この記事では「学校保健」について解説していきます。
学校では、幼児・児童・生徒・学生の健康を守るため様々な取り組みを行っています。
この記事を読めば、「学校保健行政の構造」「学校保健関係職員」「健康診断」などを知ることができます。
関連教科
学校保健とは
学校保健とは、学校において、児童生徒等の健康の保持増進を図ること、学校教育活動に必要な健康や安全への配慮を行うこと、自己や他者の健康の保持増進を図ることができるような能力を育成することなど、学校における保健管理と保健教育です。
学校保健行政の構造
国や地方公共団体は、国民の健康保持増進を図るために、学校生活を対象に学校保健行政を行います。
幼稚園から大学に至る教育機関とそこに学ぶ幼児・児童・生徒・学生および教職員が対象となり、学校保健、学校安全、学校体育、学校給食に大別されます。
学 校 保 健 行 政 |
学校保健 | 保険教育 | ・関連教科(体育科、保健体育科、生活科、道徳科など) ・総合的な学習の時間、特別活動(学級活動など)、保健室における個別指導や日常の学校生活での指導 |
保健管理 | ・対人管理(健康管理、健康診断、健康相談、疾病予防など) ・対物管理(学校環境の安全・衛生管理、美化など) |
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学校安全 | 安全教育 | ・安全学習(体育・保健体育、理科・社会科など) ・道徳 ・安全性(学級活動、ホームルーム、学校行事、児童、生徒活動、日常生活、個別指導) |
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安全管理 | ・対人管理(心身の安全管理、生活や行動安全管理) ・対物管理(学校環境の安全管理) |
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学校体育 | ・教科体育、特別活動、運動部活動、その他(スポーツに親しみ、体力向上、心身の健康的な発育を促す) | ||
学校給食 | 学校給食指導 | ・生活習慣病の予防、人間関係・作法の教育など | |
学校給食管理 | ・栄養管理、衛生管理(食中毒の予防) |
教育基本法・学校教育法
教育の目的は『教育基本法』第1条に規定されています。
『学校教育法』は、学校教育制度の根幹を定める法律であり、学校を下記の4つに定めています。
在籍者の名称
- 幼稚園:幼児
- 小学校:児童
- 中学校・高等学校・中等教育学校:生徒
- 大学・高等専門学校:学生
義務教育学校は小学部、中学部に、特別支援学校は幼稚園部、小学部、中学部、高等部に分かれます。
学校給食法
学校給食は『学校給食法』に基づいて、学校教育活動の一環として実施されます。
学校給食は給食主任が中心となり、栄養教論は学校給食栄養管理者として職務にあたります。
栄養教論の職務内容
食に関する指導 | ・児童生徒への個別指導(肥満、偏食、アレルギーなど) ・集団的な食に関する指導 ・他の教職員や家庭・地域との連絡・調整 |
学校給食の管理 | ・栄養管理(献立作成) ・衛生管理(施設設備、調理など) ・検食(安全性、食味等の確認) ・物資管理 |
主な学校保健関係職員
学校校長は学校保健の総括責任であり、学校保健計画の決定、児童生徒の出席停止の決定などを行います。
保健主事は校長の指示の下、学校保健の管理にあたります。
養護教論は学校保健活動の推進において中核的な役割を担い、子どもの心身の健康課題の解決にあたります。
学校設置者は、非常勤職員として学校三師と呼ばれる「学校医」「学校歯科医」「学校薬剤師」を任命します。
学校保健関係職員の主な職務内容
学校管理運営 | 健康診断 | 感染症対策 | ||
学校設置者 | ・学校医の任命 ・施設の設備充実の処置 ・環境衛生検査の責任者 |
職員の定期・臨時健康診断の実施 | 学校の全部または一部の臨時休業の決定 | |
常 勤 職 員 |
学校長 | ・学校保健計画の決定 ・環境衛生検査の責任者 ・学校保健計画の立案に参与・協力 |
児童生徒の定期・臨時健康診断の実施の責任者 | 児童生徒の出席停止の決定 |
保健主事 | ・学校保健計画の立案 ・学校保健計画の立案に参与・協力 ・環境衛生検査の実施 ・学校保健と学校教育全体の調整 |
健康診断の実施 | ||
養護教論 | ・学校保健計画の立案に参与・協力 ・環境衛生検査の実施 ・学校保健と学校教育全体の調整 ・保健室経営 |
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教論 | ・学校保健計画の立案に参与・協力 ・環境衛生検査の実施 |
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非 常 勤 職 員 |
学校医 | ・学校保健計画の立案に参与・協力 ・環境衛生検査の実施 |
健康診断に従事 | 感染予防に関して必要な指導・助言 |
学校歯科医 | ・学校保健計画の立案に参与・協力 | 歯に関わる健康診断に従事 | ||
学校薬剤師 | ・学校保健計画の立案に参与・協力 ・環境衛生検査の実施 |
養護教論
養護教諭の職務は、『学校教育法』で「児童生徒の養護をつかさどる」と定められています。
ヘルスプロモーションの理念に基づく健康教育と健康管理によって、子供の発育・発達の支援を行う教育職員です。
『学校教育法』により、小・中学校、義務教育学校、中等教育学校、特別支援学校などに必置であり、また幼稚園、高等学校にも置くことができます。
養護教論の主な職務内容
保健管理 | 救急処置、健康診断、感染症予防、健康観察、配慮を必要とする子供の支援、環境管理など |
保険教育 | 関連教科、総合的な学習の時間など |
健康相談 | 心身の健康問題への対応 |
保健室経営 | 保健室経営計画に基づいた計画的・組織的な運営 |
保険組織活動 | 学校保健委員会 |
保健主事
養護教諭を含む常勤職員の中から任命され、学校保健と学校全体の活動の調整などの学校保健に関する事項の管理を行います。
『学校教育法実施規則』により、小、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校に置くものとされています。
保健主事の主な職務内容
- 学校保健と学校全体の活動との調整
- 学校保健計画の作成と実施
- 学校保健に関する組織活動の推進
学校三師(学校医、学校歯科医、学校薬剤師)
『学校保健安全法』により、学校医はすべての学校に、学校歯科医、学校薬剤師は大学以外の学校に置くものとされています。
学校医の職務は、学校保健計画の立案への参与、学校環境衛生の維持・改善の指導、健康相談、保健指導、健康診断など、学校保健全般にわたっています。
学校三師の主な職務内容
学校医 | 学校歯科医 | 学校薬剤師 | |
役割 | 保健管理に関する専門的事項ついて、技術・指導に従事する | 歯に関する検査、事後措置や健康相談などの保険管理に従事する | 学校環境衛生検査、学校環境衛生の指導などに従事する |
設備 | すべての学校 | 大学以外の学校 | |
主な職務 | ・学校保健計画の立案への参与 ・必要に応じて、保健管理に関する専門的事項の指導 ・健康相談 ・保健指導 |
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・健康診断 ・疾病の予防措置 |
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・感染症・食中毒の予防処置 ・救急処置 ・学校環境衛生の維持・改善の指導 |
・環境衛生検査への従事 ・学校環境衛生の維持・改善の指導と助言 ・学校で使用する医薬品、毒物、保健管理に必要な用具・材料の管理に関する必要な助言と指導 |
健康相談・保健指導
養護教諭、学校医その他の教職員は、健康診断や日常の健康観察の結果、持続的な観察・指導を必要とする児童生徒などを対象に、健康相談・保健指導を行います。
児童生徒の健康の保持増進を図ることを目的に、健康相談は『学校保健安全法』第8条に、保健指導は第9条に規定され、養護教諭や教諭、学校医など全教職員であたるものとされています。
健康相談における役割
実施者 | 役割 | 対象者 |
養護教諭 | ・健康相談や保健指導の必要性の判断 ・受診の必要性の判断 ・地域の医療機関などとの連携 |
・健康診断・日常の健康観察の結果、持続的な観察・指導を必要とする者 ・病気欠席がちのもの ・本人または保護者が健康相談の必要を認めた者 ・学校行事の参加の場合において必要と認めるもの |
学校医 学校歯科医 学校薬剤師 |
・受診の必要性の判断 ・疾病予防 ・治療などの相談 ・学校と医療機関などとの間に入り調整 |
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教諭 | ・健康観察により、児童生徒の問題を早期に発見する ・養護教諭、学校医などと協力し、組織的に健康相談・保健指導を行う |
健康診断
『学校保健安全法』で定める健康診断は、保健管理の中核であり、個人と学校の健康の保持増進を目指して実施されます。
児童生徒の健康診断(定期・臨時)、職員の健康診断(定期・臨時)、就学時健康診断があります。
医療機関での検診・検査のように確定診断を意図したものではなく、スクリーニングとして、疾病・異常のある者、疑いのある者を選び出し、適切な事後措置をとることを目的としています。
健康診断の種類
就学時健康診断 | 定期健康診断 | 臨時健康診断 | |
対象者 | 小学校就学予定者 | 児童生徒等 | 児童生徒等 |
実施者 | 市町村教育委員会 | 学校 | 学校 |
実施時期 | 就学4ヶ月前まで | 毎学年6月30日まで | 次にあげるような場合で、必要があるときに、必要な検査項目について行う ・感染症または食中毒が発生したとき ・風水害などにより感染症の発生のおそれのあるとき ・夏季における休業日の直前または直後 ・結核、寄生虫病その他疾病の有無について検査を行う必要のあるとき ・卒業のとき |
内容 | ・栄養状態 ・脊柱、胸郭の疾病・異常の有無 ・視力・聴力 ・眼の疾病・異常の有無 ・耳鼻咽頭疾病・皮膚疾病の有無 ・歯・口腔の疾病・異常の有無 |
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・その他の疾病・異常の有無 | ・身長・体重 ・結核 ・心臓の疾病・異常の有無 ・尿 ・その他の疾病・異常の有無 |
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事後措置 | ・治療の勧告 ・保険上必要な助言 ・就学義務の猶予・免除 ・特別支援学校への就学に関する指導 など |
・疾病の予防処置 ・治療の指示 ・検査・予防接種などの指示 ・特別支援学校への編入についての指導・助言 ・学習・運動・作業の軽減、停止等 ・修学旅行等への参加の制限 など |
就学時健康診断
市町村教育委員会は、小学校入学予定者の心身の状況を把握し、治療の勧告、保険上必要な助言を行うとともに、適正な就学を図るため就学時健康診断を行います。
児童が就学基準(障害の程度の基準)に該当した場合、市町村教育委員会は本人・保護者、専門家の意見を聞いた上で、小学校、特別支援学校への入学など就学に関する決定を行います。
定期健康診断の検査項目
児童生徒などの定期健康診断は集団検診として学校長が実施します。
文部科学省では疾病構造の変化や医療技術の進歩を踏まえて、診断項目や実施方法などの見直しを適宜行っています。
定期健康診断は、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学の全学年で毎年行われています。
保健調査、聴力・結核・心電図は特定の学年のみ行われます。
定期健康診断の検査項目と実施学年
項目 | 検査法 | 疾病異常 | |
全 学 年 で 実 施 |
身長・体重 | 低身長 | |
栄養状態 | 栄養不良、肥満傾向・貧血等 | ||
眼 | 感染性疾患、その他の外眼部疾患、眼位等 | ||
耳鼻咽喉頭 | 耳疾患、鼻・副鼻腔疾患、口腔咽喉頭疾患、音声言語異常等 | ||
皮膚 | 感染性皮膚疾患 湿疹など |
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心臓 | 臨床医学的検査 | 心臓の疾患・異常 | |
その他の疾病 | 臨床医学的検査 | 結核疾患、心臓結核、腎臓結核、ヘルニア、言語障害、精神障害、骨・関節の異常 | |
大 学 で 省 略 可 |
脊柱、胸郭肢、四肢、骨、関節 | 骨・関節の異常等 | |
視力 | 視力表 | 屈折異常、不同視等 | |
歯・口腔 | う歯、歯周疾患、歯列 | ||
尿 | 試験紙法 | 腎臓の疾患、糖尿病 |
特 定 の 学 年 の み 行 う |
聴力 | オージオメータ 【幼、小1・2・3・5、中1・3、高1.3】 |
聴力障害 |
結核 | 問診 【小、中】 X線撮影 【高1、大1】 |
結核 | |
心臓 | 心電図 【小1、中1、高1】 |
心臓の疾患・異常 | |
保健調査 | アンケート 【小、中、高校】 |
学校感染症
学校での感染症は、児童生徒の健康や教育活動に大きな影響があります。
そのため、学校における感染症の予防と拡大防止は重要です。
出席停止期間は、人に容易に感染させうる病原体を多量に排出している期間を基準としています。
罹患した児童生徒は、その期間は集団の場に入ることを避ける必要があります。
感染症の種類と出席停止期間の基準
感染症の種類 | 出席停止期間の基準 | |
第 1 種 |
・エボラ出血熱 ・クリミア ・痘そう ・南米出血熱 ・マールブルグ病 ・急性灰白髄炎 ・重要急性呼吸器症候群 ・中東呼吸器症候群 ・鳥インフルエンザ ・ペスト ・ラッサ熱 ・ジフテリア |
治癒するまで |
第 2 種 |
インフルエンザ | 発症後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児は3日)を経過するまで |
百日咳 | 特有の咳が消失、または5日間の抗菌性物質製剤による治療終了まで | |
麻しん | 解熱後3日を経過するまで | |
流行性耳下腺炎 | 腫脹が発現後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで | |
水痘 | 全ての発しんが痂皮化するまで | |
咽頭結膜熱 | 主要症状消退後2日を経過するまで | |
結核 | 学校医、その他の医師をおいて感染のおそれがないと認めるまで | |
髄膜炎菌性髄膜炎 | ||
第 3 種 |
・コレラ ・細菌性赤痢 ・腸管出血性大腸菌感染症 ・腸チフス ・パラチフス ・流行性角結膜炎 ・急性出血性結膜炎 ・その他の感染症 |
学校医、その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで |
出席停止・臨時休業
学校における感染症の流行を防ぐための措置として、『学校保健安全法』に基づき、学校長は感染または感染した疑いのある児童生徒の出席停止を決定します。
また、学校設置者は学校の全部または一部(学級・学年)の臨時休業の決定をします。
学校長は出席停止の決定を行った場合、学校設置者に報告し、学校設置者は保健所へ連絡します。
学校設置者は臨時休業の決定を行った場合、保健所へ連絡することになっています。
学校環境衛生活動
児童生徒や職員の健康を保持増進する上で維持されることが望ましい基準として、『学校保健安全法』は学校環境衛生基準を定めています。
学校薬剤師は、この基準の項目について定期・臨時に検査を行います。
学校においては、定期・臨時の検査のほか、日常的な検査を行い、環境の維持・改善を図る必要があります。
教職員は毎授業日に点検を行い、常に良好にその環境の維持改善を行います。
教室等の環境に係る基準
- 換気・保温等
換気、湿度、相対湿度、浮遊粉じん、気流、一酸化炭素、二酸化炭素、揮発性有機化合物、ダニ、ダニアレルゲン - 採光・照明
教室の照度の下限値は300LX、コンピュータ教室は机上500~1,000LXが望ましい - 騒音
教室内の等価騒音レベルは閉窓時50㏈以下、開窓時55㏈以下が望ましい
飲料水等の水質
- 飲料水の水質
遊離残留塩素0.1㎎/L以上、大腸菌が検出されないこと、有機物3㎎/L以下 - 飲料水に関する施設・設備
給水源の種類、維持管理状況等、貯水槽の清潔状態 - 雑用水の水質、雑用水に関する施設・設備
学校の清潔、ネズミ、衛生害虫等
- 学校の清潔
大掃除の実施、雨水の排水溝等、排水施設・設備 - ネズミ、衛生害虫等
生息が認められないこと - 教室などの備品の管理
黒板面の色彩
水泳プールに係る基準
- 水質
遊離残留塩素0.4~1.0㎎/L、大腸菌が検出されないこと - 施設・設備の衛生状態
プール本体の衛生状況、浄化・消毒設備の管理状況
日常における環境衛生に係る基準
- 換気
- 飲料水の水質
- 学校の清潔
- プール水等
- 明るさ
- 騒音
- 飲料水等の施設・設備
- 雑用水の水質
- ネズミ、衛生害虫
- プール付属施設・設備等
慢性疾患の児童生徒の保健管理
慢性疾患や医療的ケアを要する児童生徒は増加傾向にあります。
彼らの学校生活を保障するため、学校と学校医や主治医との連携による保健管理は重要です。
学校では、主治医が作成した学校生活管理指導表に基づき、当該児童生徒の学校でも活動や運動に関する管理を行っています。
小児慢性疾患は特に治療が長期にわたり、医療費の負担も高額となることなどからその治療の確立と普及を図り、医療費の自己負担を補助する「小児慢性特定疾病医療費助成制度」が設けられています。