文部科学省は2023年4月4日、少子化対策の原案に盛り込まれた制度改正の概要を発表しました。
高等教育段階の「給付型奨学金」の支給対象が2024年度に広がり、支援を受けられる学生が約20万人増える見通しです。
多子世帯と理工農系学部の学生を対象に、年収上限の目安を現在の380万円から600万円に拡大します。
家計の影響で進学を諦める学生を減らす狙いがあります。
詳しく解説していきます。
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給付型の奨学金、年収上限600万円に緩和
給付型奨学金を含む修学支援制度は消費増税分を財源として2020年度に始まりました。
大学や短大、高等専門学校などに子どもが進学する世帯に対し、返済が要らない奨学金と授業料減免を組み合わせて支援します。
2022年度の国の予算額は5196億円でした。
現行制度は両親と子ども2人の場合でおおよそ年収380万円以下の世帯が対象です。
2024年度からは年収要件が広がります。
扶養する子どもが3人以上いる多子世帯と、私立の理工農系分野に進む学生がいる世帯は年収600万円まで対象に含まれます。
制度上の支援額は年間最大約160万円
支援を受けられる学生は現在の約60万人から約80万人に増える見通しです。
大学院を除く高等教育機関の在籍者全体(約340万人)の2割ほどをカバーする計算です。
制度上の支援額は年間最大約160万円で、年収に応じて段階的に減額されます。
新たに対象となる年収380万~600万円世帯の場合、両親と扶養する子ども3人の場合で年間40万円程度になる見込みです。
授業料が比較的高い私立理工農系へは文系との差額分を補います。
教育格差が生じるのを防ぐ狙いがある
給付型の奨学金の緩和には、教育格差が生じるのを防ぐ狙いがあります。
高校生の大学進学希望率は子どもが多い世帯ほど低い傾向があります。
文部科学省の2021年度調査では子どもが3人の世帯の大学進学希望率は71・2%で、2人の世帯よりも9ポイント近く低いです。
4人以上では62・1%とより顕著です。
高等教育費の重さは出産や子育てをためらう一因とされ、少子化に歯止めをかける狙いもあります。
対象となる学生の半分ほどしか使っていない
課題は制度の周知です。
給付型の2021年度の利用実績は約32万人で、対象となる学生の半分ほどしか使っていません。
成績優秀者しか利用できないとの誤解や、複雑な制度への理解が教育現場で十分ではないことも影響しているとみられています。
制度を運用する日本学生支援機構のホームページには学力要件について「高校などでの成績が5段階評価で3・5以上」もしくは「進学しようとする大学などにおける学修意欲を有すること」と明記しています。
学修意欲は学校での面談やリポートで判定するなどとしており、成績に関係なく認定を受けることは可能です。
一方、収入要件は課税標準額などを元に計算する必要があり、受験生やその保護者が自身で該当するかを判断するのは簡単ではありません。
複雑な制度を知らずに進学を断念するなど進路の選択肢を狭める学生を減らすためには、高校段階での丁寧な広報が欠かせません。