尿に糖が出ていないかを調べる検査です。尿から糖が検出されない時は「−」、検出された時は「+」、より多く検出された時は「++」と表記されます。 連続して糖が検出されると妊娠糖尿病の可能性があるので、血糖値を調べることになります。 |
体重 | 毎回 | 体重の増加は1週間に300g以内に抑えるようにしましょう。急激に増加すると妊娠高血圧症候群や難産の原因にもなりかねないので注意が必要です。 |
特記指示事項 | ママに処方した薬や治療内容を記入します。また、「体重増加注意」などの注意事項についても記入されます。 | |
梅毒血清反応 | 治療の対象となるので必ず初期に検査 | 梅毒に感染している場合、胎盤が完成するまでに完治させておかないと流産や早産の原因になったり、赤ちゃんへ感染する場合もあります。そのため、血液検査を行って事前に感染しているかを調べておきます。 |
B型肝炎抗原検査 | 治療の対象となるので必ず初期に検査 | B型肝炎ウィルスをママが持っていると、たとえ症状の出ていないキャリアーでも、分娩時に赤ちゃんへ感染してしまうことがあるので、事前に血液検査を行います。 |
最終月経開始日 | 出産予定日を割り出すための目安になります。 | |
この妊娠の初診日 | 産院で初めて妊娠と判定された日を記入します。 | |
胎動を感じた日 | 初めて胎動を感じた日を記入します。個人差はありますが、18週~22週と言われています。 | |
分娩予定日 | 以前は最終月経開始日から計算していました。月経不順などの場合は超音波検査の結果で修正し決定しています。 ※体外受精の場合は、受精卵を子宮内で移植した日が妊娠2週となります。 |
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血液型検査 | 通常は初期に1回 | 分娩時の輸血など、万が一に備えて妊娠初期に調べておきます。ママがRh−の時は、血液型不適合妊娠の可能性があるため予防措置がとられます。 |
母子健康手帳の課題
0歳~5歳までの保護者325名を対象に母子健康手帳の利用状況、使い心地、手帳への要望などを調査し、子どもの年齢が低い程、手帳の利用頻度が高いこと、手帳のサイズや使いやすさが利用状況に影響すること、子どもの発達や健康管理に関して80%以上の母親から要望があったのに対して、母体に関する項目などの急を要さない情報についての要望率は60%以下と低いことが明らかになりました。
また、母子健康手帳の改善に取り組む目的で、助産師15名と育児期の母親19名を対象に自記式質問紙を用いて母子健康手帳の経過記録に関する意見をまとめました。
それによると、母親が一番高く評価した項目は、「妊娠中の気がかりなことを健診で確認するための質問紙があると良い」であり、母親と助産師の両者の意見が一致した内容は「妊娠後期の食事に関する情報」の希望でした。
助産師と母親の意見が相反した項目は「ママと赤ちゃんの育児日記」であり、母親は育児に関する全ての項目を肯定的に捉えていましたが、助産師は母親が神経質になることを懸念して否定的であることが明らかとなりました。
出産後に必要な情報として便色調カードの有用性についての調査では、9割以上の母親が母子健康手帳に便色調カードを綴じていることを役に立ったと答えており、妊娠期からの関心につながっていたことを示唆していました。
妊娠と健康リスク
若年妊婦
十代の若年妊婦の場合、未婚、経済的基盤が弱い、周囲の協力が得られにくい、喫煙や飲酒などの健康リスクについて知識が乏しいなどの問題を抱えていることがあります。
そのため、健康リスクや不適切な生活習慣の有無、出産や子育てに関して生活上困っていることの有無などを確認し、必要に応じて医療機関や社会福祉の窓口やソーシャルワーカーと連携することも重要です。
高齢妊婦
近年、35歳以上のいわゆる高齢妊婦の割合が増加しています。
高齢妊婦では、胎児の先天異常、妊娠合併症のリスクや帝王切開分娩の割合が高いことが知られています。
妊娠と喫煙
妊婦が喫煙をしていた場合、低出生体重児や早産児を出産するリスクが高くなることが知られています。
また、出産後も母親が引き続き喫煙していた場合、乳幼児突然死症候群(SIDS)や喘息などのリスクが高まることが知られています。
妊娠と飲酒
妊娠中の多量飲酒は、胎児アルコール症候群と呼ばれる先天異常のリスクを高めることが知られていますが、胎児に明確な障害を引き起こす飲酒の下限量は不明です。
そのため、妊娠中から授乳期間は禁酒することが望ましいとされています。
不妊治療
不妊治療による妊娠の場合、高齢や多胎など妊娠合併症のリスクを上昇させる要因を有していることが多いです。
合併症妊娠
妊婦が妊娠前から何らかの疾患を有している場合の妊娠を「合併症妊娠」といいます。
この場合、疾患の治療と妊娠の両方の管理が必要となります。
妊娠合併症
妊婦が妊娠後に何らかの異常を発症した場合を「妊娠合併症」といいます。
この場合、貧血のように比較的治療が容易なものから、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のように妊婦や胎児の健康のために十分な経過観察が必要なものもあります。
いずれも、定期的な妊婦健康診査を受けることで早期発見と治療につながります。前回の妊娠で妊娠合併症があった場合には、より注意が必要となります。
精神疾患
精神疾患(気分障害、不安障害、統合失調症など)で治療継続中の妊婦は、妊娠中の健康管理について、産科と精神科との連携が必要になることがあります。
精神疾患について産科医に伝えているか、妊娠したことを精神科医に伝えているかなど、精神科と産科の主治医の間で必要に応じて医療機関間の連携を図ります。
また、妊娠中に精神疾患が再発する場合や、妊娠中にうつ病を発症する場合(産前うつ病)もあります。
精神科既往歴がある場合には、産後うつ病のリスクが高まるともいわれています。
精神科既往歴・現病歴、家族や周囲からの支援状況、夫との関係性の変化(DVを含む)などを妊娠期から把握しておくことが重要であり、状況が悪化しないよう予防的な関わりをする必要があります。
多胎妊娠
平成22年人口動態統計によると、我が国の出生における多胎の割合は1.9%と、平成7年の0.9%に比べ増加しています。
多胎では単胎に比べ、早産になりやすく、また、周産期死亡率が高く、帝王切開分娩の割合が高いことが知られています。
さらに、同じ在胎週数であっても単胎児に比べ出生体重が軽い傾向にあります。
多胎妊娠では単胎妊娠よりも切迫早産等の妊娠中の合併症が起こりやすいので、妊婦健康診査をきちんと受診することが求められます。
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