社会保障

尊厳死とは?安楽死とは?両者の「違い」と「問題点」を解説

尊厳死と安楽死とは?尊厳死と安楽死の詳細をわかりやすく解説

この記事では「尊厳死と安楽死」について解説していきます。


死は誰にでも訪れます。

自身にも、家族にも。


人生の終焉を病院で迎えることになったら、尊厳死や安楽死といった選択を迫られるかもしれません。

今から知識を集めておくことで、その時が来る前に家族と話し合っておくなど、事前の準備が取れるかもしれません。


この記事を読めば、「尊厳死と安楽死の違い」「リビングウィル」「厚労省のガイドライン」「積極的安楽死が容認される4つの要件」などを知ることができます。

 

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尊厳死と安楽死の違い

尊厳死と安楽死の違い

尊厳死とは、患者本人の意思によって(患者が意思の表明をできなければその家族が)延命措置を行わず、自然死を迎えることです。

一方、安楽死は、医師など第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早めることです。


どちらも「不治で末期」という共通点はありますが、「命を積極的に断つ行為」の有無に決定的な違いがあります。


尊厳死を消極的安楽死、安楽死を積極的安楽死と言ったりもします。


尊厳死とリビングウィル

尊厳死とリビングウィル

リビング・ウィル(living will)とは、「重病になり自分自身では判断ができなくなる場合に、治療に関しての自分の希望を述べておく書類、特に、医師たちに治療を中止し死ぬにまかせてくれるよう依頼する書類」のことです。


傷病により「不治かつ末期」になった場合に、事前の健全な状態での意思表示(リビングウィル、DNAR)に基づいて延命治療を行わずに、人間としての尊厳を保ちながら死を迎えることを尊厳死といいます。


尊厳死は「リスボン宣言」の「尊厳に関する権利」の実現であり、終末期医療における自己決定権を尊重する考えに基づいています。

メモ

リスボン宣言とは、1981年に世界保健機構によって採択された、「患者の権利」のことです。

 

尊厳死を望み延命処置を拒否する場合、「尊厳死宣言書」を患者本人が制作する必要があります。


日本では「尊厳死宣言書」を含むリビングウィルは法的に規定されていません。



リビングウィルの記入例

終末期医療における事前指示書



この指示書は、私の精神が健全な状態にある時に私自身の考えが書いてあるものです。

したがって、私の精神が健全な状態にある時に私自身が破棄するか、または撤回する旨の文書を制作しない限り有効です。

  1. 私の傷病が現在の医学では不治の状態であり、すでに死が迫っていると診断された場合には、ただ単に死期を伸ばすためだけの延命処置はお断りします。

  2. ただしこの場合、私の苦痛を和らげるためには、麻酔薬などの適切な使用により十分な緩和医療を行ってください。

  3. 私が回復不能な遷延性意識障害(持続的植物状態)に陥ったときは生命維持処置を取りやめてください。


以上、私の要望を忠実に果たしてくださった方々に深く感謝申し上げるとともに、その方々が私の要望に従ってくださった行為一切の責任は私自身にあることを付記します。



※尊厳死宣言書には、1.2のように消極的安楽死(延命治療の中止)に関する内容が含まれています。


DNAR(Do not attempt resuscitation)

DNAR(Do not attempt resuscitation)

DNARとは、「蘇生を試みないで」の意味です。

終末期の患者が心肺停止に陥った際、患者の事前の意思に基づき、心肺蘇生(CPR)を行わないません。


DNAR指示は患者への十分な説明を基に患者が判断を行います。

指示は主治医が診療録へ記載するか、患者の同意書を制作します。


DNAR指示は心肺蘇生の拒否を指示するものですが、それ以外の輸血、透析、人工呼吸器の使用についても併記しておくことが多いです。


アドバンス・ケア・プランニング

アドバンス・ケア・プランニング

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、終末期における患者の意思決定プロセスであり、「将来の自己決定能力の低下に備えて、今後の治療・療養についての気になる点や価値観を、患者・家族と医療従事者が共し、ケアを計画する包括的なプロセス」と定義されています。


一定の判断能力のある患者が、意思決定能力を失った場合の意向を事前に示すことをアドバンス・ディレクティブ(事前指示)といい、「医療行為に関する医療従事者への指示」と「代理意思決定者の表明」が含まれます。


人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン(厚生労働省)

人生の最終段階における医療・ケアに関するガイドライン(厚生労働省)

人生の最終段階における医療・ケアのあり方および方針の決定手続きを定めたものが、2007年に厚生労働省により策定されました。


「医師らの医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成されれる医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、人生の最終段階における医療・ケアを進めること」を最も重要な原則としています。


安楽死とは

安楽死とは

安楽死とは、耐え難い苦痛を訴える末期患者の求めに応じて、何らかの手段により人為的にその生命を絶つことをいいます。


狭義には、積極的手段により患者を死に至らしめる積極的安楽死のことです。

広議の安楽死には、人工呼吸器を外すなどの治療行為の中止(消極的安楽死)、生命を短縮する可能性を承知の上で行う苦痛の除去・緩和(間接的安楽死)なども含まれます。


日本では、積極的安楽死を認める法律はありません。


安楽死の分類


  消極的安楽死
(治療行為の中止)
間接的安楽死
(苦痛緩和の処置)
積極的安楽死
(生命短縮の処置)
概要 苦痛を長引かせないため、延命治療を中止して死期を早めること 苦痛を除去・緩和するための処置の結果として死が早まる 苦痛から逃れさせるために、意図的積極的に死を招く処置をとること
尊厳死の手段になりうるか
具体例 ・人工呼吸器や薬物投与など延命治療の中止
・植物状態になった際に、生命維持処置をやめる
・呼吸困難な患者に呼吸抑制効果のある鎮静剤などの投与
・苦痛の緩和・除去のため鎮静剤投与⇨淡の排出低下⇨肺炎⇨死
・塩化カリウム、筋弛緩剤などを静脈注射する
・致死薬を処方して患者本人に服用させる(自殺幇助)

 


安楽死の問題点

安楽死の問題点

日本では尊厳死や安楽死を認める法律はありません。

安楽死にまつわる事件の判例は、前例をもって下されています。

現在、多くの事件の判決に大きな影響を与えているのが、延命治療の中止の要件、積極的安楽の許容可能性とその要件などを示した東海大学安楽死事件です。1991年4月。

この事件は、多発性骨髄腫で入院中、呼吸困難などの末期症状を呈した患者にたいして、医師が患者の長男の依頼に応じて、まず点滴やエアウェイを外し、次に呼吸抑制効果のある鎮痛薬および向精神薬を注射、最終的には塩化カリウム製剤を薄めることなく注射して死亡させたものです。

横浜地裁は本件を事件の経緯に沿って、下記の3段階に分けて尊厳死、安楽死に該当するかを判断しました。

  1. 治療の中止
  2. 苦痛緩和の処置
  3. 生命短縮の処置


1.は尊厳死(自然死)および消極的安楽死(延命治療の中止)、2.は間接的安楽死(死期を早めるおそれのある薬物の投与)、3.は積極的安楽死(薬物投与により死に至らしめる)に相当するとされています。


本文では、安楽死の手段が消極的・間接的・積極的のいずれであっても、治療行為の中止に関する要件として、「治療不可能な病気に冒され、末期状態にあること」「患者の意思表示があること」「治療中止の対象はすべて医療行為を含むこと」の3つをあげています。


また、同判決では、積極的安楽死が許容される要件として4つをあげています

横浜地裁による積極的安楽死が容認される4つの要件

  1. 耐えがたい肉体的苦痛があること
  2. 死が避けられずその死期が迫っていること
  3. 肉体的苦痛を除去・緩和するための方法を尽くし、他に代替手段がないこと
  4. 生命の短縮を承認する患者の明示の意思表示があること


医師が家族からの要請で昏睡状態の患者に塩化カリウムを注射し、死亡させた(積極的安楽死させた)この事件では、積極的安楽死が許容される要件は示されましたが、4要件のうち1.4.を欠くとして、1995年3月に殺人罪が成立しました。


2020年3月までに、積極的安楽死が容認され無罪となった判例はありません。



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