この記事では「粉じん」について解説していきます。
過去、粉じんによる健康被害を軽視していた為、沢山の労働者が健康被害を受けました。
現在では粉じんに対する知識が深まり、様々な取り組みが行われています。
この記事を読めば、「じん肺の種類」「粉じん障害防止対策」「じん肺管理区分決定の流れ」「石綿による労災認定基準」などを知ることができます。
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粉じんとは
粉じん(ふんじん)とは、空気中に粉のように細かく浮遊する塵(ちり)状の固体の粒子のことです。
粉じんを吸い込むことで、様々な健康被害を引き起こします。
じん肺の種類
じん肺とは、粉じんを吸入することによって肺に生じた綿維増殖性変化を主体とする疾病のことです。
治療が困難で予防措置が重要となるため、『じん肺法』により健康管理などの措置が定められています。
粉 じ ん に よ る 肺 疾 患 |
無 機 粉 じ ん |
遊離ケイ酸 | 典型的珪肺 |
ケイ酸化合物 | 石綿肺(アスベスト肺)、滑石肺 | ||
アルミニウムとその化合物 | アルミニウム肺、アルミナ肺、ボーキサイト肺 | ||
鉄化合物 | 鉄肺、溶接工肺(酸化鉄肺)、硫化鉱肺 | ||
ベリリウムとその化合物 | ベリリウム肺 | ||
炭素 | 黒鉛肺、炭素肺、活性炭肺、炭坑夫肺 | ||
金属、その他 | チタン、スズ、アンチモン、セメントによるじん肺 | ||
有 機 粉 じ ん |
綿糸肺 | 腺維増殖性変化ではないため『じん肺法』には含まれない | |
農夫肺 | |||
コルク肺 |
職場・職種 | 症状 | |
珪肺 | ・鉱山、採石、石切業 ・陶磁器製造、鋳物業 ・トンネル工事 |
・呼吸困難 ・珪肺結節 ・肺門リンパ節の卵殻状石灰化 ・肺結核の合併 |
石綿肺 (アスベスト肺) |
・石綿鉱山、石綿製品工場 (断熱材など) ・造船所、自動車工場 ・ビルの解体作業 |
・呼吸困難 ・アスベスト小体 ・胸膜肥厚 ・胸水貯溜 ・肺がん ・悪性中皮腫 |
粉じん障害防止対策
日本における体系的なじん肺対策は、1960年『じん肺法』制定により確立されました。
また、粉じんに曝される労働者の健康障害を防止するため、1979年に『粉じん障害防止規則』が施行されました。
粉じんによる健康障害を防止する対策としては、①粉じん作業従事労働者に対する健康管理、②粉じん発散および粉じんへの曝露を低減するための対策が重要となります。
健康管理 | 曝露を低減するための対策 | |
法規 | じん肺法 | 粉じん障害防止規則 |
主な対策 | ・じん肺健康診断の実施 ・じん肺の所見を有する者について、じん肺管理区分の決定 ・じん肺管理区分に基づいた健康管理 |
・粉じん発生の少ない生産工程への変更 ・発生源の密閉化、湿式化 ・局所排気装置などの設置 ・全体換気の実施 ・呼吸用保護具の使用 ・労働衛生教育の実施 ・清掃の定期的な実施などの措置 |
じん肺健康診断
常時粉じん作業に従事する労働者はすべてじん肺健康診断を受ける必要があり、『じん肺法』によって健康診断の内容と実施手順、判定基準、事後処置などが具体的に示されています。
対象 | 検査内容 | |
就業時健康診断 | ・新たに常時粉じん作業に従事することとなった労働者 | ・粉じん作業についての職歴調査 ・直接撮影による胸部全域のX腺写真 ・肺機能検査 ・結核精密検査 ・肺結核以外の合併症に関す売る検査 |
定期健康診断 | ・常時粉じん作業に従事する労働者 ・常時粉じん作業に従事させたことがあり、現に非粉じん作業に常時従事している労働者 |
|
離職時健康診断 | ||
定期外健康診断 | ・常時粉じん作業に従事し、じん肺の所見、疑いのある労働者 など |
じん肺健康診断における有所見率
じん肺健康診断の有所見率は、『じん肺法』改正によりじん肺健康診断が整備された1977年に急増しましたが、1986年以降は着実に減少しています。
製造業・鉱業・建設業における有所見率が高いです。
じん肺健康診断の結果(2018年)
受診労働者数 | 27.9万人/年 |
有所見者数 | 1,366人 |
新規有所見者数 | 246人 |
有所見率 | 0.5% |
じん肺管理区分決定の流れ
じん肺健康診断の結果により、5段階のじん肺管理区分に分けられ、事後措置が決定されます。
管理区分の決定の手続きは労働局長が行い、また労働者は管理区分の決定を労働局長に随時申請できます。
胸部X線写真の病型分類
症状 | |
第1型 | 両肺野にじん肺による粒状影または不整形陰影が少数、かつ大陰影なし |
第2型 | 両肺野にじん肺による粒状影または不整形陰影が多数、かつ大陰影なし |
第3型 | 両肺野にじん肺による粒状影または不整形陰影が極めて多数、かつ大陰影なし |
第4型 | 大陰影あり |
じん肺管理区分と事後措置
管理区分 | じん肺健康診断の結果 | じん肺健康診断の間隔 | ||
現在労働者 | 過去労働者 | |||
管理1 | じん肺の所見がないと認められる者 | 3年に1回 | ー | |
管理2 | X線写真の像が第1型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められる者 | 1年に1回 | 3年に1回 | |
管理3 | イ | X線写真の像が第2型で、じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められる者 | 1年に1回 | |
ロ | X線写真の像が第3型、または第4型(大陰影の大きさが一側の肺野3分の1以下のものに限る)で、じん肺のよる著しい肺機能の障害がないと認められる者 | |||
管理4 | ・X線写真の像が第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1を超えるものに限る)と認められるもの ・じん肺による著しい肺機能障害があると認められる者 |
事後措置 | ||
療養 |
管理2、管理3に区分された者には健康管理手帳が交付され、国による定期的な健康診断を離職後も無料で受けることができます。
管理区分4に決定された者およびじん肺の合併所にかかっていると認められるものには労災保険による給付が行われます
石綿健康被害対策
石綿が長期間、主に建材として大量に使用されてきた結果、多数の健康被害が発生しています。
石綿による健康被害は潜伏期間が長く、確立した治療法がないことから、関係労働者の健康障害予防対策の充実が求められます。
また、疾病に罹患した際の被害者・遺族に対する救済措置が講じられています。
石綿による疾病の労災認定基準
労災認定基準 | |
石綿肺 | ・じん肺管理区分が「管理4」 ・「管理2」「管理3」に結核などを合併 |
肺がん | ・胸部X線写真が「第1型」以上 ・胸膜プラーク+石綿曝露10年以上 ・広範囲の胸膜プラーク+石綿曝露1年以上 ・石綿小体または綿維+石綿曝露1年以上 ・びまん性胸膜肥厚に併発 ・特定の3作業に従事+石綿曝露5年以上 |
中皮腫 | ※病理組織検査での中皮腫の確定診断が重要 ・胸部X線写真が「第1型」以上 ・石綿曝露作業1年以上 |
良性石綿胸水 | ・石綿以外にも様々な原因で発症するため、石綿以外の胸水の原因をすべて除外することが必要 |
びまん性胸膜肥厚 | ①石綿曝露作業3年以上、②著しい呼吸機能障害、③一定以上の肥厚広がり(胸部CT上の肥厚の広がりが片側のみ⇨測胸壁1/2以上、両側⇨測胸壁の1/4以上) |
石綿健康被害救済制度
石綿による健康被害を受けた者と遺族のうち、労災補償などの対象とならない被害者に対して、2006年から救済給付が行われています。
『石綿健康被害救済法』に基づき、環境再生保全機構が救済認定を行います。
国・地方自治体・関係事業者が出資する「石綿健康被害救済基金」が設けられ、給付金にあてられています。
石綿健康被害救済の対象となるケース
- 工場周辺の住民など労災の対象とならない者で、石綿関連の疾患の認定を受けた者とその遺族
- 非災労働者の死後5年が過ぎ、労災の遺族補償給付を受ける権利が時効により消滅した遺族
対象者 | ①被害者 ②遺族 ③救済制度導入前に死亡した被害者の遺族 |
指定疾患 | ①中皮腫 ②肺がん ③著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺 ④著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 |
救済給付 | ①医療費 ②療養手当 ③葬祭料 ④救済給付調整金 ⑤特別遺族弔慰金 ⑥当別葬祭料 |
石綿による疾患の労災認定数
認定基準が大幅に改正された2006年度の認定者数は1,800件数近くまで急増しましたが、その後は中皮腫、肺がんともに400~500件前後の認定数で推移しています。
認定率は関連疾患全体で約9割です。