厚生労働省は従業員の厚生年金加入を義務付ける個人事業所を広げる方向で今夏にも検討に入りました。
新たに飲食店や旅館などの業種を追加するかどうかを審議会で議論します。
厚生年金に入れば老後の年金支給額が増えます。
現在は対象となっていない業種の待遇を改善し、少子高齢化で深刻になる働き手不足の緩和を図ります。
5人以上の従業員を雇う個人事業所で厚生年金の加入を義務付け
厚生年金は公的年金制度の一つで、会社員や公務員などが加入しています。
老後に国民年金(基礎年金)に上乗せして年金が支給される利点があります。
法人では全業種でフルタイム労働者らの加入が義務付けられる一方、個人事業所は従業員数と業種によって義務と任意に分かれます。
任意加入の事業所では「実際の加入は一部にとどまる」(厚労省関係者)のが現状です。
厚労省は早ければ今夏に社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の部会で議論を始めます。
5人以上の従業員を雇う個人事業所で新たに加入を義務付ける業種を検討します。
現在は5人以上の従業員を雇う製造や土木など16業種で加入義務
現在は5人以上の従業員を雇う製造や土木など16業種で加入義務となっています。
10月に弁護士や弁理士など「士業」を追加することが決まっています。
夏以降の議論では飲食サービスと旅館のほかに理美容、農林水産業などの業種が追加候補になります。
厚労省は2025年の通常国会に対象業種の拡大を盛り込んだ厚生年金保険法などの改正案提出を目指します。
総務省の労働力調査によると21年に「宿泊業・飲食サービス業」で319万人、「生活関連サービス業、娯楽業」で169万人、「農業・林業」で58万人が雇用者として働いてます。
こうした業種は個人事業所で働く人も少なくなく、厚生年金への加入義務の対象外となっていました。
加入者を増やすことで年金財政と老後の収入の安定を図る
総務省が4月に公表した21年10月1日時点の人口推計では労働の中心的な担い手となる15~64歳の生産年齢人口の割合が総人口の59.4%と1950年以来で最低になり、少子化で今後も減少が見込まれます。
厚労省は厚生年金の加入者を増やすことで年金財政と老後の収入の安定を図ります。
法人では正規労働者に加えてパート、アルバイトなど非正規労働者の加入も進めています。
業務内容が同じ場合でも就業先によって将来の年金支給に差が生じる不公平を解消する狙いもあります。
例えば大手飲食チェーンに勤める人と個人経営の店舗で働く人が同じ業務をこなしても、個人店の従業員は厚生年金に加入できないケースが多いです。
5人未満の個人事業所は全業種で加入義務がありません。
こうした小規模な事業所のルール見直しも課題ですが、まずは5人以上の事業所間の格差是正を優先するもようです。
雇用側の反発も予想される
厚生年金の保険料は労使で折半するルールがあり、実現に向けて負担が増える雇用側の反発も予想されます。
飲食や宿泊などの業種は足元では新型コロナウイルスの感染拡大による打撃も大きいです。
こうした業種は今後の需要回復で働き手不足が深刻化する可能性が大きく、厚生年金への加入による待遇の改善が就労を後押しする効果も見込めます。
政府は共働き世帯や子育て世帯が働きやすいよう制度の見直しを検討しています。
有識者による全世代型社会保障構築会議(清家篤座長)では「勤労者皆保険」の実現も含めて議論しており、月内にも中間整理を出します。
厚労省は各業種の現状や政府全体の方針も踏まえながら、義務化する業種の拡大を検討します。
厚生年金と一体的に運用している健康保険の加入もあわせて議論するとみられます。