社会保障

終末期医療とは?「4つの苦痛」と「死を受け入れるプロセス」を解説

終末期医療とは?終末期医療の詳細をわかりやすく解説

この記事では「終末期医療(Terminal medical care)」について解説していきます。


死は誰にでも訪れます。

終末医療の知識を得ることで、人生の終焉を迎える時に、落ち着いて「自分の死」と向き合うことができ、良好な最後を飾れるかもしれません。


この記事では「終末医療」「苦痛の種類」「がん疼痛の種類」「がんの鎮痛剤の使用方法」「死の受容プロセス」などを知ることができます。

 

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終末期医療(ターミナルケア)とは

終末期医療(ターミナルケア)とは

終末期医療(ターミナルケア)とは、終末期であると判断された方への治療や緩和ケアのことです。


緩和ケアとは、生命を脅かす病による問題に直面している患者とその家族のQOLを向上させるアプローチのことです。

痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に明確化し、的確に評価した上で治療・ケアをしていくことで、苦しみを予防し和らげる方策です。


緩和ケアは病気の早期における疼痛管理などの身体的・精神的ケアから、死期が迫った患者の意思決定の支援、患者の死後の遺族の悲観ケアまでを含んでいます。

メモ

QOL(クオリティ オブ ライフ)。WHOは1994年にQOLを「一個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義しています。



全人的苦痛(トータルペイン)の概念

全人的苦痛(トータルペイン)の概念

患者の苦痛には4つの要素(身体的・精神的・社会的・スピリチュアル)が深くかかわりあっています。

これらを全人的苦痛(トータルペイン)としてとらえ、患者とその家族のQOLを高めることが求められています。

身体的苦痛

  • 痛み
  • その他の身体症状
  • 日常生活活動の支障


社会的苦痛

  • 仕事上の問題
  • 経済的な問題
  • 家庭内の問題
  • 人間関係
  • 遺産問題


精神的苦痛

  • 不安
  • 恐れ
  • 怒り
  • 孤独感
  • うつ状態
  • イラ立ち


スピリチュアルペイン

  • 人生の意味への問い
  • 罪の意識
  • 死の恐怖
  • 死生観に対する悩み
  • 価値体系の変化


スピリチュアルペインについて、宗教が身近ではない日本人には馴染みが薄く、実感しにくい言葉だと思います。

死を意識する過程で生じる「自分の人生はいったい何だったのだろうか」「自分の存在が消えてしまうのが怖い」というような、生きる意味や自己の存在についての悩みや苦しみのことをいいます。


しかし、闘病記を書いたり家族との絆を深めたりすることで、生きがいを見つけ、この苦しみを乗り越えていく患者もいます。

スピリチュアルペインは、精神的苦痛や社会的苦痛とも深くかかわっており、それにより患者の自己実現の契機にもなりうるものなのです。


がん疼痛の種類と原因

がん疼痛の種類と原因

がん疼痛は、がん自体に起因する痛みのほか、がん以外の原因にも苦慮していく必要があります。

原因となる症状の治療をまず考えますが、根本原因の除去に関わらず、痛みは積極的に緩和していきます。


病態によりオピオイドによる除痛効果も異なるため、発生機序によるアセスメントを行い、マネジメントの方針を立てます。

【がん自体に起因する痛み】

内臓や神経の破壊・虚血・圧迫・牽引

【がん治療に伴って生じる痛み】

術後痛、化学療法や放射線治療の有害事象

【消耗や衰弱に付随して生じる痛み】

筋肉や関節の萎縮・拘縮

【がんとは直接関係のない痛み】

変形性関節症、胃潰瘍や胆石症などの偶発症



痛みのアセスメント

痛みのアセスメント

痛みは主観的な体験であり、客観的に表すことができないという前提のものと、補助的なツールとしてアセスメントスケールを用います。

いずれのスケールも患者自身に記してもらいます。


他の患者と比較することはできず、患者と医療者のコミュニケーションのツールとなることが期待されています。


疼痛マネジメント

疼痛マネジメント

がん患者などの緩和ケアでは、疼痛マネジメント(ペインコントロール)が重要になります。


1986年にWHO方式がん疼痛治療法が導入され、更に2007年の『がん対策基本法』により医師への緩和ケア教育が実施され、多くの医師がオピオイドの処方を適切に行えるようになっています。


鎮痛薬使用の5原則を守って疼痛の程度の合わせて適切な投薬を行うことで、以前に比べて身体的な激痛に苦しむ患者は減少しています。


以前はモルヒネの使用に対し、依存性が強いなどの誤解がありましたが、現在ではモルヒネの安全な使用方法が確立され、疼痛が強ければモルヒネに切り替えていく方針が取られています。

HWO方式がん疼痛治療での鎮痛薬使用の5原則

簡便な経路で投薬

患者の自主性を助ける経口投与が望ましい。

時刻を決めて規則正しく

一定の時間間隔で規則正しく使用する。

3段階除痛ラダーに沿って

疼痛の強さに応じて適切な投薬を投与する。

患者ごとの個別な量で

1回投与量と投与間隔は患者ごとに適切な値を決める。

細かい配慮

副作用防止と心理面への配慮をする。


WHO方式3段階除痛ラダー

WHO方式3段階除痛ラダー

除痛ラダーに従って投薬を順次選択していきます。

メモ

除痛ラダーとは、がん性疼痛に対する薬物療法の基本的な考え方で、非オピオイド鎮痛薬とオピオイド鎮痛薬を、痛みの強さによって段階的に進めていく方法です。

 

【第1段階】

軽度の疼痛には非オピオイドを使い、必要に応じて最大投与量に向けて増量します。

【第2段階】

非オピオイド+軽度~中等度の強さの痛みに用いる弱オピオイド(トラマドール・コデイン)を使用します。

【第3段階】

非オピオイド+中等度~高度の強さの痛みに用いる強オピオイド(モルヒネ・フェンタニル・オキシコドンなど)を使用します。



オピオイドスイッチング

オピオイドスイッチング

オピオイドスイッチングとは副作用でオピオイドによる疼痛コントロールができなくなった場合や、鎮痛効果が不十分なときに、他のオピオイドに切り替える治療法です。

副作用の軽減、耐性の回避、鎮痛効果の改善などの効果が得られます。


日本では長らくモルヒネ以外の強オピオイドが使用できませんでしたが、2000年代よりフェンタニルとオキシコドンが使用可能となった事により普及しました。

2013年には、神経障害性疼痛に効果のあるメサドンが使用可能になりました。


オピオイドの副作用と対策

オピオイドの副作用と対策

オピオイドは、正しく投与する限り、中毒症状や精神症状は引き起こさず、安全かつ効果的な鎮痛薬です。


オピオイドの副作用として、便秘、悪心・嘔吐、眠気などがあります。これらの副作用は疼痛域から出現するが、予防的に対応し至適濃度を保っていれば対応可能です。

オピオイドの主な副作用

便秘

  • ほとんどの患者に便秘が生じるため、オピオイド導入時にあらかじめ下剤を併用します。
  • 便秘には耐性が生じないため、下剤の内服はオピオイド投与中には基本的に継続する必要があります。


悪心・嘔吐

  • オピオイド投与初期や増量期に見られます。
  • 症状の頻度は3割程度で、継続使用により1~2週間で耐性が生じるが、いったん出現すると継続投与が困難になることが多く予防対策が大切です。
  • 制吐剤としてはドパミン受容体抗体薬、消化管蠕動亢新薬などが有効です。


眠気

  • オピオイド開始初期や増量時は眠気や軽い傾眠がみられることが多いです。
  • 眠気が不快であれば、オピオイドの減量、スイッチング、投与経路の変更、他の薬剤の見直し、他の原因についての検査などを行います。



鎮痛補助薬

鎮痛補助薬

狭義の鎮痛補助薬とは、主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが、鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め、特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物のことです。

広義には制吐薬などの副作用対処薬も含まれます。


主に、神経障害性疼痛などのオピオイド抵抗性の疼痛に用いられますが、3段階除痛ラダーのどの段階でも使用できます。

鎮痛補助薬の種類

痛みの種類 種類
神経障害性疼痛 抗うつ剤 ・アミトリプチン
・デュロキセチン
・パロキセチン
抗けいれん薬 ・プレガバリン
・ミロガバリン
・クロナゼパム
抗不整脈薬 ・リドカイン
・メキシレチン
NMDA受容体拮抗薬 ・ケタミン
コルチコステロイド ・デキサメタゾン
・ベタメタゾン
骨移転による痛み
Bone Modifyig Agents ・ゾレドロン酸
・デノスマブ



緩和ケアの提供体制

緩和ケアの提供体制

緩和ケア病棟(PCU)とは、積極的な延命治療よりも、痛みへの対応、精神的・社会的なケアを含めた生活の質(QOL)を重視した全人的なケアを行う施設です。


緩和ケア病棟は、悪性腫瘍、AIDSなどの患者も対象に緩和ケアを行うとともに、外来や在宅への移行も支援します。


一般病棟では、医師、看護師、薬剤師、医学療法士、作業療法士、栄養士、臨床心理士、医療ソーシャルワーカー、宗教家などからなる「緩和ケアチーム(PCT)」が入院、外来患者に対して、緩和ケアを提供しています。


患者の死後はケアの内容を振り返るデスカンファレンスを行うことで、その後のケアの質向上につなげています。


一定の基準を満たした緩和ケア病棟、緩和ケアチームについては、診療報酬の加算が認められています。


レスパイントケア

レスパイントケア

レスパイント(息抜き)ケアとは、在宅でのケアを担っている家族の疲労を癒すために、ケアを一時的に交替し、リフレッシュを図ってもらうことです。


しかし、緊急時に即応的に対応してくれないなどの問題とともに、家族がケアを休むことへの抵抗感から、日本では利用が広がっているとは言えません。


グリーフケア

グリーフケア

グリーフ(悲嘆)ケアとは、家族などの近しい人を亡くした人が、死別に伴う苦痛や環境変化などを受入れ乗り越える支援をすることです。


緩和ケアは患者の死後、遺族に対するグリーフケアまで継続して行われます。

遺族外来などで話を聞くほか、精神的な治療を行う場合もあります。


死を受け入れるプロセス

死の受容プロセス

緩和ケアにおいて、患者の精神的ケアを行う際、死の受容のプロセスを理解することは重要となります。

「キューブラー=ロスモデル」は、人間が死を受容する心の動きを「否定」~「受容」で5段階で説明しています。

死の需要プロセス(キューブラー=ロスモデル)

順番 精神 詳細
否定 心理的な防衛反応として、自分が死ぬという現実を否定する
怒り 自分の運命に対する怒りが、しばしば周囲の人へ向けられる
取引 死を延期しようと、人や神と取引することを試みる
抑うつ 自分の死を否定できなくなり、衰弱してなにもできなくなる
受容 死に対して恐怖も絶望も感じなくなり、死を受入れ、最期の時を待つようになる


上記のものは、順序通りに進むわけではなく、行ったり来たりを繰り返しながら死を受容していきます。


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