大阪府立高校の頭髪の黒染め指導を巡る訴訟は、生徒の外見や行動を過度に縛る「ブラック校則」の問題を浮かび上がらせました。
それもあってか、文部科学省は2021年6月、校則を時代に合わせて見直すよう求める通知を発出しました。
各校で改定の動きが出始め、生徒が主導するケースもあります。
グローバル化や性的少数者への配慮など社会の意識が変わる中で校則はどうあるべきか、議論が求められています。
1990年以降、校則が緩和される
国内で校則に注目が集まったのは、校内暴力が吹き荒れた1970~80年代です。
頭髪や服装などを細かく決めて厳格に運用する「管理教育」が広がり、これに対して校則で丸刈りを強制するのは憲法違反だと生徒が訴える裁判も起きました。
校則を巡る大きな転機は90年、神戸市の女子高校生が遅刻をしないよう駆け込んだ校門で、教諭の閉めた鉄製の門に挟まれて死亡した事故です。
「行き過ぎた指導が原因」と批判された文部省(当時)は、社会の実態にあわせた見直しを指示し、各地で校則が緩和されました。
それでも2000年代以降、管理教育の名残から細かなルールは残ったとされています。
欧米のメディアも注目する日本の校則
そこに一石を投じたのが、大阪府での頭髪の校則に関する裁判です。茶髪の生徒に黒染めを強要する――。
17年の提訴の際、複数の欧米メディアが「日本の厳格な服装ルール」と驚きをもって報じました。
移民の受け入れなどにより教室に様々なルーツを持つ子どもがいるのが当たり前の欧米では、髪の色といった外見を縛る校則を持つ学校は少ないとされるからです。
子どもを枠にはめ込み、はみ出しを許さない日本の学校教育は海外からは異質に映ったようです。
黒髪指導、二審も「違法性なし」
茶色っぽい髪を黒く染めるよう教諭らに強要されて不登校になったとして、大阪府羽曳野市の府立高校の元女子生徒(22)が府に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が2021年10月28日、大阪高裁でありました。
本多久美子裁判長は髪の染色を禁じる校則や指導の違法性を認めなかった一審・大阪地裁の判決を支持し、元生徒側の控訴を棄却しました。
控訴審判決は、学校教育では「個別的、集団的な実情に応じて多様な教育指導が許容されるために広範な裁量が認められる」と指摘。府立高の校則や頭髪指導は「裁量の範囲を逸脱しない」と結論づけました。
一審の大阪地裁判決は、元生徒が不登校になった後、学校が名簿に生徒の名前を載せないなどの対応について府に33万円の賠償を命じた一方で、校則について「社会通念に照らして合理的」などと判断しており、元生徒側が控訴していました。
判決後、原告側の弁護士は「判決の理由がほぼ一審通りで残念だ」と述べました。
訴状などによると、元女子生徒は2015年4月の入学後に茶色い髪を黒く染めるよう繰り返し指導され、16年9月に不登校になっています。
校則に関する調査
グローバル化の進展や多様性の尊重が重視される中、文科省は一審判決後の今年6月、社会の変化に合わせ校則を見直すよう求める通知を各地の教育委員会などに発出しました。
学校には一定の決まりが必要としつつ、「教員が規則にとらわれ、守らせることのみの指導になっていないか」と現場の意識改革を促しました。
埼玉県が10月に公表した調査結果によると、高校など県立学校の約9割が過去3年間に服装規定を中心に校則を見直していた。
広島市の私立安田女子中高は21年度から、原則禁止だったスマートフォンの持ち込みを認めるよう校則を変更。
有志が全校アンケートで募った意見をもとに教員と協議を重ね、学習や緊急時の連絡など目的を限って容認した。「自分たちで作ったからこそ、ルールを守ろうという意識が強くなったようだ」(同校)
とはいえ、熊本市が20年に実施したアンケートでは高校生の約4割が「校則の中に必要ないと思うものがある」と回答するなど、今なお生徒を細かく縛るルールは多くの学校で残っているとみられます。
校則に関して司法が言及
「時代の変遷に伴い茶髪に対する社会認識に変化が生じている」(大阪地裁判決)「規則を守らせること自体が目的化していないかを常に検証して、よりよい教育指導を目指す努力が求められる」(大阪高裁判決)などと司法が言及しました。
校則がどうあるべきかの対応が問われています。
鳴門教育大の阿形恒秀特命教授(臨床教育学)は「学校は生徒の社会性を育む場であり、自制を求めて頭髪などに一定の制約を設ける校則には教育上の意義がある」と指摘しています。
その上で「かつて多かった『男子は丸刈り』という校則が今はほぼないように、社会の価値観は時代とともに変わる。生徒や保護者の声を聞きながら、校則が社会通念からかけ離れていないかどうか常に検証する必要がある」としています。
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