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同性婚制度なし、結論は「合憲」賠償認めず 立法に議論促す

同性婚制度なし、結論は「合憲」賠償認めず 立法に議論促す

同性婚を認めない民法や戸籍法の規定は憲法違反だとして、同性カップルらが国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(池原桃子裁判長)は2022年11月30日、同性カップルが家族になる法制度がないことについて「違憲状態」と判断しました。

ただ、どのような法制度とすべきかは「立法裁量に委ねられている」として結論としては「合憲」とし、賠償請求は棄却されました。


詳しく解説していきます。


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国に1人あたり100万円の損害賠償を求めて提訴

国に1人あたり100万円の損害賠償を求めて提訴

訴状などによると、原告は東京都などに住む30~60代の男女8人です。

19年に同性パートナーとの婚姻届を区役所などに提出したものの受理されず、国に1人あたり100万円の損害賠償を求めて提訴しました。


裁判の主な争点

裁判の主な争点

今回の裁判は、全国5地裁で起こされた計6件の同種訴訟のうち、3件目の判決です。

違憲状態と言及したことで、国に立法措置などの検討を促したと言えます。


同性婚を認めない現行法の規定が「婚姻の自由や家庭生活での個人の尊厳」などを保障する憲法24条や「法の下の平等」を保障する憲法14条に反するかどうかが主な争点となっています。


判決内容

判決内容

「両性」などの文言を用いている

判決は「婚姻の自由」を定めた憲法24条1項が「両性」などの文言を用いていることから「同性間は含まれないと解するのが相当」と判断しました。

婚姻が異性間に限られる背景には「男女が子を産み育て、家族として共同生活を送りながら次世代につないでいくという人間の営み」があると指摘しています。

現行規定には「合理的な根拠がある」として、憲法14条にも違反していないとしています。


「個人の尊厳」なども保障している

一方で、憲法24条2項が婚姻に限らず家庭生活に関する「個人の尊厳」なども保障している点に着目。

パートナーシップ制度など同性婚に類似した制度が自治体で導入されるなか、国が同性愛者がパートナーと家族になるための法制度を整えていないのは「人格的生存に対する重大な脅威であり、憲法に反する状態にある」と指摘しています。


違憲と断じることはできない

その上で、具体的な法制度は国の伝統や国民感情を踏まえて議論されるべきで「立法の裁量に委ねられていると言わざるを得ない」などとし、違憲と断じることはできないとしました。



具体的な判決内容

具体的な判決内容

○国に対する原告らの賠償請求を棄却する。

○パートナーと家族になるための法制度がないのは同性愛者にとって人格的生存への重大な脅威、障害で憲法24条2項に違反する状態にある。

○法制度としては現行の婚姻制度に同性間の婚姻を含めることだけに限定されているわけではなく、諸外国で導入されている制度も考えられる。

○どのような制度にすべきかは国会で十分に議論、検討されるべきで、立法裁量にゆだねられている。


これまでの2件の判決

これまでの2件の判決

これまでの2件の判決は、いずれも憲法24条違反には当たらないとした一方、憲法14条を巡っては判断が分かれていました。


2021年3月の札幌地裁判決は「同性愛者に婚姻で生じる法的効果を受ける手段を提供しないのは、合理的根拠を欠く差別的な扱いに当たる」として憲法14条に反すると結論付けました。

22年6月の大阪地裁判決は「(異性間と同性間の)差異は一定の範囲で解消されつつある」などとして合憲としました。


自治体の対応

自治体の対応

政府機関による2018年の調査で、「同性婚を認めるべき」という回答は7割近くに達しました。

多様性を認める意識の高まりを受け、自治体の取り組みが広がりつつあります。


東京都は2022年11月1日から同性パートナーの家族関係を公認する「パートナーシップ宣誓制度」の運用を始めました。

都内在住または在勤などが条件で、発行された証明書を提示すれば、都営住宅に入居したりパートナーの救急搬送時に情報提供を受けたりすることができます。


同様の制度は既に多くの自治体が導入しています。

東京都渋谷区とNPO法人虹色ダイバーシティの共同調査によると、10月時点で採り入れた自治体は全国約240で、東京都を加えると国内総人口の約6割を占める計算になります。


企業の対応

企業の対応

企業も対応を進めています。

厚生労働省が20年に公表した調査では、性的少数者に配慮した取り組みをした企業のうち8・7%が同性パートナーを家族手当の対象としています。

同性でも配偶者とみなして福利厚生の対象とするケースは徐々に浸透しつつあります。


ただ、パートナーシップ制度や福利厚生は自治体や企業の中でしか効力を持たず、保障される権利も各地でばらつきがあります。

国が法改正などを進めなければ、婚姻によって生じる相続権や共同親権などの権利を受けることはできません。


海外では性的少数者の権利保護が制度化

海外では性的少数者の権利保護が制度化

海外では性的少数者の権利保護が制度化されているケースが目立ちます。

米国では2022年11月29日、上院で同性間の婚姻の権利を連邦レベルで保護する法案が可決しました。

年内に下院でも可決され、大統領の署名を経て成立する見通しです。


NPO法人EMA日本によると、同性婚は01年にオランダが初めて認めたのを皮切りに、現在までに約30の国と地域で法制化されています。

主要7カ国(G7)で同性婚やそれに準じる法的権利を認めていないのは日本だけで、制度がある国から転勤する場合に支障が出るなどの影響が出ているといいます。


まとめ

まとめ

同性婚を認めない民法や戸籍法の規定は憲法違反だとして、同性カップルらが国に損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁(池原桃子裁判長)は2022年11月30日、同性カップルが家族になる法制度がないことについて「違憲状態」と判断しました。

ただ、どのような法制度とすべきかは「立法裁量に委ねられている」として結論としては「合憲」とし、賠償請求は棄却されました。


青山学院大の教授は「『個人の尊厳』という視点で、同性愛者がパートナーと家族として生活できる制度を整えるよう国に求めた判決だ」と指摘。「国は司法のメッセージを真摯に受け止め、早期に是正に向けた立法措置に乗り出すべきだ」と話しています。


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