厚生労働省は2024年6月26日、出産費用の保険適用について話し合う有識者検討会の初会合を開きました。
全国一律の公定価格化に向けた課題や妊婦の自己負担のあり方が焦点となっています。
一方、産科医は自由な料金設定ができなくなることで経営が悪化することを懸念し、反対の意向を示しています。
詳しく解説していきます。
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出産費用の保険適用は既定路線
「希望する人がどの地域でも安心して子どもを産み、育てる環境の整備につながる」と、この日の会議で連合の松野奈津子生活福祉局次長が出産費用の保険適用の利点を語りました。
保険適用によって、出産費用の地域差が是正され、特に地方での出産環境の改善が期待されています。
2026年度をめどに出産費用の保険適用の導入を検討している
政府は2023年に閣議決定した「こども未来戦略」で、2026年度をめどに出産費用の保険適用の導入を検討する方針を示しました。
現在は帝王切開など一部の出産のみが保険の対象で、いわゆる正常分娩は対象外です。
代わりに出産育児一時金として50万円の給付制度がありますが、この制度は出産費用の一部を賄うもので、全額をカバーするものではありません。
出産費用の保険適用を検討する理由
政府が出産費用の保険適用を検討するのは、産科医側に自由な料金設定を認めてきた弊害が目立ち始めたためです。
政府は出産育児一時金の支給額を上げてきましたが、医療機関もこれに応じる形で料金を上げてきました。
その結果、出産費用が高騰し、家計に大きな負担を与えています。
特に高額な出産費用が家計を圧迫し、少子化を促進しているという懸念があります。
正常分娩の平均費用は10年間で12%上昇
厚労省によると、2022年度の正常分娩の平均費用は54万円で、10年間で12%上昇しました。
地域差も拡大し、差額ベッド代などを除く都道府県別の平均費用は、最高の東京都(60万円)と最低の熊本県(36万円)とでは24万円もの差があります。
公的医療保険の対象にすることで「天井知らず」の出産費用に歯止めをかけ、経済的な負担を軽減し、出生率の向上を目指す狙いがあります。
出産の保険適用は「政権の人気取り」との意見もある
政権の人気取りという狙いも見え隠れします。
2022年4月に始まった不妊治療の保険適用は、子育て世代から前向きな反響がありました。
一般的に保険適用になれば費用負担が減るというイメージが強く、少子化対策の実績づくりとしても注目されています。
不妊治療の保険適用が、今回の出産費用の保険適用の前例となり、議論に影響を与えています。
産科医は経営悪化を懸念して反発
一方で、日本産婦人科医会の前田津紀夫副会長はこの日の会合で「出産には人件費が非常にかかる。分娩しても損をしない体制を作ってもらわないと(医療機関は)とても持たない」と述べました。
産科医が反発するのは、自由な料金設定ができなくなれば医療関連の費用を吸収しきれず、経営が悪化する恐れがあるためです。
医療機関側は診療の質を高めるだけでなく、建物の内装やお祝い膳など診療以外の部分にも力を入れ、妊婦を取り込もうとしてきました。
出産件数の減少で医療機関同士の妊婦の受け入れ競争が激化している中、保険適用による一律の料金設定がこれを阻害する懸念があります。
出産施設の減少が地域の出産環境に悪影響を与える可能性もある
保険適用で一律の料金を設定するのは、独自に磨いてきたサービスを否定されるのに等しいです。
出産は昼夜関係なく発生するため、医療機関は夜間の受け入れ体制も整える必要があります。
また、今年4月からは医師の働き方改革が始まりました。
医療機関にとって低い料金設定となれば「地域によっては出産を取り扱う施設がなくなりかねない」という懸念もあります。
特に地方の医療機関では、経営が厳しくなり、出産施設の減少が地域の出産環境に悪影響を与える可能性があります。
厚労省「保険適用による出産費用の抑制は少子化対策の一環」
厚労省は、保険適用による出産費用の抑制が少子化対策の一環としても期待されていることを強調しています。
現在の少子化の進行を食い止めるためには、経済的な負担の軽減が急務であり、保険適用によって安心して出産できる環境を整えることが必要です。
出産費用の保険適用が実現すれば、経済的な理由で出産を躊躇する夫婦が減少し、出生率の向上につながる可能性があります。
出産環境の整備と少子化対策の両立が求められる
今後の検討会では、医療機関の経営への影響や地域ごとの差異をどのように調整するか、妊婦側の自己負担をどの程度に設定するかなど、具体的な課題が議論されることになります。
厚労省は慎重に意見を収集し、最善の解決策を模索する方針です。
これにより、出産環境の整備と少子化対策の両立が求められています。