厚生労働省は2023年1月20日、2023年度の公的年金額を3年ぶりに引き上げると発表しました。
年金財政の安定のため支給額を抑える「マクロ経済スライド」を3年ぶりに発動し、増額幅は2022年の物価の伸び(2.5%)よりも小さくなります。
過去の抑制の積み残し分も含めて大幅な調整となりました。
詳しく解説していきます。
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67歳以下の夫婦2人の世帯で、4889円増
改定率は2023年度中に68歳以上になるケースで前年度比1.9%増、67歳以下で2.2%増になります。
4、5月分をまとめて支給する6月の受け取り分から適用されます。
厚生年金を受け取る67歳以下の夫婦2人のモデル世帯で、4889円増の月額22万4482円となります。
厚生年金のモデル世帯は平均的な収入(賞与を含む月額換算で43万9000円)で40年間働いた夫と専業主婦のケースを指しています。
自営業者らが入る国民年金は40年間保険料を納めた満額支給で、67歳以下は1434円増の6万6250円になります。
年金の増額幅はマクロ経済スライドによって抑制
年金額は直近1年間の物価変動率と過去3年度分の実質賃金の変動率をもとに、毎年4月に改定されます。
2023年度の改定額は2022年の物価上昇率(2.5%)と2019~2021年度の賃金変動率の平均(2.8%)を考慮すると、68歳以上は2.5%増、67歳以下は2.8%増になる計算でした。
今回は物価や賃金の伸びよりも給付を抑えるマクロ経済スライドが3年ぶりに適用されました。
年金の増額幅は物価や賃金の伸びよりも小さくなります。
少子高齢化が進んでも、年金の給付水準を保つための仕組みを働かせます。
抑制率は2023年度の調整分で0.3%、年金がマイナス改定だったため適用を見送った2021、2022両年度分で0.3%の合わせて0.6%となりました。
総務省が1月20日に発表した2022年12月の消費者物価指数は前年同月比で4.0%の上昇でした。
年金額の改定率、1.9%~2.2%の約2倍です。
マクロ経済スライドとは
マクロ経済スライドとは、賃金や物価の改定率を調整して緩やかに年金の給付水準を調整する仕組みです。
将来の現役世代の負担が過重にないよう、最終的な保険料の水準を定め、その中で保険料等の収入と年金給付等の支出の均衡が保たれるよう、時間をかけて緩やかに年金の給付水準を調整することができます。
具体的には、賃金や物価による改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整します。
なお、このマクロ経済スライドの仕組みは、賃金や物価がある程度上昇する場合にはそのまま適用されますが、賃金や物価の伸びが小さく、適用すると年金額が下がってしまう場合には、年金額の改定は行われません。
予定よりも年金額が増えなかった原因はキャリーオーバー
年金受給者の負担感は増す一方で、年金財政の持続性を高めるには支給を抑えるマクロ経済スライドが欠かせません。
問題は物価や賃金が伸び悩む局面での発動を先送りし、実質的な増額を繰り返してきたルールにあります。
マクロ経済スライドはデフレ下で発動しにくく、たびたび先送りしてきました。
過去に適用したのは2015年度、2019年度、2020年度の3回にとどまっています。
今回も2021、2022両年度に先送りした「キャリーオーバー分」がなければ、引き下げ幅は半分の0.3%分で済むはずでした。
マクロ経済スライドの先送りで、将来世代の年金減額
先送りを繰り返してきた影響は将来の給付水準に及びます。
マクロ経済スライドを導入した2004年の年金改革時、基礎年金(国民年金)の引き下げを2023年度までの20年間で終了する予定でした。
実際は見送りの影響で引き下げが2046年度まで続き、当初の想定より支給水準は大きく下がる見通しです。
キャリーオーバー制度で雪だるま式にマクロ経済スライドの調整分がたまると、今回のように物価上昇局面で大きく目減りする懸念があります。
毎年度に部分的でも調整を続ける仕組みに見直す必要がありそうです。
まとめ
厚生労働省は、2023年度の公的年金額を3年ぶりに引き上げると発表しました。
改定率は2023年度中に68歳以上になるケースで前年度比1.9%増、67歳以下で2.2%増になります。
4、5月分をまとめて支給する6月の受け取り分から適用されます。
年金額は直近1年間の物価変動率と過去3年度分の実質賃金の変動率をもとに、毎年4月に改定されます。
今回は物価や賃金の伸びよりも給付を抑えるマクロ経済スライドが3年ぶりに適用され、年金の増額幅は抑制されました。
マクロ経済スライドは、物価や賃金が伸び悩む局面では発動が先送りされます。
先送り分は「キャリーオーバー」として、将来世代が負担することになります。
今回も2021、2022両年度に先送りした「キャリーオーバー分」がなければ、引き下げ幅は半分で済むはずでした。