この記事では、「障害年金の事後重症制度」について解説していきます。
当初、障害認定日には障害年金が受けられる障害等級に該当しなかったが、その後該当するに至ったときには障害年金が支給されます。
この制度を障害年金の事後重症制度といいます。
障害年金の事後重症制度
障害年金では、障害認定日に各年金制度で定めている障害等に該当することが受給要件の一つとなっていますが、結核やその他の内臓障害等の場合には、障害認定日には障害年金を受けられるだけの障害状態に該当しなくても、その後症状が悪化して該当することがあります。
このような場合に、同じように障害年金を支給しようというのが事後重症制度です。
この取扱いはいずれの年金制度においても、65歳になる前日(65歳の誕生日の2日前)までに該当して請求することが要件となっています。
なお、その他の受給要件、年金額、支給期間、手続きについては、それぞれ障害認定日に障害等級に該当したときに受けられる障害年金(障害基礎年金または障害厚生年金)と同様です。
障害年金とは
障害年金は、病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取ることができる年金です。
障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」の2つがあります。
病気やケガで初めて医師の診療を受けたときに国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。
ただし、障害年金を受け取るには、年金の納付状況などの条件があります。
障害基礎年金
国民年金に加入している間に、初診日(障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日)のある病気やケガで、法令により定められたの障害の状態にあるときは障害基礎年金が支給されます。
障害厚生年金
厚生年金に加入している間に、初診日のある病気や法令により定められたの障害の状態にあるときは、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給されます。
障害年金を受給するための3つの条件
障害年金を受給するためには、下記の3つの条件を満たす必要があります。
- 障害の原因となった「初診日」がわかること
- 障害の状態が固定されていること
- 保険料を納付していること
それぞれわかりやすく解説していきます。
障害の原因となった「初診日」がわかること
障害の原因となった、病気やケガについて、初めて医師または歯科医師の診断を受けた日のことを「初診日」といいます。
一般的に初診日は病院のカルテを用いて証明されます。もしカルテがない場合は、障害者手や医師の証診断書でも証明可能です。
障害の状態が固定されていること
障害の状態が固定されているとは、「障害認定日」を受けているということになります。
これは、障害の原因となった病気やケガの初診日から、1年6ヶ月を経過、または1年6ヶ月以内に症状が固定化した日のことです。
※20歳よりも1年半以上前の障害の場合は、20歳になったときが「障害認定日」になります。
保険料を納付していること
下記のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 初診日の先々月までの年金加入月数の2/3以上の保険料納付済み、または免除を受けている。
- 初診日の先々月までの年金加入月数の12ヶ月すべて保険料納付済みか、または免除を受けている。
- 20歳未満。(二十歳前傷病による障害基礎年金の請求)
二十歳前傷病により障害基礎年金の給付を受けることになると、障害年金の所得制限(給付の減額)を受けることになります。(後述)。
障害年金の等級の種類
障害等級には「1級」「2級」「3級」があり、障害の重症度によって分けられています。数字が小さいほど症状が重いです。
障害基礎年期には1・2級しかありませんが、障害厚生年金には3級もあります。さらに、3級にも該当しない場合は症状に応じて、一時金として「障害手当金」が給付されます。
障害基礎年金 | 障害厚生年金 | |
1級障害 | 〇 | 〇 |
2級障害 | 〇 | 〇 |
3級障害 | ー | 〇 |
障害手当金 | ー | 〇 |
障害等級に当てはまる障害の状態
障害年金の等級には、1~3級までありますが、これは障害手帳の級とは関係ありません。
1級障害の状態
1級障害の状態とは、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用事を済ませることを不能とする程度のもの。
この日常生活の用事を済ませることを不能とする程度とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用事を済ませることができない程度のもののことです。
例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね就床室内に限られるものです。
部位 | 障害の状態 |
眼 | 両眼の視力の和が0.04以下 |
聴覚 | 両耳の聴力レベルが100デシベル以上 |
上肢 | 両上肢の機能に著しい障害を有する/両上肢のすべての指を欠く/両上肢のすべての指の機能に著しい障害を有する |
下肢 | 両下肢の機能に著しい障害を有する/両下肢を足関節以上で欠く |
体幹・脊髄 | 体幹の機能に座っていることができない程度または立ち上がることができない程度の障害を有する |
2級障害の状態
2級障害の状態とは、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの。
この日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度のもののことです。
例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの、すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものです。
部位 | 障害の状態 |
眼 | 両眼の視力の和が 0.05 以上 0.08 以下 |
聴覚 | 両耳の聴力レベルが 90 デシベル以上 |
平衡機能 | 平衡機能に著しい障害を有する |
そしゃく | そしゃくの機能を欠く |
言語 | 音声又は言語機能に著しい障害を有する |
上肢 | 両上肢のおや指及びひとさし指又は中指を欠く/両上肢のおや指及びひとさし指又は中指の機能に著しい障害を有する/など |
下肢 | 両下肢のすべての指を欠く/一下肢を足関節以上で欠く |
体幹・脊髄 | 体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有する |
3級障害の状態
3級障害の状態とは、労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものです。
また、「傷病が治らないもの」にあっては、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものです。
部位 | 障害の状態 |
眼 | 両眼の視力が 0.1 以下に減じた |
聴覚 | 両耳の聴力が、40 センチメートル以上では通常の話声を解することができない程度に減じた |
平衡機能 | 神経系統に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残す |
そしゃく | そしゃくの機能に相当程度の障害を残す |
言語 | 言語の機能に相当程度の障害を残す |
上肢 | 両上肢のおや指及びひとさし指又は中指を欠く/両上肢のおや指及びひとさし指又は中指の機能に著しい障害を有する/など |
下肢 | 一下肢の3大関節のうち、2関節の用を廃した/身体の機能に、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度の障害を残す |
体幹・脊髄 | 脊柱の機能に著しい障害を残す |
障害手当金
「傷病が治ったもの」であって、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度のものです。
部位 | 障害の状態 |
眼 | 両眼の視力が 0.6 以下に減じた/一眼の視力が 0.1 以下に減じた/など |
聴覚 | 一耳の聴力が、耳殻に接しなければ大声による話を解することができない程度に減じた |
平衡機能 | 神経系統に、労働が制限を受けるか、又は労働に制限を加えることを必要とする程度の障害を残す |
そしゃく | そしゃくの機能に障害を残す |
言語 | 言語の機能に障害を残す |
上肢 | 一上肢の3大関節のうち、1関節に著しい機能障害を残す/長管状骨に著しい転位変形を残す/など |
下肢 | 一下肢の3大関節のうち、1関節に著しい機能障害を残す/一下肢を3センチメートル以上短縮した/など |
体幹・脊髄 | 脊柱の機能に障害を残す |
障害年金の給付額
障害年金は障害のある人はもちろん給付されますが、その人に子どもがいる場合はその人数に応じて加算されていきます。
障害厚生年金は、人によって金額が違います。その人の平均標準報酬額や厚生年金保険に加入していた期間などによって年金額が変わります。
障害等級 | 金額 |
1級 | 障害基礎年金(974,125円+子の加算) + 報酬比例の年金×1.25+配偶者加給年金 |
2級 | 障害基礎年金(779,300円+子の加算) + 報酬比例の年金+配偶者加給年金 |
3級 | 報酬比例の年金(最低保証 584,500円(月額48,708円)) |
障害手当金 | 報酬比例の年金の2年分(最低保証 1,169,000円)※一時金 |
子どもの数 | 金額 |
1人目、2人目の子 | 1人につき、224,300円 (月額 18,691円) |
3人目以降の子 | 1人につき、 74,800円 (月額 6,233円) |
障害年金の給付額の具体例
子なし | 子1人 | 子2人 | 子3人 | |
1級 | 974,125円 (月額 81,177円) |
1,198,425円 (月額 99,868円) |
1,422,725円 (月額 118,560円) |
1,497,525円 (月額 124,793円) |
2級 | 779,300円 (月額 64,941円) |
1,003,600円 (月額 83,633円) |
1,227,900円 (月額 102,325円) |
1,302,700円 (月額 108,558円) |
障害年金の給付期間
障害年金は障害認定が行われたら障害が回復するまで給付が続きます。ただし、状況に応じて数年ごとに「障害状態確認届」という診断書付きの現況届の提出をしなければいけません。
障害年金には、この届出が必要な「有期認定」と届け出が必要ない「永久認定」があります。
更新の必要がない「永久認定」
手足の欠損障害のような明らかに障害の状態が改善されることがない場合は、障害の等級を一度決定すると変更することはありません。この場合「永久認定」となり、以後の更新が必要ありません。
更新の必要がある「有期認定」
有期認定は、障害の状態に応じて審査医師が1~5年の範囲で診断書の提出を求めます。
障害状態確認届(診断書)は、年金証書に記載されている診断書提出の指定月の3カ月前に届きます。
誕生月の末までに、指定日前3カ月の間に受診をした診断書を提出する必要があります。提出が遅れると、年金の給付が止まる場合があります。
等級に変更が無い場合は、次回の診断書提出についてのお知らせが、送付されてきます。支給停止や等級に変更がある場合は、支給額変更通知書が送られてきます。
障害年金の所得制限(給付の減額)
障害年金は働きながらでも給付を受けることができ、いくら稼いでも所得制限により給付が減額されることがありませんが、一部例外があります。
20歳前が障害の初診日になった人は注意が必要です。
障害の初診日が未成年の場合、年金を支払うことなく障害年金を受け取ることになります。このため、初診日が未成年だった人に限り、障害年金の給付額に所得制限が設けられています。
※所得は2人世帯で給与所得の場合です。
所得額が398万4干円(2人世帯)を超える場合には年金額の2分の1相当額に限り支給停止とし、500万1干円を超える場合には全額支給停止とする二段階制がとられています。
なお、世帯人数が増加した場合、扶養親族1人につき所得制限額が38万円(※)加算されます。
対象となる扶養親族が老人控除対象配偶者または老人扶養親族であるときは、1人につき48万円加算。特定扶養親族等であるときは1人につき63万円加算されます。
また、1人世帯(扶養親族なし)については、所得額が360万4千円を超える場合に年金額の2分の1が支給停止となり、462万1千円を超える場合に全額支給停止となります。
障害年金の手続き・申請方法
障害者年金の申込みに必要な「年金請求書」に記入し、添付書類等を持って住所地の市区町村役場の窓口へ行きましょう。
なお、初診日が国民年金第3号被保険者期間中の場合は、近くの年金事務所または街角の年金相談センターになります。
「年金請求書」は住所地の市区町村役場、または近くの年金事務所または街角の年金相談センターの窓口に備え付けてあります。
準備する添付書類等
- 戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか
- 医師の診断書(所定の様式あり)
- 受診状況等証明書
- 病歴・就労状況等申立書
- 受取先金融機関の通帳等(本人名義)
- 印鑑
-
【まとめ】障害者の所得保障に関する社会保障の種類をわかりやすく解説
日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人はだれでも国民年金に加入し、被用者はそのうえで厚生年金保険に加入することになっています。年金保険は、年をとって働けなくなったときの所得保障をおもな目的とする社会 ...
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