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転職へのリスキリング(学び直し)に最大56万円の公的支援

転職へのリスキリング(学び直し)に最大56万円の公的支援

2023年8月、日本で不十分だった転職前のリスキリング(学び直し)を公的に支援する取り組みが始まります。

転職できたら最大56万円の支援を受けられるようになります。


転職にあたり7割は何も準備せず、スキルを磨いたり資格を取ったりする人は1割程度にとどまっています。

硬直した労働市場が動く転機になるか注目されています。


詳しく解説していきます。


働いている人を対象に転職に向けた支援

働いている人を対象に転職に向けた支援

経済産業省が「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」を本格的に始めます。

対象者は正社員や契約社員、アルバイトなどの働いている人です。

利用する人は国の認定を受けた人材サービス企業を通じ、転職に向けたキャリア相談と、1年以内のリスキリング講座、職業紹介などの支援を一体で受けます。


大手から中小まで51社の人材サービス企業が認定されており、8月までに開始されます。

ウェブデザインや動画制作などを学べるキャリアステーションと、エンジニアの転職を支援するポテパンはすでに始まっています。


学べる内容は幅広く、大企業にいるがデジタルの専門的な経験はない「ゼネラリスト」向けや、スタートアップへの転職を目指す講座があります。

飲食業界やアパレル業界からIT業界を目指すメニューや、子育てしながら働く女性向けのシッター付き講座もあります。


転職への学び直しに最大56万円の公的支援

転職への学び直しに最大56万円の公的支援

講座の受講費用のうち半額について、上限40万円をサービス事業者に補助されます。

転職に成功すれば、最大で16万円が追加されます。

利用者は事業者経由で受講費用を軽くできることになります。

転職を目指していない人は支援の対象になりません。


日本では働く人の移動が乏しい

日本では働く人の移動が乏しい

新制度は753億円の予算を確保し、3年間で33万人の支援を目指しています。

国が民間企業で働く人の転職を促すのは、日本では働く人の移動が乏しいことが経済の課題になっているためです。


厚生労働省が2022年に短期失業者の動きから分析したところ、労働者の移動はカナダやスウェーデン、米国が活発で、日本の活発度合いは経済協力開発機構(OECD)平均の半分に満たなかったことが分かりました。


労働政策研究・研修機構によると、2021年時点で日本の雇用者は勤続年数「10年以上」が46.8%に達しています。

2022年時点で米国は26.9%、英国は30.6%でした。

日本やイタリア、フランスは同じ職場で長く働く傾向があり、労働移動が少ないです。


転職前に準備をしていない人は66%

転職前に準備をしていない人は66%

最近は経済のデジタル化で技術の移り変わりが激しいのがトレンドです。

働きながら学び直してスキルを上げれば、成長性が高く給与も多い企業に移るチャンスになります。

日本は高成長の産業への人材移動が乏しいことが、低成長の一因とみる専門家は多いです。


転職が少なかった日本ではリスキリングの活動も乏しいです。

厚労省の2020年の調査では、転職前の準備として「特に何もしていない」が66%で、「準備活動を行った」の2倍以上でした。

準備のうち「資格・免許の取得」は4.3%で、スキルアップや資格取得のために「公共の施設を利用」「学校等に通う」「通信教育で勉強」は合わせて1割強にとどまっています。


日本の転職支援は不十分

日本の転職支援は不十分

働く人の目線が学び直しに向かなかったのは、これまでの教育支援が転職を想定していなかったためでもあります。

内閣官房の資料によると、在職者向けの学び直し支援の予算は企業を通じた「人材開発支援助成金」が681億円です。

現在の仕事に関連するスキルの向上を目指し、人材移動を促すものではありません。


個人への直接支援は厚労省の「教育訓練給付制度」がありますが、予算額は237億円と企業経由の支援に比べると小さいですし、転職を目的としていません。

雇用保険に一定期間加入していることなどが条件で、ハローワークを通じて申請します。


転職者数は増加傾向

転職者数は増加傾向

総務省の労働力調査によると国内の転職者数は2022年に303万人と、前年から13万人増えました。

終身雇用にこだわらず、転職でキャリアアップに踏み切る人は増えています。


転職は企業にとっては人材の流出につながります。

企業は転職市場の人たちを自社に引きつけ、処遇するための人事制度の改革を求められています。


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