金融機関やフィンテック企業が個人が将来受け取る年金額をもとに、アプリなどを通じて顧客に最適な資産形成を指南する体制が整います。
厚生労働省が公的年金の試算に必要なデータを民間に開放し、個人が老後資金を把握しやすくなります。
岸田文雄政権が掲げる「資産所得倍増プラン」を後押しし、貯蓄から投資への流れを加速します。
将来の年金がアプリで把握できるようになる
厚労省は近く、民間事業者向けに公的年金の試算に不可欠なデータやプログラムを公開します。
API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)と呼ばれる技術を使って、公的データと民間アプリの連携を短時間・低コストでやりやすくなります。
家計簿アプリ事業者らのアプリ開発を後押しする狙いがあるのです。
厚労省が2022年4月に試験運用を始めた公的年金の試算ツールを活用します。
2021年度の試算ツール「公的年金シミュレーター」開発時にはマネーフォワードなどが参画しました。
ミンカブ・ジ・インフォノイドを含めた企業との連携を視野に入れています。
例えば、20代の会社員が定年後にもらえる年金額を簡単に試算できるような仕組みを検討しています。
銀行口座や証券口座などと連携できる家計簿アプリに、公的年金などの試算データを組み合わせます。
22年度内にも試算データを閲覧できるツールを実用化するようです。
政府は貯蓄から投資の流れを加速させたい
政府が主導して公的年金データの民間開放に動くのは、貯蓄から資産形成の必要性が増しているからです。
日本の個人の金融資産は約2000兆円ありますが、半分以上を預貯金が占めます。
足元の物価上昇で預金の実質的な価値は目減りしています。
少子高齢化で将来的な年金不安もあり、個人が自ら運用する必要性が高まっています。
金融庁の金融審議会は19年に老後資金として年金とは別に2000万円が必要との報告書を公表しました。
政府は資産所得倍増プランを実現する上で「公的年金への正しい理解が不可欠」とみており、デジタルトランスフォーメーション(DX)の観点も踏まえて公的年金データの有効利用を探っています。
米国でも年金の主軸である確定拠出年金(401k)が金融機関のアプリなどで簡単に将来の受給額が確認できるようになっています。
年金受給額を知ることは計画的な資産形成につながる
これまで年金保険料の納付実績は年1回の「ねんきん定期便」のほか、「ねんきんネット」で年金見込み額を試算することができます。
年金データを家計簿アプリなどで確認できるようになれば、自分の資産の全体像を把握しやすくなります。
将来年金額の「見える化」は、計画的な資産形成につながります。
ある大手ネット証券は65歳時点の年金見込み額、自身の給与や支出を入力し、老後資産の確保に向けた資産運用のプランを提案することを検討しています。
金融機関が「預金を投資信託に振り向けて年率2%の利回りを目指しましょう」といった助言がしやすくなります。
年金受給額を知れば余計な保険に入らなくて済む
年金受給額の把握は家計のスリム化にも一役買いそうです。
国の公的保障を知らないまま多くの保険に入ると、保険料で日々の生活が圧迫されかねません。
すでにオリックス生命保険では収入(標準報酬月額)などを入力すると老齢年金や遺族年金、傷病手当金で受けられる金額をはじき出し、過剰な保険契約を防げるようにしています。
金融機関にとっては手数料ありきのビジネスモデルから脱却する契機になりうります。
ファイナンシャルプランナーは「老後に向けて必要な資金が見える化されるため、金融機関の助言力が問われることになる」と指摘しています。
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