子どもの虐待リスクを見逃さないよう、人工知能(AI)を活用した取り組みが広がりつつあります。
児童虐待に関する相談件数が増え続けるなか、児童相談所の手が届かず、幼い命が失われるケースは後を絶ちません。
AIに危険性の判別などを補助させることで逼迫する児相の対応の精度を高める狙いです。
虐待の兆しを察知するためにAIを活用
1月に6歳女児が亡くなった岡山市の虐待事件をご存じでしょうか?
岡山市こども総合相談所(児相)は虐待を疑う通告を計5回受けて女児を一時保護したものの、日常的な暴力は認められないとして2週間で解除しました。
結果的に、その後の再発リスクを見誤ったといえます。
情報を有効に生かせず最悪の事態を招いたケースは、昨夏に大阪府摂津市で3歳児が母親の交際相手の男に熱湯をかけられて死亡した事件など各地で相次ぎます。
虐待の兆しを察知する有効策の一つとして、自治体が期待を寄せるのがAIによるリスク評価です。
児童相談書にタブレット端末を配備
三重県は2020年7月以降、県内の全ての児相などにタブレット端末の配備を進めています。
子どもから見つかった傷の状況や加害者の属性などを入力すると、「よく似たケースにおける保護率は7%」といったメッセージが表示されます。
端末には過去の虐待事例約1万3000件のデータが入っており、AIが類似事例を基に一時保護の割合や再発率を算出します。
訪問先でもその場で利用でき、一時保護するかどうかの判断につなげられます。
12年度に虐待による死亡事案が2件起きた同県は、虐待リスクの評価方法を見直してきました。
担当者は「過去の事例を参照することでより適切な判断ができるようになる」と期待します。
電話応対の業務にAIの機能を取り入る
江戸川区児童相談所(東京都)は1月から、保護者や関係機関からの電話応対の業務にAIの機能を取り入れたシステムを導入しました。
相談内容を高い精度で文字化し、「虐待」や「警察」など特定のキーワードを認識すると、パソコン画面の一部が赤く点滅ます。
経験の浅い若手職員からは「上司がやり取りをみていてくれるのは安心」との声があがります。
システムには相談内容の要約機能もあるため、記録作成の負担軽減にもつながりました。
AIを導入する背景
導入が進む背景には、虐待リスクの把握に欠かせないベテラン不足という現状があります。
厚生労働省によると、全国で経験年数が5年に満たない児童福祉司は全体の7割(21年4月時点)です。
同省も一時保護の必要性や再発の危険性の評価に当たり、AIを使った全国共通システムの導入に向け準備を進めています。
三重県が導入したシステムを開発した産業技術総合研究所発ベンチャー、AiCAN(川崎市)の高岡昂太・最高経営責任者(CEO)は「AIの予測結果と職員の経験や感覚を組み合わせることで、より適切な判断につなげられる」と話します。
一方で「児相の現場は、子どもが幼いために自分の状況を話せなかったり、親が虚偽の説明をしたりといった難しさを抱えています。
職員の柔軟な判断や観察力が不可欠で、研修などで職員を育てることが今後も重要だ」と強調しています。
まとめ
児童虐待に関する相談件数が増え続けるなか、児童相談所の手が届かず、幼い命が失われるケースは後を絶ちません。
虐待の兆しを察知する有効策の一つとして、自治体が期待を寄せるのがAIによるリスク評価です。
三重県は2020年7月以降、県内の全ての児相などにタブレット端末の配備を進めています。
子どもから見つかった傷の状況や加害者の属性などを入力すると、「よく似たケースにおける保護率は7%」といったメッセージが表示されます。
端末には過去の虐待事例約1万3000件のデータが入っており、AIが類似事例を基に一時保護の割合や再発率を算出します。
訪問先でもその場で利用でき、一時保護するかどうかの判断につなげられます。