この記事では「遺族年金」について解説していきます。
公的年金は、老後に受け取れる「老齢年金」だけでなく、障害を負い働けなくなった時に受け取れる「障害年金」、亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる「遺族年金」があります。
「年金は払うだけ損」という意見も聞きますが、制度の維持には税金も投入されていることもあり、民間で同じ保障を得ようと思ったら2倍以上の保険料が必要とも言われている程、とってもお得な保険なのです。
この記事を読めば、「遺族年金の詳細」「遺族年金額の目安」「寡婦年金・一時金」「請求手続き」などを知ることができます。
遺族年金とは
日本の遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があります。
「遺族基礎年金」は日本に住んでいる20歳~60歳のすべての人が加入することになっている、国民年金により支払われます。
「遺族厚生年金」は会社員・公務員のすべての人が加入することになっている、厚生年金により支払われます。
亡くなった人が会社員・公務員の場合は、「遺族基礎年金」に+して「遺族厚生年金」も受け取ることができます。
亡くなった人が自営業者などの場合は、「遺族厚生年金」のみ受け取ることができます。
どちらも受給要件を満たすことで、支給が行われます。
「遺族基礎年」「遺族厚生年金」に共通している支給要件に、『死亡していた方によって生計を維持されていた』というのが有ります。
簡単にいうと、収入がたくさん有る遺族に遺族年金は必要ないので、支給の対象外になります。ということです。
「生計を維持されていた」の詳細
遺族年金は、死亡していた方によって生計を維持されていた場合に受け取ることができますが、
「生計を維持されている」とは、原則、下記の要件を満たす場合をいいます。
- 同居していること(別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます)。
- 加給年金額等対象者について、前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること。
- 前年の収入が850万円以上であっても、おおむね5年以内に年収が850万円未満となると認められる事由(退職または廃業など)がある方は、遺族厚生年金を受け取ることができます。
遺族基礎年金の詳細
受給要件
遺族基礎年金は、死亡していた方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受け取ることができます。
下記のいずれかの要件に当てはまる場合、支給が行われます。
- 国民年金の被保険者である間に死亡したと。
- 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき。
- 老齢基礎年金の受給権者であった方【注】が死亡したとき。
- 老齢基礎年金の受給資格期間を満たした方【注】が死亡したとき。
【注】保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限ります。
対象となる子どもの要件
遺族基礎年金は、死亡していた方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受け取ることができますが、
その「子」の要件は下記のとおりです。
- 18歳到達年度の末日(3月31日)を経過していない子。
- 20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の子。
遺族基礎年金の金額
遺族基礎年金の金額は、「781,700円+子の加算」で決まります。
子の加算について、第1子・第2子は一人につき224,900円が支給されます。
第3子以降は、一人につき75,000円が支給されます。
遺族厚生年金の詳細
受給要件
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が、下記のいずれかの要件に当てはまる場合に、その遺族が受け取ることができます。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき。
- 厚生年金保険の被保険者期間に初診日【注1】がある病気やケガが原因で、初診日から5年以内に死亡したとき。
- 1級・2級の障害厚生年金を受け取っていた方が、死亡したとき。
- 老齢厚生年金の受給権者であった方【注2】が死亡したとき。
- 老齢厚生年金の受給資格期間を満たした方【注2】が死亡したとき。
【注1】:初診日とは、死亡の原因となった傷病について、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日をいいます。
【注2】:保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限ります。
受給資格の有る対象者
遺族基礎年金は、「子のある配偶者」または「子」が受け取ることができましたが、遺族厚生年金は受給資格の有る対象者が多いです。
受給資格有る対象者は下記のとおりです。
- 妻。
- 子、孫(18歳到達年度の年度末を経過していない者または20歳未満で障害年金の障害等級1・2級の者)。
- 55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から。ただし、夫は遺族基礎年金を受給中の場合に限り、遺族厚生年金も合わせて受給できる)。
受給資格対象者の優先順位
遺族厚生年金は誰かが受け取った場合、その他の受給資格有るものは受け取ることができなくなります。
遺族厚生年金を受け取ることができる優先順位は下記のとおりです。
- 子のある妻(子のある55歳以上の夫)。
- 子。
- 子のいない妻。
- 子のいない55歳以上の夫。
- 55歳以上の父母。
- 孫。
- 55歳以上の祖父母
出典:日本年金機構
遺族厚生年金の計算式
遺族厚生年金の金額は固定ではなく、それまで納めてきた金額によって異なります。
計算式は下記のとおりです。
状況により異なる遺族年金の種類
これまで説明した通り、受け取れる遺族年金はそれぞれの状況によって異なります。
わかりやすく下記にまとめてみました。
死亡者 | 対象者 | 支給の種類 |
自営業 | 18歳未満の子のある妻 | 遺族基礎年金 |
子の無い妻 | 死亡一時金 寡婦年金 |
|
会社員 ・ 公務員 |
18歳未満の子のある妻 | 遺族基礎年金 遺族厚生年金 |
子の無い妻 (40歳未満) |
遺族厚生年金 | |
子の無い妻 (40歳〜65歳) |
遺族厚生年金 中高年寡婦加算 |
貰える遺族年金の目安
働いていた夫が死亡した場合
夫が自営業 | 夫が会社員 | ||||
平均標準報酬月額 | |||||
25万円 | 35万円 | 45万円 | |||
遺族基礎年金 | 遺族基礎年金+遺族厚生年金 | ||||
18歳未満の子供がいる妻 | 子ども1人 | 月額:約8.3万円 (年額:約100.4万円) |
月額:約11.7万円 (年額:約140.5万円) |
月額:約13.0万円 (年額:約156.5万円) |
月額:約14.3万円 (年額:約172.6万円) |
子ども2人 | 月額:約10.2万円 (年額:約122.9万円) |
月額:約13.5万円 (年額:約162.9万円) |
月額:約14.9万円 (年額:約179.0万円) |
月額:約16.2万円 (年額:約195.0万円) |
|
子ども3人 | 月額:約10.8万円 (年額:約130.3万円) |
月額:約14.2万円 (年額:約170.4万円) |
月額:約15.5万円 (年額:約186.5万円) |
月額:約16.8万円 (年額:約202.5万円) |
|
18歳未満の子供がいない妻 | 妻が40歳 | 支給なし | 遺族厚生年金 | ||
月額:約3.3万円 (年額:約40.0万円) |
月額:約4.6万円 (年額:約56.1万円) |
月額:約6.0万円 (年額:約72.1万円) |
|||
妻が40~64歳 | 支給なし | 遺族厚生年金+中高年齢寡婦加算(年額:585,100円) | |||
月額:約8.2万円 (年額:約98.5万円) |
月額:約9.5万円 (年額:約114.6万円) |
月額:約10.8万円 (年額:約130.6万円) |
|||
妻が65歳以上 | 妻の老齢基礎年金 | 遺族厚生年金+妻の老齢基礎年金(年額:780,100円) | |||
月額:約6.5万円 (年額:約78.0万円) |
月額:約9.8万円 (年額:約118.0万円) |
月額:約11.1万円 (年額:約134.1万円) |
月額:約12.5万円 (年額:約150.1万円) |
働いていた妻が死亡した場合
平成25年までは、遺族基礎年金の受給資格の対象は妻と子どものみでしたが、平成26年4月1日に制度が改正され、生計を維持されていた妻が亡くなった場合、夫も遺族基礎年金が受給できるようになりました。
ただし、亡くなった妻が、受給要件に当てはまる保険料納付期間を満たしていること、妻死亡時の夫の年齢が55歳以上であることが受給要件になります。
妻が自営業 | 妻が会社員 | ||||
平均標準月額 | |||||
25万円 | 35万円 | 45万円 | |||
遺族基礎年金 | 遺族基礎年金+遺族厚生年金(遺族厚生年金は子に支給) | ||||
18歳未満の子供がいる夫 | 子ども1人 | 月額:約8.3万円 (年額:約100.4万円) |
月額:約11.7万円 (年額:約140.5万円) |
月額:約13.0万円 (年額:約156.5万円) |
月額:約14.3万円 (年額:約172.6万円) |
子ども2人 | 月額:約10.2万円 (年額:約122.9万円) |
月額:約13.5万円 (年額:約162.9万円) |
月額:約14.9万円 (年額:約179.0万円) |
月額:約16.2万円 (年額:約195.0万円) |
|
子ども3人 | 月額:約10.8万円 (年額:約130.3万円) |
月額:約14.2万円 (年額:約170.4万円) |
月額:約15.5万円 (年額:約186.5万円) |
月額:約16.8万円 (年額:約202.5万円) |
|
18歳未満の子供がいない夫 | 夫が65歳未満 | 支給されない | 遺族厚生年金 | ||
支給なし | |||||
夫が65歳以降 | 夫の老齢基礎年金 | 夫の老齢基礎年金 | |||
月額:約6.5万円 (年額:約78.0万円) |
月額:約6.5万円 (年額:約78.0万円) |
遺族年金を受け取れない場合の救済措置
遺族年金を受け取れない場合、それまで支払ってきた年金が無駄になってしまいます。そのための救済措置として、国民年金のみ加入している第一号被保険者限定で、「寡婦年金」と「死亡一時金」という2つの制度があります。
ただし、「寡婦年金」と「死亡一時金」の両方を受け取ることはできないので、どちらも受給できる場合はどちらかを選択する必要があります。
どちらも国民年金のみの給付制度で、厚生年金にはありません。
寡婦年金
寡婦年金は、死亡日の前日において、国民年金第1号被保険者(任意加入保険者を含む)保険料納付済期間と保険料免除期間が合わせて10年以上ある夫が死亡したときに夫と婚姻関係(事実婚を含む)が10年以上継続している妻が、60歳から65歳になるまで受け取ることができます。
寡婦年金の金額
夫の死亡日前日までの第1号被保険者(任意加入被保険者を含む)期間から、老齢基礎年金の計算方法により算出した額の3/4になります。
2018年度(平成30年度)の老齢基礎年金の満額は779,300円(年額)ですので、年額に4分の3を掛けた金額が寡婦年金の支給額となります。
寡婦年金を請求できない条件
- 夫が障害基礎年金の受給権を有していた場合。
- 夫が老齢基礎年金を受け取ったことがある場合。
死亡一時金とは
死亡一時金は、死亡日の前日において、国民年金第1号被保険者(任意加入被保険者を含む)の保険料納付済期間が36月(3年)以上ある方が死亡したときに遺族が受け取ることができます。
死亡一時金の額
保険料納付月数 | 金額 |
36月以上180月未満 | 12万円 |
180月以上240月未満 | 14.5万円 |
240月以上300月未満 | 17万円 |
300月以上360月未満 | 22万円 |
360月以上420月未満 | 27万円 |
420月以上 | 32万円 |
死亡した月の前月までに付加保険料納付済期間が36月以上ある場合は、上記の金額に8,500円が加算されます。
死亡一時金の注意点
- 死亡一時金を受け取ることができる遺族は、死亡した方の配偶者、子、父母、窓、祖父母、兄弟姉妹の順番で、死亡したときに生計を同一にしていた方が対象になります。
- 死亡した方が老齢基礎年金、障害基礎年金のいずれかを受け取っていたとき、または遺族基礎年金を受け取ることができる方がいる場合には、死亡一時金を受け取ることができません。
- 死亡一時金は、死亡日の翌日から2年を経過した場合、請求することができなくなるので注意が必要です。
中高齢寡婦加算とは
寡婦年金は遺族基礎年金によって支給されますが、中高齢寡婦加算は遺族厚生年金によって支給されます。
つまり、働いていた人が会社員・公務員だった場合に受け取ることができます。
夫が死亡したときに40歳以上で子のない妻(夫の死亡後40歳に達した当時、子がいた妻も含む)が受ける遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間、中高齢の寡婦加算(定額)が加算されます。
妻が65歳になると自分の老齢基礎年金が受けられるため、中高齢の寡婦加算はなくなります。
中高齢寡婦加算の金額
中高齢寡婦加算の金額は、年間585,100円です(老齢基礎年金満額の4分の3相当)。
遺族厚生年金の金額に加算されます。
一人1年金の原則とは
公的年金の受給には「一人1年金の原則」があります。複数の年金の受給資格がある場合は、どちらか1つの年金を選択することになります。
生計を維持していたパートナーを亡くし、受け取ることになった遺族厚生年金よりも自分の老齢年金の方が多く受給できる場合は、老齢年金を選ぶと良いでしょう。
遺族年金の請求手続き
遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取るためには、年金の請求手続きが必要です。
step
1「年金請求書」を年金事務所や市(区)役所または町村役場に提出します
「年金請求書」は、住所地の市区町村役場、またはお近くの年金事務所または街角の年金相談センターの窓口にも備え付けてあります。
step
2「年金証書」「年金決定通知書」「年金を受給される皆様へ(パンフレット)が日本年金機構から自宅に届きます
パンフレットには、必要な届出などを記載しています。年金証書と一緒に大切に保険してください。
step
3年金証書がご自宅に届いてから1~2ヶ月後に、年金の振込が始まります
手続きに必ず必要な書類
- 年金手帳
- 戸籍謄本(記載事項証明書)
- 市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピーまたは死亡届の記載事項証明書
- 受取先金融機関の通帳等(本人名義)
- 印鑑
マイナンバーを記入することで添付を省略できる書類
- 世帯全員の住民票の写し
- 死亡者の住民票の除票
- 請求者の収入が確認できる書類
- 子の収入が確認できる書類
死亡の原因が第三者行為の場合に必要な書類
- 第三者行為事故状況届
- 交通事故証明または事故が確認できる書類
- 確認書
- 被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことがわかる書類
- 損害賠償金の算定書
その他 状況によって必要な書類
- 他の公的年金から年金を受けている場合は、年金証書
- 合算対象期間が確認できる書類
遺族年金の受給権が消滅する条件
遺族基礎年金・遺族厚生年金の受給権者が婚姻したときなど、下記のいずれかの条件に該当した場合は、遺族基礎年金・遺族厚生年金の受け取る権利がなくなります。
- 死亡したとき。
- 婚姻したとき(事実婚を含む)。
- 離縁によって死亡した方との親族関係がなくなったとき。
- 子・孫である場合は、18歳になった年度の3月31日に達したとき(障害の状態にある場合には20歳になったとき)、または18歳になった年度 の3月31日後20歳未満で障害等級1級・2級の障害の状態に該当しなくなったとき。
- 直系血族および直系姻族以外の方の養子となったとき。
- 父母・孫・祖父母である場合は、死亡した方の死亡当時胎児であった子が生まれたとき。
- 夫が死亡したときに30歳未満の「子のない妻」が、遺族厚生年金を受け取る権利を得てから5年を経過したとき。(夫が死亡したときに胎児であった子が生まれ、遺族基礎年金を受け取ることができるようになった場合を除きます。)
- 遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取っていた妻が、30歳に到達する前に遺族基礎年金を受け取る権利がなくなり、その権利がなくなってから5年を経過したとき。
上記①~⑥に該当した場合は、該当した日から10日以内(遺族基礎年金のみの受給権者は14日以内)に年金事務所、または街角の年金相談センターへの届出が必要です。
妻または夫が受給する遺族基礎年金は、生計を同じくしているすべての子が以下のいずれかに該当したときに受給権が消滅します。
- 上記①~④に該当したとき
- 妻または夫以外の方の養子となったとき
上記⑦⑧は、平成19年4月1日以降に夫が死亡し、遺族厚生年金を受け取ることとなった場合に限ります。
遺族基礎年金を受けている子が、父または母と生計を同じくするようになったとき(祖父母などの直系血族または直系姻族の養子となり、子と養父母が生計を同じくしているとき)は、遺族年金の受給権は消滅しませんが、支給が停止されます。
年金についての問い合わせ先
年金について不明な点がある場合、お近くの年金事務所、街角の年金相談センター、またはねんきんダイヤルへ問い合わせしてください。
問い合わせ、予約の際には、基礎年金番号がわかるものを用意するとスムーズに話が進みます。
年金の問い合わせ
「ねんきんダイヤル」は、年金相談に関する一般的な問い合わせ先です。
電話番号:0570-05-1165
【受付時間】
月曜日 | 午前 8:30 ~ 午後 7:00 |
火~金曜日 | 午前 8:30 ~ 午後 5:15 |
第2土曜日 | 午前 9:30 ~ 午後 4:00 |
月曜日が祝日の場合は、翌日以降の開所日初日に午後7:00時まで相談を受け付けます。
祝日(第2土曜日を除く)、12月29日~1月3日は利用できません。
来訪相談の予約
来訪相談の予約は「予約受付専用電話」へ。
電話番号:0570-05-4890
【受付時間】
月~金曜日(平日) | 午前 8:30 ~ 午後 5:15 |
土日祝日、12月29日~1月3日は利用できません。