厚生労働省は新型コロナウイルスワクチンを接種しない労働者や求職者に不利益が生じないよう企業に対応を促します。
接種しないことだけを理由とした解雇や雇い止めは許されないとし、接種を採用条件とする場合も理由などの明示を呼びかけます。
健康上の理由などでワクチンを接種できない人に差別的な扱いが生じないための配慮です。
ワクチン接種は国や企業が強制はできない
首相官邸によると2021年11月1日時点で2回接種を終えた人は全人口の72・0%に達しています。
政府は希望するすべての人が11月中に2回目の接種を終えることを目標に掲げます。
日本では予防接種法で「接種を受けるよう努めなければならない」と定め、ワクチン接種を「努力義務」と位置付けています。
実際に接種するかどうかは個人の自由意思に基づき、国や企業が強制はできません。
ただ海外では航空会社などで従業員のワクチン接種を義務化する動きが広がっています。
日本でも家電量販店や外食チェーンなどで従業員の名札に接種済みを証明するシールなどを掲示し、接客にあたらせる試みも出ています。
接種拒否のみを理由として解雇は許されない
一般的に急性疾患にかかっている人や、ワクチン成分に対し重度の過敏症の既往歴のある人らは接種ができません。
日本弁護士連合会が10月上旬に実施したワクチンに関するホットラインには「接種しないことを理由に解雇された」「仕事を回さなくすると告げられた」といった悩みが寄せられたと言っています。
取引先から未接種者のリストを提出するよう求められたとの相談もあったといいます。
こうした事態に対応するため、厚労省はホームページの「新型コロナウイルスに関するQ&A」を更新し、企業が従業員や求職者に取るべき方針を盛り込みました。
「接種拒否のみを理由として解雇、雇い止めを行うことは許されない」と明記しました。
配置転換への同意を無理に強要すればパワーハラスメント
顧客と接しない業務などへの配置転換には慎重な対応を呼びかけています。
企業には感染防止対策で代替できないか検討し、元の業務に戻れる時期などを説明して労働者の理解を深めるよう努めることを求めます。
配置転換への同意を無理に強要すれば「パワーハラスメントに該当する可能性がある」とも記しました。
強制的な解雇や配置転換は労働契約法や過去の判例に照らして「権利乱用」にあたる場合があります。
接種を採用条件とすることについて
接種を採用条件とすることについては「その理由が合理的か求人者が十分に判断し、応募者にあらかじめ示して募集を行うことが望ましい」としました。
企業側にも採用の自由があり、条件とすることを禁じる法令はありません。
ただ国は本人の適性や能力に応じた公正な採用活動を求めており、「接種の有無で不採用とするのは望ましくない」(厚労省担当者)としています。
人材サービス大手のエン・ジャパンは求人サイトの応募資格に「ワクチン接種済み」と表記できないようにしています。
接種済みの人を歓迎するという表記も「打てない人もいるため就労差別につながりかねない」(広報担当者)との立場です。
一方、求人サイト「バイトル」を運営するディップは接種を採用条件とすることは掲載を認めないが、接種者への手当支給など奨励策は載せる対応をとっています。