政府の少子化対策の一つとなる出産費用の保険適用を巡って、地域間の費用格差が課題として見えてきました。
出産費用の最も高い東京都と、最低の鳥取県との間には約20万円の開きがあります。
保険を適用するには全国一律の価格を定める必要があるため、調整は難航しそうです。
また、自己負担分の扱いも決まっておらず、自己負担が生じない仕組みが求められます。
詳しく解説していきます。
2026年度から出産費用が保険適用になる
出産費用の保険適用は、政府が3月末にまとめた少子化対策の原案に盛り込まれました。
現行では出産費用は保険がききませんが、適用されれば原則3割負担で済むようになります。
政府は2026年度をめどに実施を検討しています。
保険で賄うには、全国一律の金額となる診療報酬を定めなければなりません。
厚生労働省の調査によると、2021年度の出産費用の平均額は東京が56万5000円、鳥取が35万7000円で平均は約45万円でした。
仮に平均程度の報酬を設定すれば、都心部の産科医は収入が減って施設維持など経営に響く可能性があります。
逆に東京の水準に寄せると地方の病院ではもらい過ぎとなり、医療費全体も膨らんでしまいます。
一時金の引き上げでは問題解決にはならない
もともと出産費用の負担軽減は、出産育児一時金の引き上げと出産費用を病院ごとに公表する制度の創設を組み合わせて進める方針でした。
しかし、一時金を巡っては額を引き上げるたびに病院も費用を上げる「いたちごっこ」が常態化していました。
一時金は4月から50万円に引き上げられましたが、出産費用を2024年4月から公表することでそうした便乗値上げに歯止めをかける狙いがありました。
厚労省は保険適用の時期として2026年度の診療報酬改定を念頭に置いています。
一時金の引き上げと公表制度の効果を見極めたい考えです。
保険適用が始まれば、一時金は廃止になる可能性が高いです。
出産で自己負担が生じない仕組みとする
自己負担の扱いも焦点となります。
地域によっては自己負担額が一時金を受給した場合の出費額を上回る場合もありえます。
負担が増えれば出産した夫婦にとって保険適用の利点を感じられません。
自民党の少子化対策に関する議員連盟は保険適用にあわせて「自己負担が生じない仕組みとする」との提言をまとめました。
自己負担分を公費で賄うことを想定しています。
医療費がかさむ場合は自己負担額に上限を設ける高額療養費制度が適用されます。
年齢と所得水準で上限額は異なりますが、出産費用が同制度の適用対象になれば、負担は抑えられます。
公的医療保険制度との整合性
公的医療保険制度との整合性も課題です。
医療保険では病気やけがをしたときは保険で治療を受けることができます。
帝王切開や吸引分娩などを除く正常分娩は病気ではないとして、これまで保険の対象外としてきました。
出産を保険対象にするには制度上の位置づけをどう見直すかの議論も避けられません。