この記事では、日本の「雇用保険」制度について解説していきます。
雇用保険の基本的な情報を網羅していますので、コレだけ読めば自身や家族の保障状況を理解できます。
雇用保険とは、社会保険の1つです。
社会保険には下記の5つがあります。
社会保険は日本の社会保障制度の一部です。
公費負担、事業者負担、応能保険料負担等の制度を用いて、保険集団の範囲を強制的に拡張することにより、所得の再分配による国民の生活保障を図っています。
雇用保険とは
雇用保険とは、労働者が「失業した場合などに必要な給付」を行い、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに「再就職の援助」を行うことなどを目的とした雇用に関する総合的な機能をもった社会保険制度です。
財源は雇用者と雇用主が社会保険として負担するほか、国費(税金)も投入もされています。
公共職業安定所(ハローワーク)との繋がり
市民の窓口が市役所であるならば、労働者や事業主の窓口は公共職業安定所(ハローワーク)になります。
事業主は、雇用保険法に基づき、適用基準を満たす労働者について、事業主や労働者の意思に関係なく、被保険者となった旨を公共職業安定所(ハローワーク)に届け出なくてはいけません。
この被保険者資格取得の届出が適正になされていないと、労働者の方が失業した場合などに支給される給付について、不利益を被る事態を生じることがあります。
事業主は、このような事態を生じさせないよう、新たに労働者を雇い入れた場合には、雇用保険の被保険者資格取得の届出を事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に必ず行く必要があります。
厚生労働省では、このような事態を防止するため、雇用保険の被保険者資格取得の届出が適正になされているか否かの確認を労働者の方々が公共職業安定所(ハローワーク)に自ら照会できる仕組みを設けています。
また、雇用保険の被保険者資格取得の届出が事業主によりなされていない方でご自分が雇用保険の適用基準を満たしていると思われる方は、事業主または公共職業安定所(ハローワーク)に相談してください(適用基準を満たしている方は、一定期間遡って雇用保険に加入できることもあります)。
「雇用保険」と「労災保険」を合わせて『労働保険』
労働保険とは、「労災保険(労働者災害補償保険)」と「雇用保険」を合わせた総称です。
2つの保険の給付についてはそれぞれ別々に支払われますが、保険料については両保険を1年分まとめて納めることになります。
「労災保険」は全額を事業主が負担しますが、「雇用保険」は事業主と労働者双方が負担します。
雇用保険の加入条件
雇用保険の加入条件は「正規雇用」と「非正規雇用」によって異なります。
正規雇用の加入条件は3つ
「正規雇用」の場合、雇用保険に加入するのに必要な条件は下記の3つです。
条件1:最低31日間以上働く予定
条件2:1週間あたり20時間以上の所定労働時間
条件3:(原則)学生ではない
それぞれわかりやすく説明していきます。
条件1:最低31日間以上働く予定
雇用保険に加入するには、31日間の就業予定が必要です。
予定で問題ないので、31日間以上雇用が継続しないことが明確である場合を除き、すべてが該当します。
条件2:1週間あたり20時間以上の所定労働時間
雇用保険に加入するには、1週間あたり20時間以上の所定労働時間が必要です。
つまり、一時的に週20時間以上働いたことがあったとしても、契約上の所定労働時間が週20時間未満となっている場合は、この要件時間を満たさないため注意が必要です。
条件3:(原則)学生ではない
原則として学生は雇用保険に加入できません。
しかし、卒業見込証明書を有する者であって卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一の事業主に勤務することが予定され、一般労働者と同様に勤務し得ると認められる場合は、雇用保険の加入対象者となります。
学生が企業から内定をもらい、卒業前からその企業で勤務を始めるケースなどがこれに当たります。
※上記の雇用保険に加入する条件1・2に該当する必要があります。
非正規雇用の加入条件
パートやアルバイト、派遣社員などの非正規雇用の場合は、週の所定労働時間が20時間以上で、継続して31日以上雇用される見込みのある者が加入します。
1年に満たない、ある特定期間のみ働く季節労働者の場合は、雇用保険の「短期雇用特例被保険者」になります。
この短期雇用特例被保険者が失業した場合、基本手当(失業手当)の代わりに「特例一時金」という給付金を受けることができます。
1日単位の単発の仕事に従事する者や雇用期間が30日以内の者を「日雇労働者」といいます。この日雇労働者については、下記の3つの要件のうちいずれかに該当する者は、日雇労働保険の加入対象者となります。
- 適用区域内に居住し、適用事業に雇用される者
- 適用区域外に居住し、適用区域内の適用事業に雇用される者
- 適用区域外に居住し、適用区域外の適用事業で、日雇労働の労働市場の状況その他の事情に基づき厚生労働大臣が指定したものに雇用される者
雇用保険の保障内容
雇用保険の保障は全部で3つあります。
その①:失業給付金
その②:教育訓練給付金
その③:その他の給付金
それぞれわかりやすく説明していきます。
その①:失業給付金
雇用保険の保障のメインはなんと言っても「失業給付金」ですね。
その失業給付金を受けるためには条件があります。
ほかにも、「失業した理由」によって給付にかかる時間が違ったり、「年齢」や「被保険者期間」によって給付日数の限度期間が違います。
1:失業給付金を受ける条件
2:失業給付金の支給金額
3:失業給付金の給付日数
4:再就職手当
それぞれわかりやすく説明していきます。
1:失業給付金を受ける条件
失業給付金を受けるためには、3つの条件をクリアーしなければいけません。
- 失業状態であること
- 被保険者期間(自己都合・倒産、解雇)
- ハローワークに求職の申し込みをしている
それぞれわかりやすく説明していきます。
・失業状態であること
「失業状態」とは、労働しようという意思と能力があり、積極的に仕事に就くための転職活動をしていながら、仕事に就くことができない状態にあることを指します。
下記の場合は失業状態とは認められません。
- 家業や家事の手伝いをしている
- 学業に専念することになった
- すでに次の就職先が決まっている
- 自営業を始めた(準備を含む)
- 会社や団体などの役員に就任した(予定も含む)
・被保険者期間(自己都合・倒産、解雇)
・自己都合による退職の場合、退職日以前の2年間に雇用保険加入期間が通算12カ月以上必要です。
・倒産・解雇など会社都合により離職した場合では、退職日以前の1年間に雇用保険加入期間が通算6ヶ月以上必要です
※1カ月として数えられる基準は賃金支払いの基礎となった日数が11日以上ある月のことです。
・ハローワークに求職の申し込みをしている
ハローワークで渡される「求職票」に氏名や住所、経歴や就職の希望条件などを記入し、提出することで求職の申し込めます。
2:失業給付金の支給金額
雇用保険で受給できる1日当たりの金額を「基本手当日額」といいます。
退職前6カ月の賃金(ボーナスを除く)の総額を180で割った「賃金日額」に、50~80%の給付率を掛けた金額が支給されることになります。
およそ離職前の賃金の5割から8割程度に相当し、給付率は元の賃金によって異なり、金額が低い方ほど率が高くなります。
下記は「基本手当日額」の計算方法と金額を示した表です。
離職時の年齢が65歳以上の方が高年齢求職者給付金を受給する場合も、この表を適用します。
3:失業給付金の給付日数
次の仕事が決まるまでの間、「所定給付日数」までの期間を限度として基本手当の支給を受けることができます(その間は「失業認定」を毎月受ける必要があります)。
所定給付日数は、離職理由、離職時の年齢、被保険者であった期間などによって決定され、具体的には以下のとおりです。
被保険者の期間 | 1年未満 | 1年~5年未満 | 5年~10年未満 | 10年~20年未満 | 20年以上 |
自己都合、定年退職などにより離職した方 | |||||
全年齢共通 | 90日 | 120日 | 150日 | ||
倒産、解雇などにより離職した方 | |||||
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | |
30歳~35歳未満 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳~45歳未満 | 240日 | 270日 | |||
45歳~60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳~65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
障がいを持つ方など就職困難な状況にある方 | |||||
45歳未満 | 150日 | 300日 | |||
45歳~65歳未満 | 360日 |
4:再就職手当
再就職手当とは、条件をクリアーして職業に就いた場合に支給される手当です。
受給には下記の条件を満たす必要があります。
- 基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上
- 1年を超えて安定的に雇用されることが確実である職業に就く
- 再就職先で雇用保険の被保険者資格を取得
- 待期期間経過後に就職
- 離職前の事業主、また関連会社など密接な関係にある事業主に再び雇用されたものでない
- 受給資格決定前に内定を受けた事業主に雇用されたものでない
- 給付制限を受けた場合、待期期間経過後1カ月間については、ハローワークの紹介または、厚生労働大臣が許可した職業紹介事業者の紹介により職業に就いた
- 過去3年以内の就職について、再就職手当、常用就職支度手当の支給を受けていない
- 申請後すぐに離職していない
再就職手当の支給額は「所定給付日数の支給残日数×50%(または60%)×基本手当日額」です。
支給残日数によって、50%・60%なのかが決まります。ただし基本手当日額の上限は、5,805円(60歳以上65歳未満は4,707円)です。
その②:教育訓練給付金
教育訓練給付金とは、資格取得や講座の受講をした場合に費用の一部が支給されるものです。
保障の対象者は、仕事をしている方、または雇用保険の被保険者でなくなった(離職した)日から1年以内に受講されることが必要です。
雇用保険に3年以上加入していれば対象となることができます。また、初回は1年以上加入されていれば対象となることができます。
教育訓練給付金は下記の2つがあります。
1:一般教育訓練受講に係る教育訓練給付金
2:専門実践教育訓練受講に係る教育訓練給付金
それぞれわかりやすく説明していきます。
1:一般教育訓練受講に係る教育訓練給付金
教育訓練経費の20%に相当する額が給付されます。
支給額の上限は10万円で、教育訓練経費が4,000円(税込)を超えない場合は給付されません。
2:専門実践教育訓練受講に係る教育訓練給付金
教育訓練経費の50%に相当する額が給付されます。
給付額の上限は年間40万円です。
また、専門実践教育訓練の修了後定められた資格等を取得し、受講修了日の翌日から1年以内に被保険者として雇用された方、または既に雇用されている方に対しては、教育訓練経費の20%に相当する額を追加して給付されます。
この場合、既に給付された訓練経費の50%と併せて合計70%に相当する額が給付されることになり、上限は年間56万円となります。
その③:その他の給付金
その①・②の他にも、高年齢雇用継続給付、育児休業給付金、介護休業給付金といった給付金を受けることができます。
高年齢雇用継続給付は、高齢化社会が進む日本社会において、高齢者が安心して働き続けられることを目的とした制度です。
雇用保険の被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の一般被保険者について、60歳以降の賃金が60歳時点に比べて75%未満に低下した状態で労働を続ける場合に給付されます。
育児や介護といったやむを得ない事由により退職しなければならなくなった場合でも、申請が認められれば、一定額の給付を受けることができます。
失業給付金(失業手当)を受けるまでの流れ
失業給付金(失業手当)を受けるまでの流れは下記のとおりです。
ステップ①: 離職証明書の確認と離職票の受領
ステップ②: ハローワークへ失業手当の申請
ステップ③ :雇用保険受給者説明会に参加
ステップ④: 失業認定日に求職活動の報告
ステップ⑤ :失業手当を受給
それぞれわかりやすく説明していきます。
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1離職証明書の確認と離職票の受領
まず会社が「離職証明書」を発行し、離職理由などの記載内容について離職者本人に確認します。内容に問題がなければ、離職者が記名捺印またはサインをします。
それを受けて、離職日の翌日から10日以内に、会社が捺印済みの離職証明書と添付書類をハローワークに提出します。ハローワークが提出された書類を確認後、「雇用保険被保険者離職票」を会社に発行し、それが離職者へ届けられます。この離職票が失業手当の受給に必要です。
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2ハローワークへ失業手当の申請
手続きに必要なモノは下記のとおりです。
- 雇用保険被保険者離職票
- 離職票
- 身分証明書(運転免許証など)
- 写真2枚(縦3cm×横2.5cm)
- 本人名義の普通預金通帳(郵便局は除く)
- 印鑑
- 求職申込書
- 個人番号確認書類
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3雇用保険受給者説明会に参加
説明会の講習を受講すると、受給に必要な雇用保険受給資格者証と失業認定申告書を受け取ることができます。
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4失業認定日に求職活動の報告
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5失業手当を受給
失業認定日とは?
失業認定日とは「失業状態」にあることを確認する日です。指定された日にハローワークへ行き、求職活動の状況を申告するなど手続きを行うことで失業状態にあることの認定を受けます。
雇用保険の保険料
「雇⽤保険法等の⼀部を改正する法律案」が令和2年3⽉31日に国会で成⽴しました。令和2年4⽉1⽇から令和3年3⽉31日までの雇用保険料率は以下のとおりとなります。
※園芸サービス、⽜⾺の育成、酪農、養鶏、養豚、内⽔⾯養殖および特定の船員を雇用する事業については一般の事業の率が適⽤されます。
雇用保険料は、雇用保険料率×賃金総額で求められます。「賃金総額」には、通勤手当や深夜手当などの各種手当や賞与も含まれます。
一般の事業に勤める労働者の計算式(25万円)
一般の事業に従事し、賃金総額が25万円の労働者負担の場合の計算式を考えていきます。
一般事業の労働者の雇用保険料率は「1000分の3」です。
計算式は「雇用保険料=賃金総額×雇用保険料率」ですので、
25万円×1000分の3=「750円」となります。
まとめ
雇用保険とは、労働者が「失業した場合などに必要な給付」を行い、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに「再就職の援助」を行うことなどを目的とした雇用に関する総合的な機能をもった社会保険制度です。
雇用保険の加入条件は「正規雇用」と「非正規雇用」によって異なります。
雇用保険の保障は「失業給付金」「教育訓練給付金」「その他の給付金」の3つです。