政府は能登半島地震で最大300万円の生活再建支援金を事実上倍増します。
日本は地震大国にもかかわらず地震保険の加入率が3割程度と低く、普及は進んでいません。
原則を欠いた個人資産への事後救済の広がりは自助の備えに水を差しかねません。
詳しく解説していきます。
能登半島地震で最大600万円の現金給付
被災者生活再建支援金に加え、被害が大きい能登地域6市町を中心に高齢者や資金の借り入れ・返済が困難な世帯に最大300万円を給付します。
現金給付は最大で計600万円に上ります。
きっかけは与野党党首会談です。
首相は2024年度予算案の早期成立などへの協力を要請し、野党は支援金の倍増を要求しました。
千葉県知事は「過去の災害、これからの災害との整合性、公平性などについて政府から十分な説明がなされているとは感じない」と苦言を呈しています。
地震保険への加入率は2022年に35%
2020年7月に内閣府の「被災者生活再建支援制度のあり方に関する実務者会議」は自然災害からの住宅再建などに関して「自助」が基本と指摘ました。
支援金などの「公助」は側面支援する位置づけです。
自助を促す取り組みは遅れています。
損害保険料率算出機構によると、各種共済は除いた損保会社の地震保険への加入率(全国平均)は2022年に35%で、10年前に比べ8ポイントほどの増加に留まっています。
被災した石川県は30%です。
被災経験がある地域を中心に加入率は少しずつ上がっているものの、なお低いです。
地震保険は「ノーロス・ノープロフィットの原則」
地震保険は火災保険に付帯しています。
安い保険料で安定して運営できるように国が再保険で民間のリスクを一部引き受けており、地震再保険特別会計で経理区分されています。
1964年の新潟地震を契機に当時の田中角栄蔵相が主導して創設されました。
損失も利益も出さないよう収支を調整する「ノーロス・ノープロフィットの原則」がある半面、契約者の意思で加入しない選択ができます。
損保会社は利潤が織り込まれていない為、地震保険を勧める動機が働きません。
他の地震が多い国・地域では地震保険の加入を強制しています。
台湾は火災保険の締結時に自動的に入るようにしており、トルコも公的な建物や村落を除く都市部などで義務化しています。
保険ではなく、耐震補強で備える考え方もある
保険ではなく、耐震補強で備える考え方もあります。
全壊した被災世帯への事後救済を考えると、全額公費で耐震補強した方が安上がりになるからです。
過疎地の耐震化率は低く、住民の意識が変わらなければ進みません。
公助だけでは限界があると行政側から発信する必要がありそうです。
地震保険の加入率とは対照的に支援金は規模が広がっている
地震保険の加入率とは対照的に支援金は規模が広がっています。
阪神大震災を踏まえ1998年に都道府県と国が負担する現行制度をつくりました。
上限額は当初、住宅が全壊した世帯の家財調達に最大100万円でしたが2004年と2007年の法改正を経て300万円に引き上げ、使途制限や所得制限も廃止しました。
予算規模は能登半島地震の場合で数百億円を見込んでいます。
2016年時点での内閣府の試算によると、最大想定の規模の南海トラフ巨大地震が起きたら支援金も8兆円以上になるとされています。