出産費用の保険適用に向けた議論が始まります。
厚生労働省は2024年5月15日、具体的な検討を進めるため有識者会議を設けると表明しました。
出産にかかる個人負担を減らして少子化に歯止めをかけたい考えです。
岸田文雄首相は保険適用になっても個人の負担が増えないようにする考えを示しています。
詳しく解説していきます。
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出産費用の保険適用の導入を検討する方針
政府は2023年に閣議決定した「こども未来戦略方針」で、少子化対策の一環として、2026年度をめどに、出産費用の保険適用の導入を検討する方針を盛り込みました。
現在は帝王切開など一部のみ保険対象で、いわゆる正常分娩は対象外になっています。
保険の対象になれば妊婦側が負担する金額は3割になります。
保険適用になれば出産にかかる費用が透明化するとの期待もあります。
現在は健康保険などの加入者が出産すれば現金を支給する「出産育児一時金」があります。
政府は一時金を段階的に引き上げてきましたが、病院側もこれに応じる形で出産費用を上げており、「いたちごっこ」の様相を呈していました。
メモ
・出産育児一時金制度とは、出産に関する費用負担の軽減のために、公的医療保険(健康保険、共済など)から出産時に一定の金額が支給される制度です。2023年4月から1児につき50万円が支給されます。
・公的医療保険の被保険者または被扶養者で、妊娠4カ月以上で出産をした方が対象です。
正常分娩費用の全国平均は約48万円
厚労省によると、2022年度時点の正常分娩費用の全国平均は約48万円(個室の差額ベッド代など除く)と、10年間で16%上昇しています。
出産を公的医療保険の対象にすれば、保険点数で調整することが可能になります。
出産費用の保険適用実現に向けて、課題は沢山あります。
一つは、既存の公的医療保険制度との整合性です。
そもそも医療保険は病気やけがが対象であるため、正常分娩まで対象にすると、保険の考え方にはそぐわなくなります。
保険適用になっても個人の負担が増えない
注目されているのが費用負担を巡る議論です。
政府は出産育児一時金を2023年4月に8万円増額し50万円としました。
保険適用になれば一時金は廃止される可能性が高いです。
2022年度の正常分娩費用は平均で約48万円なので、保険適用のもと3割負担だと14万円強かかることになります。
これでは負担が増えてしまいます。
岸田文雄首相は出産費用の保険適用を巡って2023年に「平均的な費用を全てまかなえるよう、基本的な考え方は踏襲していく」と述べ、保険適用になっても個人の負担が増えないようにする考えを示しています。
自己負担を抑制する仕組みや、保険適用するサービスの対象範囲を詰める必要があります。
出産費用の保険適用について、日本医師会などは慎重姿勢
出産費用の保険適用について、日本医師会などは慎重姿勢を示しています。
公的医療保険の仕組みに従って全国一律の診療報酬を設定すれば、それを上回る費用の病院は撤退する恐れがあり、かえって妊婦の不利益となるからです。
保険適用で地域医療に悪い影響が出ないのか、十分に検討したうえで議論する必要がありそうです。
出産費用にとどまらず、妊産婦を支える仕組みづくりも重要です。
検討会では妊婦健診や母乳外来への支援策も議論の対象となっています。