5年に1度の公的年金制度の改革に向けた議論が行われています。
働く高齢者の年金額が減らないように「在職老齢年金」の見直しを議論します。
基礎年金の受給額を増やすために保険料を納める期間を65歳まで延長する案も出ています。
厚生労働省は制度の見直しにあわせ、公的年金制度の定期健診にあたる財政検証を実施します。
財政検証の結果は今夏にまとめ、必要な改革案を年末にかけて詰めます。
詳しく解説していきます。
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合計が月50万円を超えると年金額が減らされる
厚労省は健康な年金受給者には働いてもらう環境を整備する考えです。
今は一定の給与収入がある高齢者の厚生年金を減額する在職老齢年金という仕組みがあります。
賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金額が減らされてしまいます。
2021年度末の対象者は65歳以上で49万人で、働く受給権者の17%にあたります。
このため、働き損にならないよう就業調整する高齢者もいます。
年金を受け取る高齢者からも人手不足に悩む企業からも制度の見直しを求める声があがっていました。
減らされた年金の合計額は65歳以上で年4500億円ほどあり、制度の縮小・廃止には追加の財源を用意する必要があります。
年金保険料を納める期間が65歳までに 5年延長
国民年金(基礎年金)の受給額の底上げも議論されています。
現在の国民年金は月6万円台で、老後の生活を営むのは難しい金額となっています。
改革案の一つは保険料を納める期間を60歳になるまでの40年間から、65歳になるまでの45年間に延ばして受給額を増やすことです。
基礎年金を一部負担する国も新たな財源の確保が必要になります。
年金制度を支える現役世代が減少する
4月12日に発表された2023年の人口推計や2050年の世帯数推計からは、高齢化や単身化が進み、年金制度を支える現役世代が減少する姿が鮮明になりました。
公的年金改革は将来の不安を取り除き、経済の持続成長につなげるために最も重要な改革の一つです。
財政検証の前提となる人口の見通しは楽観的との批判があります。
2023年に推計した将来の人口は外国人の急増を理由に、2017年の推計から上方修正しました。
しかし、新興国の賃金水準が日本に追いついてくるため、日本で出稼ぎする人は減少しそうです。
年金積立金の運用利回り
年金積立金の運用利回りは、賃金上昇率を差し引いた実質的な運用利回りで1.3~1.7%に設定しました。
過去22年間の平均3.7%に比べると保守的ですが、過去は賃金上昇率が低迷したことで実質的利回りが高くなった面があります。
iDeCoの普及にも取り組む必要がある
今回議論になっている年金制度の持続性を高めることだけでなく、高齢者が長く働けるような就労環境の整備や自助努力で老後資金を増やすiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)の普及にも取り組む必要がありそうです。
働き方も家族の形も多様化するなかで、社会の実態に合わせた制度の見直しが欠かせません。