ヘルパーが高齢者宅を訪れる訪問介護の事業環境が厳しいことが明らかになりました。
利用者が10年で2割増えたのに対し、訪問員の38%は60歳以上、13.5%は70歳以上です。
仕事の厳しさから若い職員がなかなか集まりません。
厚生労働省は2024年にも施設職員を訪問で活用できるようにし、人手不足に対応します。
年老いた親を高齢者になった子供が介護する「老々介護」ですが、家庭内だけでなく公的介護サービスの現場でも広がりつつあります。
詳しく解説していきます。
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自宅で介護を受けたいという人は多い
介護保険のサービスには在宅で受けるものと、施設に入るものがあります。
このうち在宅はデイサービスのように自ら施設を訪れる「通所介護」と、ヘルパーに自宅に来てもらう「訪問介護」などに分けられます。
在宅サービスでは訪問の利用者が伸びています。
高齢になって介護を必要としても、自宅で過ごしたいというニーズは多いのです。
2023年4月時点の利用者は108万7900人と、10年前に比べて19%増えました。
通所は116万1600人で10年前より1.7%減少しています。
訪問介護員の平均年齢は54.7歳
自宅で高齢者をケアする人も高齢化が進んでいます。
介護労働安定センターが全国の介護事業所を対象にした2022年度の実態調査では、訪問介護員の平均年齢は54.7歳と調査を始めた2002年度以降で最も高かったです。
訪問を除く介護職員の平均より7.4歳上です。
65歳以上は26.3%、70歳以上も13.5%に達します。
訪問介護をためらう介護職員は多い
背景には人材難があります。
若い世代を中心に、個人宅で高齢者と向き合うことをためらう人は多いです。
厚労省の介護サービス施設・事業所調査によると、2021年10月時点での訪問介護員は51万人強です。
52万人強だった2018年より減少しました。
ホームヘルパーの2022年度の有効求人倍率は過去最高の15.53倍で、必要な人材を確保できていません。
訪問介護は欠陥制度
厚労省は2024年度の介護報酬改定にあわせて対策を始めます。
これまで別の扱いにしていた訪問介護と通所介護を組み合わせた複合型のサービスを事業者が提供できるようにする方針です。
現状では介護サービスの利用者は訪問と通所でそれぞれ個別に事業者と契約する必要があります。
両方を利用する際は、通常ではベッドから玄関まで歩く時には訪問のヘルパーに介助してもらい、玄関から車に乗るまでは施設の職員が対応します。
利用者にとって不便なだけでなく、効率の良い介護を妨げている面があります。
訪問介護と通所介護を組み合わせたサービスが始まる
厚労省はサービスの運営基準などを議論する「介護給付費分科会」で、年内に新サービスの具体像を検討します。
介護報酬の点数や、複合型になることに伴う介護人材の資格要件の見直しなどが焦点になります。
厚労省が2022年11月に4600ほどの事業所を対象に参入意向を調査した結果、「収入が増えるなら参入を検討したい」や「職員の確保ができれば参入を検討したい」との回答が約半数を占めました。
利用者の選択肢が広がるのは歓迎すべきと、前向きに受け止める事業者は多いです。
46.5%の通所サービス事業所が赤字
施設の職員が訪問介護の仕事も補えれば、人手不足を和らげられる可能性はあります。
ただ通所サービス事業者からは「現状のサービスを維持しながら訪問介護に参入するのは人員配置の観点で難しい」といった意見も多いです。
福祉医療機構によると2021年度は46.5%の通所サービス事業所が赤字です。
団塊の世代が後期高齢者に入り、介護保険の給付は一段と増えます。
待遇を改善して担い手を確保し、効率の良い介護サービスに変えていかなければ、制度の持続性が危ぶまれます。