公的年金の受給開始を遅らせる代わりに年金額を増やす「繰り下げ受給制度」の利用が進んでいません。
厚生労働省によると元会社員らが受給する厚生年金では2021年度時点で2%にとどまっています。
厚労省は75歳以降の経済基盤を厚くするために利用を促しています。
利用が進まない原因の一つは繰り下げ受給をすると扶養家族がいる場合の年金加算を受けられなくなるためです。
2025年の年金制度改正に向けて是正すべきだとの意見が出ています。
詳しく解説していきます。
厚生年金の繰り下げ受給のメリットとデメリット
厚生年金の繰り下げ受給には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
厚生年金の繰り下げ受給のメリット
繰り下げることで、受給開始年齢以降の1ヶ月ごとに年金額が0.7%増加します。例えば、65歳から70歳まで繰り下げると、最大で42%(0.7%×60ヶ月)増加します。
長生きした場合、増額された年金を長期間受け取ることができるため、生活資金がより安定します。
厚生年金の繰り下げ受給のデメリット
繰り下げ期間中は年金を受け取れないため、その間の生活資金を自己資金で賄う必要があります。
また、受給開始前に亡くなると、繰り下げのメリットを享受できずに年金を受け取らないままになる可能性があります。
厚生年金の受給開始、65歳より前と後で年金額は増減する
厚生年金の受給開始時期は60歳から75歳の範囲で選べます。
年金額は65歳より前に受け取り始めると減額され、66歳以降に繰り下げると増額となります。
2024年度のモデル年金の支給額でみると、平均的な収入で40年働いた場合に受け取る厚生年金の受給額は月16万2000円(基礎年金を含む)です。
70歳まで受給を遅らせると単純計算で月23万円、75歳だと月29万8000円に増額されます。
厚生年金の繰り下げ受給2%どまり
繰り下げ制度は厚労省で記録を遡れる最も古い2013年度で1%でした。
その後1ポイントの伸びにとどまっています。
自営業者らが入る国民年金も2013年度の1.4%から2021年度に3.1%とわずかな上昇にとどまっています。
内閣府が2023年に実施した調査によると、繰り下げの受給制度は73%の人が「知っている」と回答しています。
周知は進んでいるものの、利用が進んでいない状況です。
繰り下げ受給を選ぶと「加給年金」の対象外になる
利用が進まない原因の一つが、年金の家族手当と呼ばれる「加給年金」です。
65歳時点で扶養下の65歳未満の配偶者や子どもがいれば本来の年金受給額が上乗せになる仕組みですが、繰り下げ受給を選ぶと対象外になるケースがあります。
現行制度は繰り下げ受給を阻害しているとの意見もあり、制度変更を求める声も上がっています。
加給年金とは
加給年金とは、厚生年金の被保険者が65歳に達した際、配偶者や子どもなどを扶養している場合に、老齢厚生年金に追加するかたちで支給される年金です。
加給年金が加算される厚生年金の受給者の条件は、厚生年金の加入期間が20年以上、または共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の加入期間が40歳以降(女性と坑内員・船員は35歳)15年から19年以上ある。
「在職老齢年金制度」も繰り下げ受給が広がらない要因
一定の給与所得がある高齢者の年金受給額を減らす「在職老齢年金制度」も繰り下げ受給が広がらない要因です。
支給額のうちカットされた分は、繰り下げ受給を選んでも増額の対象にならないためメリットが少ないです。
在職老齢年金とは
60歳以降に在職(厚生年金保険に加入)しながら受ける老齢厚生年金を在職老齢年金といい、賃金と年金額に応じて年金額の一部または全部が支給停止されます。
これを在職老齢年金といいます。
厚労省は繰り下げ受給制度の利用拡大をめざしている
厚労省は繰り下げ受給制度の利用拡大をめざしています。
年金以外の収入手段が少なくなる75歳以降の経済基盤を厚くする必要があるとの判断です。
国民年金の被保険者に毎年送る「ねんきん定期便」に増額のイメージを載せるなどして利用を促してはいます。
厚労省によると、繰り下げ受給を選ぶ人が増えても年金財政上の大きな影響はありません。