政府が12月5日に公表した社会保障改革の工程の素案に、金融資産や所得を加味して高齢者らの負担を検討する項目が盛り込まれました。
年金などの収入が少なくても、多額の資産を持つ高齢者に一定の負担をしてもらう考えです。
工程には医療・介護を中心に幅広い改革案が列挙されていますが、現役世代の負担を抑制できるかは不透明です。
最大のハードルは世帯ごとの金融資産を把握する事務作業でしょう。
詳しく解説していきます。
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70代の金融資産残高は平均で1700万円ほどある
改革工程の狙いは少子化財源の捻出と「給付は高齢者、負担は現役世代」に偏る社会保障の仕組みの是正の2点です。
金融資産を加味した負担は、これまで財政制度等審議会などが主張してきましたが、ようやく政府全体で検討する段階にはいりました。
支払い能力に応じた拠出を徹底する観点から重要な改革となりそうです。
高齢者は現役世代と比べて所得水準は低いですが、資産を多く保有しています。
総務省の資料によれば、世帯主が70代の金融資産残高は平均で1700万円ほどある一方、30代は550万円ほどです。
給与収入がなくても金融資産を持つ高齢者は少なくありません。
しかし、今の医療や介護の利用者負担は預貯金や株式の保有状況に関係なく、所得が一定以下であれば1割負担で済んでいます。
現在は負担能力の判断に資産額は考慮されていない
現在は介護保険の一部をのぞき、負担能力の判断に資産額は考慮されていません。
具体的な議論は厚生労働省の審議会で行われますが、資産を多く保有する高齢者の医療費の自己負担を2割や3割に上げるかどうかなどが検討課題です。
株式の売却益や配当収入といった金融所得を勘案した負担の検討も掲げられています。
現在は確定申告すれば金融所得が保険料に加味されます。
申告の有無に関わらず負担するようになれば、不公平も是正されます。
若い世代であっても育児世帯など社会の支えが要る人は助け、再分配に要する費用は年齢に関係なく負担能力に応じて分担する。
こうした理念に照らせば、医療や介護の負担に資産の勘案を入れるのは当然といえます。
2028年までに社会保障費の負担に金融資産も考慮
こうした取り組みは2028年度までに実施を検討する項目として盛り込まれました。
他にも医療・介護で3割を自己負担する「現役並み」の所得がある高齢者の対象拡大の検討を掲げました。
医療では後期高齢者の負担は原則1割で、一定の所得がある人は2割、現役並みの所得がある人は3割になっています。
「現役並み」は単身で年収383万円以上で全体の7%ほどにとどまっています。
ハードルは世帯ごとの金融資産を把握する事務作業
最大のハードルは世帯ごとの金融資産を把握する事務作業です。
政府が資産勘案を検討するのは初めてではありません。
安倍晋三政権が2015年に決めた経済財政運営と改革の基本方針に「マイナンバーを活用すること等により、金融資産等の保有状況を考慮に入れた負担を求める仕組みを検討する」と明記していました。
しかし検討を行った厚生労働省の審議会は2016年末に「金融資産を正確に把握する仕組みがない現状では尚早」との報告を出し、棚上げになっていました。
社会保障給付費は2040年に130兆円超から190兆円に膨らむ
高齢化に伴う費用は急増しています。
政府が2018年時点でまとめた推計では、2040年度に公費と保険料で負担する社会保障給付費はおよそ190兆円に膨らみます。
足元の130兆円超から4割以上増えることになります。
これまでは抑制が進まなかった給付を、税に比べて拒否感が少ない社会保険料の「ステルス負担増」で賄ってきました。
健康保険と介護保険、厚生年金(18.3%、労使折半)を足した社会保険料率は合計30%近いです。
過去20年で7ポイントも上昇しています。
経済界はより踏み込んだ改革案を提案している
経済界は現役世代に偏る負担の是正に向け、より踏み込んだ改革案を提案しています。
経済同友会が11月に示した試算は原則1割となっている後期高齢者医療費の窓口負担や、介護費用の自己負担の原則2割への引き上げなどを掲げました。
国・地方合わせた公費ベースで年3兆円ほど抑えられる可能性があるといっています。