この記事では「感染症」について解説していきます。
災害があった時などは、救援を求めるために避難所へ行ったりもしますが、感染症が発生している場合はそういうわけにはいきません。
人が集まれば感染が広まるからです。
ということは、感染症が広まっている時は避難をすることが難しく、自助の努力が求められそうです。
平時の時にこそ感染症に対する知識を集め、必要な備えをすることが重要です。
この記事を読めば、感染の「3大因子」「分類」「発生率」「感染経路」「免疫」などを知ることができます。
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感染症とは
病原体となる微生物(細菌、真菌、ウイルスなど)が宿主となる生物に進入・定着し、増殖することを感染といい、感染のための宿主が何らかの症状を呈(てい)する状態を感染症といいます。
感染の3大因子
感染には病気を引き起こす「病原体」、感染対象である「宿主」、及びその両者を仲介する「感染経路」の3つの因子が関わります。
感染が成立するためにはこの3因子すべてが必要であり、このうち1つでも予防されれば感染は起こりません。
感染の3つの因子それぞれに対して対策を立てることにより、感染症の蔓延を効率的に防ぐことができます。
感染源の分類
病原体が定着・増殖している場(感染源)は、ヒト・動物(生物)・無生物のいずれかに分類することができます。
ヒトではさらに症状の有無によって、「発症者」と「無症状病原体保有者(キャリア)」に分けられます。
キャリアは病識なく日常を送るため、発症者に比べて対策をとることが難しく、流行に与える影響も重大です。
発症者と接触はあったが感染が成立したかどうか不明なヒト(接触者)は、検疫・自宅待機など、キャリアに準じた対応をとることがあります。
感受性指数(発生率)
病原体が宿主に感染した際、発症する確率を感受性指数もしくは発症率といいます。
感染指数の高い病原体は感染者≒発症者となるため、感染予防の対策が取りやすく、天然痘のように地球上から根絶を達成した疾患もあります。
一方で、感受性指数の低い病原体は感染者>発症者となるため、感受性指数の高い疾患よりも感染源対策が困難となります。
メモ
≒の意味。ニアリーイコールは、ほとんど等しいという意味です。
感染経路
病原体が感染源から新たな宿主に進入するまでの経路を感染経路といいます。
感染経路は母子間特有の接触に基づく垂直感染(母子感染)と、それ以降の水平感染とに大別され、水平感染はさらに感染源との距離的・時間的関係から、接触感染、飛沫感染、空気感染、媒介物感染、媒介動物感染に分けられます。
これ等の感染経路の概念はときに重複します(例えば医療器具を介した感染は、間接的な接触感染とも媒介物感染とも取ることができます)。
また、1つの疾患が複数の感染経路をとることもあります。
感染経路 | 感染の流れ | |
水 平 感 染 |
接触感染 | 感染源(感染者)に直接接触することによって感染、または医療機関などを介して接触することによって感染 |
飛沫感染 | 感染源(感染者)の咳の飛沫などに含まれている病原体が体内に入ることによって感染 感染源の1~2mで起こるとされている |
|
空気感染 | 感染源からの病原体を含む飛沫の水分が蒸発し、飛沫咳となり広く空気中を漂うことによって感染、または病原体がチリ・ホコリと一体になり空気中を漂うことによって感染 | |
媒介物感染 | 病原体に汚染された媒介物に接触、または飲食することによって感染 | |
媒介動物感染 | 病原体がヒトとはことなる動物種(ベクター)を介し、動物から再度ヒトへ起こる感染 病原体がベクターの体表に付着する機械的感染とベクター |
|
垂 直 感 染 |
経胎盤感染 | 出産前に胎児が胎盤を通過した病原体によって感染 |
経産道感染 | 分娩時に胎児が産道や母体血液中に存在する病原体によって感染 | |
経母乳感染 | 出産後に母乳中に分泌される病原体によって乳児が感染 |
宿主の抵抗力(免疫)
宿主に病原体が侵入した際、宿主の抵抗力が高ければ感染が成立しないか、あるいは軽度の発症で済みます。抵抗力が低ければ感染が成立する確率が高くなります。
人の場合、宿主の抵抗力には免疫が大きく関与します。
免疫には、様々な病原体に非特異的に働く「自然免疫(非特異的免疫)」と病原体に特異的に働く「獲得免疫(特異的免疫)」があります。
自然免疫
病原体の曝露を受ける前から有している宿主自身の抵抗力のことです。
多様な病原体に対して非特異的に働きます。
体内で働く自然免疫には、好中球、マクロファージ、NK細胞などがあります。
この他、咳やくしゃみ、粘膜の分泌・排泄機構、皮膚や腸管の常在菌などによる防御力も自然免疫に含まれます。
獲得免疫
病原体の曝露を受け、その病原体に対して特異的に獲得した抵抗力のことです。
宿主自身が曝露を受けて獲得した能動免疫と、他の宿主が獲得した能動免疫グロブリン(抗体)の形で受けて得た受動免疫とがあります。
獲 得 免 疫 |
能 動 免 疫 |
自 然 |
過去の感染での抗原曝露によって獲得した免疫 免疫力は一般的に強く、また長期に持続し、一生涯続くものもある |
人 工 |
ワクチン接種での抗原曝露によって獲得した免疫 ワクチンには病原性を弱めた弱毒化ワクチン(生ワクチン)、病原性をなくし抗原性のみ残した不活化ワクチンなどがある 免疫力は自然感染によるものよりも弱いことが多い |
||
受 動 免 疫 |
自 然 |
出生前に胎盤を介して、あるいは出生後に母乳を介して子が母より抗体を得ることにより獲得した免疫(母子免疫) 効果は産後6カ月頃まで持続する |
|
人 工 |
ヒトもしくは他の動物由来の免疫グロブリン(抗体)の静脈内投与により獲得した免疫 投与直後から効力があるが、効果は短期的で1カ月程度しか持続しない |
感染症の流行
ある集団において、一定期間に同一感染症が通常に比べて異常に高い頻度で発生することを流行(エピデミック)といい、感染症の流行する地域や集団が国境を超えて広範囲になった状況を汎世界流行(パンデミック)といいます。
流行が時間的・距離的に限局された範囲内で発生することを集団発生(アウトブレイク)といいます。例えば、集団食中毒やレジオネラ症がそれにあたります。
感染症が常在的に流行する状況を風土病(エンデミック)、または常在的発生といいます。
人獣(人畜)共通感染症
病原体がヒトとヒト以外の脊椎動物との双方に感染するものを人獣(人畜)共通感染症、ヒトのそれを動物由来感染症といいます。
本来は動物の感染症であったものがヒトに感染するようになったものが多いです。
特に、野生動物は感染予防策を講じることができないため、根絶が難しい。
ペットブームによる新たな動物種の輸入に伴い、新興感染症・輸入感染症の流行が懸念されています。
主な疾患 | 病原体 | 主な感染源 | |
ペ ッ ト ・ 家 畜 か ら 感 染 |
ペスト | ペスト菌 | ネズミ |
ラッサ熱 | ラッサウイルス | ネズミ | |
腎症候性出血熱 | ハンタウイルス | ネズミ | |
レプトスピラ症 | レプトスピラ | ネズミ、犬、猫 | |
猫ひっかき病 | バルトネラ菌 | 犬、猫 | |
狂犬病 | 狂犬病ウイルス | 犬、猫、コウモリ | |
Q熱 | コクシエラ菌 | 犬、猫、その他の家畜 | |
クリプトコッカス症 | クリプトコッカス | 犬、猫、鳩などの鳥類 | |
トキソプラズマ症 | トキソプラズマ | 猫(ほぼすべての哺乳類・鳥類) | |
エキノコックス症 | 単・多包虫条虫 | 犬、狐 | |
細菌性赤痢 | 赤痢菌 | サル | |
野兎病 | 野兎病菌 | ウサギ、プレーリードッグ | |
サルモネラ症 | サルモネラ属菌 | ミドリガメ、サル | |
オウム病 | オウム病クラミジア | オウム、インコ | |
日本脳炎 | 日本脳炎ウイルス | 豚、(増殖動物) | |
ブルセラ症 | ブルセラ属菌 | 豚、犬、牛、羊、鯨 | |
食 肉 魚 ・ 乳 製 品 か ら 摂 取 感 染 |
トキソプラズマ症 | トキソプラズマ | 鶏、豚 |
サルモネラ症 | サルモネラ属菌 | 鶏 | |
有鉤条虫症 | 有鉤条虫 | 豚 | |
無鉤条虫症 | 無鉤条虫 | 牛 | |
ブルセラ症 | ブルセラ属菌 | 牛、ヤギ(乳製品を介して) | |
アニサキス症 | アニサキス | サバ、サケ、タラ、イカ、サンマ | |
肝吸虫症 | 肝吸虫 | コイ、ハヤ、タナゴ、モロコ | |
肺吸虫症 | 肺吸虫 | サワガニ、モクズガニ | |
顎口虫症 | 顎口虫 | ライギョ、ドジョウ、フナ、ナマズ |