この記事では「医療の質を確保するための仕組み」を解説していきます。
医療の質が落ちれば死亡率にも影響するため、誰にとっても重大な関心事項です。
日本には、医療の質が落ちないための様々な仕組みが存在します。
この記事を読めば、「医療の評価方法」「クリニカルインディケーター」「病院機能評価」「PDCAサイクル」などを知ることができます。
関連記事
医療の評価方法
医療の質を評価するにあたっては、医療提供の「構造」「過程」「結果」の3つの側面から行います。
医療機関の設備や医療者数などの構造、治療や手技などの過程、死亡率や在院日数などの結果を評価するための指標をクリニカルインジケーターといいます。
構造 | 過程 | 結果 | |
評価内容 | 医療の資源の評価 | 医療行為の適切さの評価 | 医療行為の後の実績の評価 |
評価項目 | 施設・設備 医療者数 医療者の資格 |
治療手技 ガイドライン クリニカルパス EBM 診療録 |
5年生存率 入院期間 医療費 患者満足度 転倒・転落発生率 |
視点の中心 | 医療者 | 患者と医療者 | 患者 |
特徴 | 必ずしも医療の質と相関しない 容易に把握可能 客観的なデータが得られる |
把握・標準化しやすい 医療活動の途中でも改善可能 |
医療の質に直結する 期間とコストがかかる データが偏りやすい |
クリニカルインディケーター
クリニカルインディケーターとは、病院の機能や診療の状況などについて、様々な指標を用いてわかりやすいように数値化したものです。
指標を分析し、改善を促すことにより、医療の質の向上を図るとともに、患者にとって分かりやすい医療情報を提供することを目的としています。
指標の条件
指標に採用される条件は、下記のとおりです。
- 客観的なデータを容易に収集できること
- 対象となる患者が多いこと
- 患者の要因による影響以上に医療提供の差を反映していること
クリニカルインディケーターの例
- 急性脳梗塞患者における入院死亡率
- 手術をした患者の肺血栓塞栓症の発生率
- 乳がん患者に対する乳房温存手術の実施率
- 出血性胃潰瘍に対する内視鏡的治療の実施率
- てんかん患者に対する抗てんかん薬の血中濃度測定実施率
病院機能評価
病院の機能評価は、公益財団法人日本医療機能評価機構が行っています。
専門的かつ中立的な第三者の立場で病院の機能を評価し、一定水準以上の医療サービスを提供している病院を認定しています。
2000年の『医療法』改正により、病院の広告規制が緩和され、病院機能評価の結果を公告することが可能になりました。
評価項目は医療環境や社会の変化に応じて数年ごとに改定されます。
2013年からは病院の機能種別(一般病院1、一般病院2、リハビリテーション病院、慢性期病院、精神科病院、緩和ケア病院)の評価項目が適用されています。
2018年度からは特定機能病院を対象とした「一般病院3」が新設されました。
評価項目(一部抜粋) | 例 |
地域への情報発信 | 地域の医療機能・ニーズを把握し連携している |
患者の意思を尊重した医療 | 患者の個人情報・プライバシーを保護している |
患者の安全確保に向けた取り組み | 安全確保に向けた体制が確立している |
診療・ケアなどの質と安全の確保 | 医療関連感染を制御するための活動を実施しているか |
チーム医療による診療・ケアの実施 | 診断・評価を適切に行い、診療計画を作成している |
病院の危機管理 | 災害時の対応を適切に行っている |
国際標準化機構(ISO)
国際標準化機構は、162の標準化団体で構成されています。
国際規格の世界的相互扶助を目的とする独立組織で、国家間に共通な標準規格を提供し、世界貿易を促進しています。
医療機関が取得できる規格は、主に下記の3つです。
- ISO(9001):品質マネジメントシステムの基準
- ISO(14001):環境マネジメントシステムの基準
- ISO(27001):情報セキュリティ管理システムの基準
ISOと病院機能評価との比較
ISO 9001 | 病院機能評価 | |
基準 | 国際規格 | 国内基準 |
専門性 | 医療に特化しているわけではない | 病院に特化 |
評価対象 | 病院経営(マネジメント)、病院機能(構造と過程) | |
評価項目 | 必要項目のみ指定、達成のプロセスは各機関に委ねる | 医療機能評価機構の600評価項目の達成度を測る |
PDCAサイクル(デミングサイクル)
出典:リコーのマーケティング支援
PDCAサイクルとは、生産工程の品質管理の方法です。
Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の サイクルを繰り返すことによって、作業工程の改善、品質の向上が可能になります。
医療分野では、医療の質の向上、医療事故の防止などにPDCAサイクルが有用です。
クリニカルパス
クリニカルパスとは、検査、治療、処置、看護、リハビリなどの一連の流れを、入院から退院までの時間軸にそって立案した診療スケジュール表のことです。
地域医療で用いられる地域連携クリニカルパスと区別するため、院内クリニカルパスとも呼ばれます。
クリニカルパスを用いることによって診療プロセスの標準化が可能となり、医療事故の防止、患者満足度の向上など、医療の質の確保に繋がります。
クリニカルパスの例
経過 | 入院当日 | 手術当日 | 術後1日 |
日付 | 1/1 | 1/2 | 1/3 |
処置 | 手術部位の剃毛と腹部レントゲン | 午前6~7時に浣腸 | 傷に保護テープ有り |
食事 | 普通食で、午後8時以降は絶食 | 絶飲食 | 常食になります |
安静 | 入院前と同じ | 術後ベッド上安静 | 制限はありません |
排泄 | 術後、尿道管の挿入 | 朝、管を抜きます | |
清潔 | 入浴可能 | 清拭する | 傷口をカバーしてシャワー |
薬 | 朝から点滴、術後に抗菌薬の点滴 | 抗菌薬の点滴 |
患者満足度調査
患者が、医療サービスにどの程度満足したかを定量的に表したものです。
各医療機関が独自に調査を行っており、クリニカルインディケーターなどで用いられます。
患者満足度は主観的なものであり、医療技術よりも生活の質が評価されやすいなどの偏りもあります。
あくまでも評価指標の一つとしてとらえる必要があります。
患者説明文書・同意書
患者説明文書は、検査・治療の目的や方法、起こりうる合併症、同意を撤回する権利があることなどを記した文書です。
インフォームド・コンセントを得る際に用います。
メモ
インフォームド・コンセントとは、「医師と患者との十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念のことです。
臨床試験においては、被験者に同意書を交付し、書面による同意を得なければいけません。
被験者は同意撤回書を提出することで、いつでも同意を撤回することができます。