厚生労働省が2024年7月3日に公表した公的年金の財政検証結果は5年前に比べて改善しましたが、給付水準の低下が当面続くことを示しました。
日本の年金水準はOECD平均の6割程度です。
政府はパート労働者が厚生年金に加入する要件を緩め、年金財政の「支え手」を広げることで制度の安定をめざしています。
老後に備えて企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)を利用し、自己資産を形成する重要性も呼びかけています。
公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てる必要がありそうです。
詳しく解説していきます。
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国民年金は満額で月6.8万円
厚生年金に入っていない自営業者らが加入する国民年金は現在、満額で月6.8万円です。
この給付水準は少子高齢化が進むにつれ、さらに下がっていきます。
非正規雇用になった人が多い「就職氷河期世代」は現在50歳前後で、生活資金を年金に頼る時期が近づきつつあります。
少しでも厚生年金を支給できるようにしたり、基礎年金の水準を高めたりする必要性が増しています。
日本の年金水準はOECD平均の6割程度
日本の年金水準は国際的に見ても低いです。
現役世代の収入に対する年金額の割合である「所得代替率」を経済協力開発機構(OECD)の基準でみても明らかです。
単身世帯の場合、日本は32.4%で欧米などOECD加盟国平均の50.7%の6割程度の水準にとどまっています。
OECD平均の年金額が日本よりも高額な理由
1.年金制度の設計と財源
多くのOECD諸国では、日本と異なる年金制度を採用しています。
例えば、一部の国では積立方式を採用しており、現役世代が自分の将来の年金のために資金を積み立てる方式です。
この方式では、資金の運用益も加わるため、将来的な年金額が高くなることがあります。
2.福祉国家の理念
北欧諸国を中心とする一部のOECD諸国では、福祉国家としての理念に基づき、高い年金給付が保証されています。
これらの国々では、政府の役割が大きく、社会保障の充実が重視されています。
年金制度の持続可能性を高める5つの改革案
2024年の財政検証において、厚生労働省は5つの改革案を示しました。
改革案は、年金制度の持続可能性を高めることを目的としており、2025年の通常国会での関連法案提出を目指しています。
1.被用者保険のさらなる適用拡大
パートタイムや非正規雇用労働者も含む、より多くの労働者を被用者保険の対象とすることを目指しています。
これにより、保険料収入を増加させ、年金制度の安定性を強化します。
企業規模の要件を廃止し、さらに5人以上の全業種の個人事業所に適用した場合、新たに90万人が厚生年金の加入対象となります。
成長ケースの試算では基礎年金の所得代替率を1ポイント押し上げる効果がありました。
2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額
基礎年金の保険料納付期間を現行の60歳までから65歳まで延長することが検討されています。
これにより、受給額の増加が見込まれ、高齢者の生活保障が強化されます。
3.マクロ経済スライドの調整期間の一致
マクロ経済スライドの適用期間を見直し、調整期間を統一することで、年金給付の減少を緩やかにし、長期的な財政健全性を確保することを目指しています。
4.在職老齢年金制度の見直し
在職老齢年金制度を見直すことで、高齢者が働き続けやすい環境を整備し、労働力不足の緩和を図ることを目指しています。
5.標準報酬月額の上限見直し
高所得者の保険料負担を増加させるため、標準報酬月額の上限を見直すことが検討されています。
これにより、保険料収入を増やし、年金制度の財政基盤を強化することを狙っています。
厚生年金を引き上げる案もある
厚生年金を引き上げる案もあります。
厚生年金の保険料は月収などから算出する「標準額」に18.3%をかけた金額を労使折半で負担します。
この標準額の上限を現在の65万円から75万~98万円に引き上げると、横ばいケースの所得代替率は0.2~0.5ポイント改善します。
基礎年金の水準を高めると国庫負担が増す
改革案には反発もあります。
基礎年金の水準を高めると財源の半分を占める国庫負担が増すため、財源確保が必要になります。
増税論につながりやすく、実現には政治的なハードルが高いです。
基礎年金の抑制期間短縮案も、保険料納付の延長案も、新たに必要な財源はそれぞれ年1兆円を超えます。
税を含めた一体的な会議体での議論が求められます。
企業型確定拠出年金や個人型確定拠出年金の拡充
総務省がまとめた2023年の家計調査によると無職の高齢夫婦世帯は月平均4万円近い赤字でした。
貯蓄などを取り崩して生活するケースが多いことがうかがえます。
厚生労働省は財政検証結果を受けた2025年の公的年金制度改正に合わせ、私的年金制度の改革に取り組んでいます。
具体的には加入者自らが運用商品などを選び、その成果によって受け取る年金額が変わる企業型確定拠出年金(DC)や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の拡充を進めています。
イデコは原則60歳までは引き出せませんが、掛け金の全額が所得税の控除対象となり、運用益は非課税となるなど税控除のメリットがあります。
政府は加入開始年齢の上限を引き上げ、退職してからも積み立てて資産を増やせるようにします。
公的年金だけで老後を暮らせるという幻想を捨てる必要がありそうです。
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