パートなど短時間労働者が厚生年金や健康保険に入りやすくなるための制度改正を巡る議論が本格化します。
政府は2023年5月30日、従業員101人以上となっている企業規模要件の撤廃に向けた検討を始めました。
少子高齢化を見据えて、多くの労働者を手厚い社会保障に加え、年金制度の支え手不足にも備える狙いです。
2024年末までに詳細を詰め、次期年金制度改革をまとめる2025年以降の新制度導入を目指しています。
詳しく解説していきます。
厚生年金の加入条件を緩和する目的
厚生年金の適用を拡大する背景には、非正規やシニア労働者の増加、女性の一層の社会進出といった働き方の多様化があります。
類似の仕事をしていても厚生年金の対象外となるなど不公平感あるなどの声が上がっています。
企業規模に限らず収入に見合った給付を見込めるようにすることで、働き手の保障を増やします。
加入条件を緩和することで就労意欲を掻き立て人手不足や年金制度の支え手不足の解消につなげたい意図もあります。
厚生年金の加入要件
厚生年金は要件を満たしている人の加入が義務付けられていますが、実際の加入要件とはどのようなものか見ていきましょう。
会社に勤める会社員の場合
まず、勤務先が社会保険の加入義務のある事業所かどうかという基準があり、これを「適用事業所」といいます。
適用事業所となるのは、「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合も含む)」と「常に5人以上の従業員が勤務している個人の事業所」です。
これらは「強制適用事業所」と呼ばれ、社会保険の加入が義務付けられています。
会社に勤める会社員であれば、通常はこれらに該当するため、加入要件を満たしていることになります。
パートやアルバイトの場合
厚生年金適用事業所に勤務している70歳未満の人であれば、国籍や性別、雇われ方に関係なく厚生年金に加入できます。
なので、厚生年金の適用事業所に勤務していれば、パートやアルバイトであって下記の4つの要件を満たすことで厚生年金に加入できます。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 賃金の月額が8万8000円以上
- 学生でない
- 従業員101人以上の事業所
2024年10月からは51人以上に要件を緩和
厚労省はこれまでも企業規模要件を段階的に見直してきました。
2022年10月には101人以上が勤める企業に対象を広げ、2024年10月からは51人以上に要件を緩和することが決定されています。
要件を撤廃した場合、試算では130万人程度加入者数が増え、雇用者全体の86%(現在は81%)に及ぶことになります。
厚生年金の企業規模要件はいずれ撤廃される
厚労省は30日に開いた社会保障審議会の年金部会で厚生年金の適用拡大の議論を開始しました。
2016年から始まった企業規模要件の段階的緩和は、要件撤廃で総仕上げとなります。
社会保障審議会では「雇用形態や勤務先の規模の違いで、社会保険の適用が変わるのは不適合」など、理解を示す意見が相次ぎました。
加入者増加で企業の負担は増える
課題は企業の負担です。
労使折半による保険料負担の増加が利益を圧迫する可能性があります。
社会保険料の発生を避けるために就業時間を短縮する従業員がいれば人材の追加確保などの経費が発生する可能性があります。
社会保障審議会では、企業の負担増への政策支援を求める声も上がっています。
厚生年金目当てで就業する人増加
厚生年金の適用拡大には企業側がかつて難色を示してきました。
しかし近年の人手不足で人材の獲得や定着が難しさを増すなか、負担増に対する抵抗感は弱まりつつあります。
中小企業団体の関係者からは「年金制度が従業員の就業継続を後押しするものであれば、ありがたい援軍だ」との声もあります。
厚生年金の対象業種の拡大を目指す
個人事業所で働く人の厚生年金の対象業種の拡大も進めます。
常時5人以上が勤める個人事業所について、非適用業種となっている宿泊や飲食などの追加や、5人未満が勤める事業所についても適用を検討します。
海外ではドイツが、フリーランスや自営業者についても特定の職種は日本の厚生年金に近い制度の対象にしています。
世界的に増えている単発で仕事をする「ギグワーカー」の保障を探る議論も欧米では出ています。
日本でも2022年12月に政府がまとめた全世代型社会保障構築会議の報告書で、フリーランスやギグワーカーを対象に「新しい類型の検討も含めて、被用者保険の適用について検討を深める」と明記されました。
厚労省は今後、週20時間未満の労働者やフリーランスなど多様な労働者を社会保険に加える勤労者皆保険も視野に議論を深める考えです。
年収の壁や第3号被保険者の扱いなどもテーマとなります。