この記事では「疫学」について解説していきます。
普段生活をしていて、疫学を身近に感じることはありませんが、我々の健康は疫学によって支えられていると言っても過言ではありません。
疫学を知ることで、「因果関係」の根幹を知ることができるかもしれません。
この記事を読めば、「疫学の内容」「疫学の三要因」「疫学的因果関係」などを知ることができます。
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疫学とは
疫学とは、個人ではなく集団における健康に関連する状況や事象(疾病、死亡、行動など)の頻度や分布を調べ、それらの規程因子との関連を検討する研究分野です。
これらの研究を推進することで、疾病の予防、健康の増進を図ることが目的です。
疫学的手法は公衆衛生にとどまらず、患者に対する治療効果、疾病の予後因子の探索や、健康増進プログラムや行政サービスの評価など幅広い分野でも用いられています。
疫学研究の対象は変化している
疫学研究が対象とする疾患は、以前は急性期の感染症でしたが、時代の変遷とともに慢性の感染症、非感染症と対象範囲が広がり、現在は循環器、がん、生活習慣病、難病など様々な分野にわたっています。
疫学の三要因
疾病の発生に関わる要因は主に、「病因」「宿主要因」「環境要因」の3種類に分類できます。
これらを疫学の三要因と呼びます。
実際の疫学研究において最初に着目する重要な要点です。
病因とは、病原体とも呼ばれウイルス、細菌、喫煙、などのことです。
環境要因とは、感染経路とも呼ばれストレス、空気、飛沫、媒介物などのことです。
宿主要因とは、宿主感受性や抵抗力とも呼ばれ加齢、遺伝、性、人種、免疫などのことです。
疫学では、これら三要因のバランスが崩れた時に疾病が発生すると考えています。
疫学的因果関係
まず、因果関係とは、原因と結果が一致することです。
例えば、「Aが起こると必ずBが起こり、Aが起こらなければBは起こらない」この場合、「AがBの原因」といえます。
つまり、因果関係があるということです。
医学の分野では、要因と疾病の因果関係を完全に証明することは困難です。
そのため、疫学では、要因と疾病との関連が認められた場合にそれが因果関係であるかどうかを判断するための基本的な視点として、下記の5つの項目が提案されています。
- 関連の一致性
- 関連の特異性
- 関連の時間性
- 関連の整合性
- 関連の強固性
それぞれわかりやすく説明していきます。
関連の一致性
関連の一致性とは、要因と疾患の関係について他の疫学研究でも同様の結果が得られ、その結果が普遍的であることです。
関連の特異性
関連の特異性とは、ある疾患に特定の要因があり、その要因があれば疾患があるといったような、特定の要因と疾患との間に特異的な関連が存在することです。
関連の時間性
関連の時間性とは、要因が結果より先に存在することです。
因果関係に注目する上での最低条件です。
関連の整合性
関連の整合性とは、疫学によって得られた事実が、既知の知見や生物学的研究で得られた事実と矛盾しないことです。
関連の強固性
関連の強固性とは、要因と疾病との間に強い関連があることです。
疫学研究の始まり=スノウのコレラ研究
スノウはコレラ菌が発見される前に、感染の拡大したコレラを疫学によって収束させました。
1849年にロンドンのブロードストリートでコレラ患者が大量に発生しました。
1884年にコッホがコレラ菌を発見するまで、コレラは病原体による水系感染症とは知られていませんでしたが、英国人医師ジョン・スノウは、コレラ患者の分布と付近の井戸との関係を検討することで、汚染された飲用水により感染が生じると推測しました。
1854年に、再度コレラが発生したとき、感染源と思われる水道を使用禁止にすることで流行の蔓延を防ぐことができました。
これは疫学調査を活用した初めての疫学活動といわれており、原因が不明の疾患でも疫学的知見により予防が可能であることが示されました。
この功績により、スノウは「疫学の父」と呼ばれています。