この記事では「救急医療」について解説していきます。
日本は欧米に比べ、心肺停止状態からの社会復帰率が低かったため、1991年に病院に到着する前に医療処置を実施できるように制度が変わりました。
もしもの時、自分が受けることになる医療はどのようになっているのか…。理解しているだけでも心の安心につながるかもしれません。
この記事を読めば、「救急医療を支える3要素」「救急医療体制」「救急車の出動状況」「救急救命士の仕事内容」などを知ることができます。
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救急医療とは
救急医療体制は、搬送される患者の状態によって、初期、二次、三次の3段階に分けられます。
都道府県の医療計画に基づき、二次医療圏ごとに救急医療体制の一元化が図られています。
傷病者の重症度を判別し、救護処置を行いながら、迅速に適切な診療能力のある病院に搬送することが必要になります。
救急医療を支える3要素
救命活動は傷病者の発見時からすでに始まっています。
心肺停止などを起こしたときに重篤な傷病者を救うには、「迅速な119番通報⇨心肺蘇生⇨除細動⇨二次救命処置」という円滑な『救命の連鎖』が必要になります。
救命につながる迅速な救急医療体制を構築する3要素は下記の3つです。
- 情報システム(119番)
- 救急搬送
- 医療機関
それぞれわかりやすく解説していきます。
情報システム(119番)
119番は地区の消防通信指令室につながります。
指令室は救急隊に出動指令を出し、救急隊が収集した傷病者の情報に基づいて病院を探します。
救急搬送
患者の観察と必要な救命・救護処置を行い搬送します。
救命率を上げるには病院前救護が非常に重要です。
医療機関
重症度に合わせた病院を選ぶことで適切な治療を施し、医療資源の効率化を図ります。
- 一時救急:軽症患者
- 二次救急:入院を要する患者
- 三次救急:生命の危険がある重篤患者
救急医療体制
日本の救急医療体制は、救急度と重症度に応じた、初期、二次、三次の階層状の構造になっていて、大学病院への救急患者の集中を回避しています。
初期救急医療機関は、外来診療で対応可能な救急患者を担当し、必要に応じて二次、三次の医療機関を紹介します。
二次救急医療機関は入院を必要とする重症患者の医療を行います。
三次救急医療機関は救命救急センターが担い、二次で対応できない重篤患者に高度な医療を提供します。
初期救急医療機関
初期救急医療機関には、外来で済む救急患者が搬送されます。
咽頭炎による発熱、入院不要のケガなどが該当します。
在宅当番制度を採用し、地域医師会などが実施しています。
一般診療所が当番で休日夜間診療を行っています。
休日夜間急患センターは、人口5万人以上の市に1ヵ所設置されています。
市町村および地域医師会が運営しています。
二次救急医療機関
二次救急医療機関には、入院が必要な患者が搬送されます。
急性虫垂炎、下肢の骨折などが該当します。
中規模の救急病院が担っています。
病院群輪番制によって、地域の救急病院が連携し、輪番で休日夜間の救急医療を担当します。
また、他病院の勤務医や開業医が救急病院に集まって対応する、共同利用型病院があります。
三次救急医療機関
三次救急医療機関には、重症患者や複数領域にまたがる重篤患者が搬送されます。
急性心筋梗塞、脳卒中などが該当します。
救命救急センターが担っています。
人口100万人に最低1ヵ所、それ以下でも各県に1ヵ所設置されています。
また、地域救命救急センターも担っています。
人口30~50万人で救命救急センターへの搬送に時間は要する狭域に設置されます。
広範囲熱傷、四肢切断などの重傷疾患を専門にする高度救命救急センターもあります。
救急車の出動状況
近年、救急車の出動が増加しています。
2018年の出動件数は約661万件で、過去最高の出動件数となりました。
その背景には、救急性の低いと思われる傷病者の増加があると考えられており、救急車の適正利用を促す広報や救急相談センター、民間救急コールの設置などの対策が講じられています。
出典:総務省「救急・救助の現状」
119番通用から到着までの現場到着所要時間(入電から現場に到着するまでに要した時間)は、全国平均で 8.6 分。
また、救急自動車による病院収容所要時間(入電から医師引継ぎまでに要した時間)は、全国平均で 39.3 分と、ともに遅延傾向にあります。
救急救命士の仕事内容
救急救命士は、医師の指示の下に、救急隊員が行える応急処置に加えて、重症傷病者の搬送途上において救急救命処置を行うことのできる医療職であり、『救急救命士法』に基づき厚生労働大臣が免許を与えています。
日本は欧米に比べ、心肺停止状態から社会復帰率が低かったため、病院に到着する前の医療処置(病院前救護)を実施できるように1991年に制度化されました。
乳酸リンゲル液を用いた静脈路確保及び輸液など、医師の具体的指示を必要とする救急救命処置を「特定行為」といいます。
それに対し、除細動などは包括的指示により行うことができます。
メモ
包括的指示とは、医師が事前にプロトコルを作成し患者に適した指示を示すこと。
救急救命士が行える救急救命処置の範囲
救急救命士が行える処置は「医師の具体的指示が必要な処置」と「医師の包括的指示の下に行える処置」の2つがあります。
医師の具体的指示が必要な処置
静脈確保及び輸血
留置針で皮静脈などに静脈路確保を行う。乳酸リンゲル液のみが許されています。
エピネフリン経静脈投与
心肺停止患者に対し、エピネフリンを投与します。
気道確保
心肺停止者に対し、食道閉鎖式エアウェイ、ラリンゲルマスク、気管内チューブを用いた気道確保を行います。
ブドウ糖溶液の投与
血糖測定により低血糖が確認された患者に対して行います。
医師の包括的指示の下に行える処置
除細動
救急救命士の判断で自動体外式除細動器による除細動を行います。
エピネフリン経皮投与
重症喘息などでエピペンを携帯している患者に代行して経皮投与を行います。
精神科領域の処置
精神障害者で身体疾患を伴う者や不穏に陥っている者への救命処置を行います。
産婦人科領域の処置
墜落産時の処置、胎盤処理、新生児の蘇生、子宮復古不全時の子宮輸状マッサージを行います。
小児科領域の処置
成人に準じ、救急救命処置を行います。
血糖測定
自己検査用グルコース測定器を用いて血糖測定を行います。
救急隊員は応急処置を行うことができる
消防学校などで救急標準課程を終了した一般の救急隊員は、消防庁告示の「救急隊員が行う応急処置等の基準」で定められた観察・応急処置を行うことができます。
子児医療の救急体制
小児の救急患者は、成人以上に迅速で適切な対応が求められています。
世界的に見ても低率である乳児死亡率と比較して、1~4歳児死亡率は比較的高く、小児の救急救命医療を医療を担う搬送・受け入れ体制や医療機関の整備や必要性が指摘されています。
重篤な小児救急患者が必要な医療を受け入れられるよう、小児救命救急センターや、救命救急センター内への小児集中治療室の整備が進められています。
軽症者を含む小児患者が休日・夜間に病院へ集中することへの対策として、小児初期救急センターや子ども医療電話相談事業があります。
周産期医療の救急体制
ハイリスクな周産期の母子に高度な産科・新生児医療を提供する認定医施設として、三次医療圏単位の総合周産期母子医療センターとそれを支える地域周産期母子医療センターがあります。
2010年より総合周産期母子医療センターの機能として、施設内外の関係診療科と連携して参加以外の合併症を有する母体にも対応することが加えられました。
この背景には近年、重傷妊婦が複数の病院に受け入れを拒否されてしまう事例の増加があるからです。
救急医療と災害医療の違い
救急医療とは、通常の診療時間外に傷病者を緊急的に医療提供することをいいます。
一方で、災害医療とは、災害により提供できる医療能力を上回るほど多数の傷病者が発生した際に行われる、災害時の急性期・初期医療のことです。
例えば、電気や水道などの施設も被災し停電・断水 といった状況の中、医療機関への医薬品や衛生材料の供給もストップするなどの、過酷な状況の中でも行うことになります。
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