政府は2022年2月7日の規制改革推進会議で、介護の人員規制を緩和する本格的な検討に入りました。
担い手不足が一段と深刻になるのをにらみ、厚生労働省はIT(情報技術)を活用する実証事業を年内に始める方針を示しました。
ロボットやセンサーを使い、少ない介護者でも質を維持しながらサービスを提供できる仕組みを探ります。
人手頼みの政策の転換点になります。
介護職の生産性を上げて賃金増を目指す
内閣官房によると、2020年に全産業の平均月収がボーナスなどを含め35万円を超えるのに対し、介護分野は30万円に届きません。
省人化技術は現場の負担軽減と同時に生産性の向上につながります。
賃金水準が高まれば、慢性的な人手不足が和らぐ可能性もあります。
補助金などによる一時的な賃上げにとどまらず、規制改革を通じた抜本的な待遇改善をめざします。
今の基準では介護施設の入所者3人につき少なくとも職員1人を配置します。
首相官邸や内閣府はIT活用の実証データを踏まえ、4人に1人で対応できるようにする案などを議論していきます。
厚労省は今春にモデルとなる事業者を選びます。
夜間の見守り機器の導入による介護の負担軽減や、ロボットを使った業務の効率化などを想定しています。
実際に現場の働き方の改善につながるか調べ、サービスの質を保てるかもチェックします。
ITの活用により最適なケアプランの構築
ITの活用は単に省人化するのが目的ではありません。
ロボットやセンサーのデータを集めて分析し、最適なケアプランづくりに結びつける構想です。
見守り機器で夜間の睡眠パターンを正確に把握できれば、トイレへの不要な誘導が減ります。
入所者は睡眠の質が向上し、夜勤スタッフは休憩時間を確保できます。
規制緩和でケアがおろそかになれば本末転倒
規制緩和でケアがおろそかになれば本末転倒です。
規制改革会議には人員配置基準やITの導入について介護福祉士らから不安や懸念の声も寄せられている。「サービスの低下に結びつかないか」「介護職の業務負荷が増えないか」といった内容です。
仕事のやり方を急に変えることへの抵抗や反発もあります。
このため政府は人員規制の緩和を丁寧に検討します。
すべての介護現場に一律には適用せず、まずは効果が見込まれるITの導入に意欲的な事業者で「特例」として試す方向です。
外部機関による監査で安全性などを確保する案もあります。
介護報酬のあり方も論点
介護報酬のあり方も論点になります。
モデルの事業者が減収になれば、新たな取り組みへの意欲をそぐおそれがあります。
政府内には、財務省などとも協議してIT導入のインセンティブをもうけるべきだとの意見もあります。
7日の会議では、在宅介護の質を高める政策の議論も始めました。
被介護者の睡眠サイクルや心拍数、呼吸数などのデータを分析し、食事や薬の処方量を見直す試みです。
在宅介護ではデータ収集に必要なセンサー類で保険給付対象が少ない実態があります。
クラウド上のデータ分析ソフトの位置づけも不明確だ。内閣府は厚労省と公的支援のあり方について協議します。
アジアで介護人材の奪い合い
人手不足への危機感も高まっています。
厚労省によると、介護人材は19年度に210万人程度。高齢化の加速などを考えると、23年度にさらに22万人、40年度には69万人増やす必要があります。
内閣府幹部は「アジアで介護人材の奪い合いが起こり、外国人に頼れない事態もあり得る」と懸念しています。
ベトナムの派遣機関の運営者は「中国や韓国では日本より厚待遇の求人も出始めている。日本は語学習得をはじめハードルが高く、学生の日本離れが加速する可能性がある」とみています。
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