11月30日、名古屋高裁で、2013~2015年の生活保護費の基準額引き下げは違法として、受給者13人が自治体による減額処分の取り消しや国に賠償を求めた訴訟の控訴審判決がありました。
裁判長は「著しく合理性を欠き、裁量権を逸脱している」として、処分を取り消した上で、国に1人あたり1万円の支払いを命じました。
厚生労働相には「重大な過失がある」とし、生活保護法に加え、国家賠償法上の違法も認定しました。
一連の訴訟は全国29の地裁で起こされていますが、国への賠償命令は初めてです。
一審の名古屋地裁判決では原告側の請求を退けていました。
詳しく解説していきます。
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デフレ調整で平均6・5%引き下げられていた
国は2013~2015年、物価下落率を踏まえる「デフレ調整」と、生活保護受給世帯と一般の低所得者世帯の生活費を比べて、不公平感をなくすための「ゆがみ調整」を行いました。
生活保護費の基準額を改定し、生活保護費のうち食費や光熱費などに充てる「生活扶助」は改定前と比べて平均6・5%引き下げられ、計約670億円が削減されました。
減額処分は生活保護法に違反
訴訟では、物価下落率を踏まえる「デフレ調整」を決めた厚労相の判断の妥当性が争われました。
判決はデフレ調整について、厚労省が生活保護受給世帯の支出が比較的少ないテレビやパソコンなどの物価下落率を重視する「実態とかけ離れた」指数を用いたなどと指摘。
ゆがみ調整の手法も「公平とはいえない」として、いずれも「統計等の客観的な数値などとの合理的関連性や専門的知見との整合性を欠く」と判断。
これらを根拠とした減額処分は生活保護法に違反し「取り消されるべき」と判決しました。
精神的苦痛を与えたとして、国の賠償義務も認める
その上で、「過去に例のない大幅な引き下げ」により「受給者は元々余裕のある生活でなかったところ、さらに余裕のない生活を強いられた」と問題視。
生活扶助は憲法が保障する生存権を基礎とする制度だとも言及し、減額処分を取り消しても精神的苦痛は残るとして、国の賠償義務を認めました。
一連の訴訟は全国29の地裁で起こされ、判断は割れている
2020年6月の一審判決は「物価下落を基準に反映した判断が不合理とはいえない」と指摘しており、基準算出の根拠にも裁量権の逸脱は認められないとして、引き下げは適法としていました。
一連の訴訟は全国29の地裁で起こされています。
高裁での判決は、原告側敗訴とした大阪高裁に続き2件目です。
減額処分を巡っては、これまでに出た22件の一審判決のうち12件が取り消しを認めており、司法判断は割れています。
厚労省は「判決内容を精査し関係省庁や自治体と協議し、適切に対応したい」としています。