この記事では、「障害(補償)給付」について解説していきます。
生活を維持しているためには、継続した収入が必要になります。
しかし、病気やケガにより働くことが制限されると、生活するための賃金を稼ぐことが難しくなります。
社会保障制度には、業務上や通勤途上の事故等によって障害が残った場合に現金を給付する制度が存在します。
この記事を読めば、障害(補償)給付の「内容」「障害等級に当てはまる身体の状態」「請求手続き」などを知ることができます。
障害(補償)給付とは
業務上または通勤途上が原因となった負傷や疾病が治った(症状が固定された)とき、身体に一定の障害が残った場合には、労災保険から障害(補償)給付が支給されます。
障害を負った原因が業務上の場合は「障害補償給付」といい、
障害を負った原因が通勤途上の場合は「障害給付」といいます。
労災保険における「治ったとき」とは
障害(補償)一時金は、業務上または通勤途上の傷病が治ったとき、または症状が固定した後に一定以上の障害が残った場合に支給される年金です。
労災保険における傷病が「治ったとき」とは、身体の諸器官・組織が健康時の状態に完全に回復した状態のみをいうものではなく、傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態をいい、この状態を労災保険では「治癒」(症状固定)といいます。
したがって、「傷病の症状が投薬・理学療法等の治療により一時的な回復がみられるに過ぎない場合」など症状が残存している場合であっても、医療効果が期待できないと判断される場合には労災保険では「治癒」(症状固定)として、療養(補償)給付を支給しないことになっています。
給付の内容
残存障害が、所外等級表(上表)に掲げる障害等級に該当するとき、その障害に応じてそれぞれ下記のとおり支給されます。
障害の区分は、重い1級~軽い14級まであります。
1級~7級に該当するときは「障害(補償)年金」「障害特別支給金」「障害特別年金」が支給され、
8級~14級に該当するときは「障害(補償)一時金」「障害特別支給金」「障害特別一時金」が支給されます。
障害等級 | 補償 |
1級~7級 | 障害(補償)年金 |
8級~14級 | 障害(補償)一時金 |
詳細を知りたい方は下記のリンクをクリックしてください。
年金の支払い月
障害等級8級~14級に該当する場合は一時金になりますが、1級~7級に該当する場合は年金になるため、継続的に支給を受けることになります。
障害(補償)年金は、支給要件に該当することとなった月の翌月分から支給され、毎年 2月、4月、6月、8月、10月、12月の 6期に、それぞれの前 2ヶ月分が支払われます。
給付基礎日額とは
「給付基礎日額」とは、原則として、労働基準法の平均賃金に騒動する額をいいます。
平均賃金とは、原則として、業務上または通勤による負傷や死亡の原因となった事故が発生した日または医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときは、傷病発生日の直前の賃金締切日)の直前3ヶ月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われた賃金を除く)を、その期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額です。
年金としての保険給付の額の算定の基礎となる給付基礎日額は、毎年、前年度と比較した賃金水準の変動率に応じて増額または減額(スライド)されます。
また、年齢階層別の最低・最高限度額も適用されます(年金給付基礎日額)。
※船員については、給付基礎日額の特例があります。
算定基礎日額とは
「算定基礎日額」とは、原則として、業務上または通勤による負傷や死亡の原因である事故が発生した日または診断によって病気にかかったことが確定した日以前1年間にその労働者が事業主から受けた特別給与の総額(算定基礎年額)を 365で割った額です。
特別給付とは、給付基礎日額の算定の基礎から除外されているボーナスなど3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金をいい、臨時に支払われた賃金は含まれません。
特別給与の総額が給付基礎年額(給付基礎日額の 365倍に相当する額)の 20%に相当する額を上回る場合には、給付年額の 20%に相当する額が算定基礎年額となります。
ただし、150万円が限度額です。
障害等級に当てはまる身体の状態
障害等級に当てはまる身体の状態は下記のようになります。
障害等級 | 障害の状態 |
1級 | ・両目が失明したもの ・そしゃく及び言語の機能を廃したもの ・神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの ・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの ・両上肢をひじ関節以上で失ったもの ・両上肢の用を全廃したもの ・両下肢をひざ関節以上で失ったもの ・両下肢の用を全廃したもの |
2級 | ・1眼が失明し他眼の視力が0.02以下になったもの ・両目の視力が0.02以下になったもの ・神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの ・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの ・両上肢を手関節以上で失ったもの ・両下肢を足関節以上で失ったもの |
3級 | ・1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの ・そしゃく又は言語の機能を廃したもの ・神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの ・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの ・両手の手指の全部を失ったもの |
4級 | ・両目の視力が0.06以下になったもの ・そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの ・両耳の聴力を全く失ったもの ・1上肢をひじ関節以上で失ったもの ・1下肢をひざ関節以上で失ったもの ・両手の手指の全部の用を廃したもの ・両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
5級 | ・1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの ・神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの ・胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの ・1上肢を手関節以上で失ったもの ・1下肢を足関節以上で失ったもの ・1上肢の用を全廃したもの ・1下肢の用を全廃したもの ・両足の足指の全部を失ったもの |
6級 | ・両目の視力が0.1以下になったもの ・そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの ・両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの ・1耳の聴力を失い、他耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの ・せき柱に著しい変形または運動障害を残すもの ・1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの ・1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの ・1手の5の手指または母指を含み4の手指を失ったもの |
7級 | ・1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの ・両耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの ・1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの ・神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの ・胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの ・1手の母指を含み3の手指または母指以外の4の手指を失ったもの ・1手の5の手指または母指を含み4の手指の用を廃したもの ・1足をリスフラン関節以上で失ったもの ・1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの ・1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの ・両足の足指の全部の用を廃したもの ・外貌に著しい醜状を残すもの ・両側の睾丸を失ったもの |
8級 | ・1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの ・せき柱に運動障害を残すもの ・1手の母親を含み2の手指または母指以外の3の手指を失ったもの ・1手の母指を含み3の手指または母指以外の4の手指の用を廃したもの ・1下肢を5㎝以上縮小したもの ・1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの ・1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの ・1上肢に偽関節を残すもの ・1下肢に偽関節を残すもの ・1足の足指の全部を失ったもの |
9級 | ・両目の視力が0.6以下になったもの ・1眼の視力が0.06以下になったもの ・両目に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの ・両目のまぶたに著しい欠損を残すもの ・鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの ・そしゃく及び言語の機能に障害を残すもの ・両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの ・1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度のなったもの ・1耳の聴力を全く失ったもの ・神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの ・胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの ・1手の母指または母指以外の2の手指を失ったもの ・1手の母指を含み2の手指または母指以外の3の手指の用を廃したもの ・1足の第1の足指を含み2以上の足指を失ったもの ・1足の足指の全部の用を廃したもの ・外貌に相当程度の醜状を残すもの ・生殖器に著しい障害を残すもの |
10級 | ・1眼の視力が0.1以下になったもの ・正面視で複視を残すもの ・そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの ・14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの ・両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの ・1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの ・1手の母指または母指以外の2の手指の用を廃したもの ・1下肢を3㎝以上短縮したもの ・1足の第1の足指または第1の足指または外のの足指を失ったもの ・1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
11級 | ・両目の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの ・両目のまぶたに著しい運動障害を残すもの ・1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの ・10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの ・両耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの ・1耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの ・せい柱に変形を残すもの ・1手の示指、中指または環指を失ったもの ・1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの ・胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の運行に相当な程度の支障があるもの |
12級 | ・1眼の眼球に著しい調節機能障害または運動障害を残すもの ・1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの ・7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの ・1耳の耳かくの大部分を欠損したもの ・鎖骨、胸骨、ろく骨、肩こう骨または骨盤骨に著しい変更を残すもの ・1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの ・1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの ・長管骨に変形を残すもの ・1手の小指を失ったもの ・1手の示指、中指または環指の用を廃したもの ・1足の第2の足指を失ったもの、第2の足指を含み2の足指を失ったもの又は第3の足指以下の3の足指を失ったもの ・1足の第1の足指または他の4の足指の用を廃したもの ・局部にがん固な神経症状を残すもの ・外貌に醜状を残すもの |
13級 | ・1眼の視力が0.6以下になったもの ・1眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの ・正面視野以外で複視を残すもの ・両目のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの ・5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの ・胸腹部臓器の機能に障害を残すもの ・1手の小指の用を廃したもの ・1手の母指の指骨の一部を失ったもの ・1下肢を1㎝以上短縮したもの ・1足の第3の足指以下の1又は2の足指を失ったもの ・1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの |
14級 | ・1眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの ・3歯以上に対し歯科補てつを加えた ・1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの ・上肢の露出面にてのひらの醜いあとを残すもの ・下肢の露出面にてのひらの醜いあとを残すもの ・1手の母指以外の手指の指骨の一部を失ったもの ・1手の母指以外の手指の遠位指節間関節を屈伸するもの ・1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの ・局部に神経症状を残すもの |
障害(補償)給付の請求手続き
障害(補償)給付を請求するときは、所轄の労働基準監督署長に、「障害補償給付支給請求書」(様式第10号)または「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)を提出してください。
また、各請求書に添付する診断書に、医師または歯科医師の診断を記入してもらう必要があります(個人番号の記載された請求書を医療機関に提示したり、送付したりすることのないように注意してください)。
診断書を請求する場合は、「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)または「療養給付たる療養の費用請求書」(様式第16号の5)を、併せて提出してください。
なお、特別支給金の支給申請は、原則として障害(補償)給付の請求と同時に行うこととなっていて、様式も同一です。
船員については、船員保険分を全国健康保険協会(協会けんぽ)に請求する場合があります。
提出にあたっての必要な添付書類
状況 | 添付書類 |
必要に応じて | レントゲン写真等の資料 |
同一の事由によって、障害厚生年金、障害基礎年金等の支給を受けている場合 | 支給額を証明することのできる証明 |
個人番号の取り扱いについて
「障害補償給付支給請求書」(様式第10号)または「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)を提出される際には、個人番号を記入してください。
労働基準監督署の窓口に提出する場合は、封筒に入れるなどして周囲の人の目に触れないように注意してください。
また、個人番号が記載された請求書を提出される際には、本人確認(個人番号確認と身元確認)が行われますので、本人確認書類を用意してください。
労働基準監督署に郵送される場合は、普通郵便による提出も受理されますが、漏洩、紛失等の事故を防ぐため、できるだけ、追跡可能な簡易書留などによる方法で提出してください。
また、本人確認のため本人確認書類の写しを同封してください。
詳しくは労働基準監督署に相談してください。
障害(補償)給付の時効
障害(補償)給付は傷病が治った(症状が固定した)日の翌日から 5年を経過すると、時効により請求権が消滅しますので注意してください。
請求書の記入例
障害(補償)給付を請求するときは、所轄の労働基準監督署長に、「障害補償給付支給請求書」または「障害給付支給請求書」を提出します。
ダウンロード用(OCR)様式
障害補償給付支給請求書などダウンロード(厚生労働省)
(リンク先の「障害(補償)等給付関係」のところにあります)
通勤災害の場合
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【まとめ】業務上・通勤途上の事故に関する補償をすべて解説
災害補償制度は、労働者(職員等)の業務上(公務・職務上)や通勤途上の病気、ケガ、障害および死亡に対して補償給付を行うとともに、労働者(職員等)の福祉に必要な事業を行うことを目的として、民間労働者につい ...
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