生活保護の受給者は「生活に困窮した人」になります。
生活保護はこれらの方を救うために多くの施策を用意していますが、そもそも、出来ることなら一人の「生活困窮者」も出したくないところです。
生活困窮者自立支援法は、生活保護に陥る前に救済するための制度です。
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法律の概要
生活保護を受け始めると、なかなかその現状から抜け出すことができない実情を踏まえると、生活保護受給に至る前に何らかの支援を行うことが重要です。
生活保護制度の見直しおよび生活困窮者対策に総合的に取り組む法律として、平成 27年 4月に施行されたのが生活困窮者自立支援法になります。
生活困窮者自立支援法は、生活困窮者に対して下記のような自立支援に関する措置を講ずることで、生活困窮者の自立の促進を図ることを目的とする法律です。
- 生活困窮者自立相談支援事業
- 住居確保給付金の支給
- 就労準備支援事業、一時生活支援事業、家計相談支援事業、学習支援事業等
- 就労訓練事業
生活困窮者とは
生活困窮者自立支援法における「生活困窮者」とは、「現に経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することができなくなるおそれのある者」と規定されています(3条)。
つまり、今は生活保護を受けるほどの状態ではなくても、いつその状態に陥ってもおかしくない人が対象になるということです。
都道府県知事等による就労訓練事業の認定とは
生活困窮者自立支援制度の中の就労訓練事業(中間的就労)は、社会福祉法人やNPO法人、営利企業などが自主事業として実施するものですが、その内容について個性労働省令が定める基準を充たし、都道府県等の認定を得れば「認定就労訓練事業」になることができます。
生活困窮者自立支援法の施策内容
生活困窮者自立支援法の施策には下記のようなものが挙げられます。
- 自立相談支援事業
- 就労準備支援事業
- 家計相談支援事業
- 学習支援事業
その他の自立促進事業 - 住居確保給付金
- 一時生活支援事業
それぞれわかりやすく解説していきます。
自立相談支援事業とは
生活困窮者自立支援法では、都道府県および市(特別区を含む)、福祉事務所を設置する町村に対し、生活困窮者自立相談支援事業を行うことを義務付けています(4条)。
事業の内容としては、下記のようなものが挙げられます。
- 〈就労支援相談事業〉
生活困窮者からの相談を受け、就労や自立に向けて必要な情報の提供や助言を行います - 〈認定生活困窮者就労訓練事業の利用あっせん〉
「生活困窮者就労訓練事業(中間的就労)」のうち、一定の基準に適合し、都道府県知事の認定を受けた事業が「認定生活困窮者就労訓練事業」です。
就労訓練を受けることが必要な生活困窮者に就労訓練事業所を紹介したり、就労訓練事業に取り組む事業所の開拓を行います。 - 〈自立支援計画の作成〉
生活困窮者の抱えている課題に対するアセスメント(評価)を行い、それぞれが自立に向けて必要としている支援の種類や内容、進め方等について記載した計画を作成します。
なお、自立相談支援事業に従事するのは主任相談支援員、相談支援員、就労支援員の各職種です。支援員は、生活困窮者の相談を受け、それぞれが抱える課題についてアセスメント(評価)を行った上で、自立に向けた計画書の策定、就労・研修など各分野の事業のあっせん、支援機関等への紹介などさまざまな支援を行っています。
支援員には高い支援技術が必要となるため、国は人材育成のために養成研修の実施をしています。研修内容としては、生活困窮者支援の理念や目的、自立相談支援事業の実施プロセス、生活困窮者に対するアセスメント、プランニング技術などが実施されています。
就労準備支援事業とは
生活困窮者に対する就労支援の内容としては、下記のようなものが挙げられます。
- 〈就労支援員による相談事業〉
就労の準備がある程度整っている生活困窮者に対し、就労支援員が個別に履歴書の作成指導やハローワークへの同行訪問、面接指導などを行います - 〈就労訓練事業〉
何らかの事情ですぐに継続して就労することができない生活困窮者に対し、就労訓練の場を設け、就労に必要な知識や技術を習得する機会を提供する事業です。
中間的就労ともいいます。訓練の内容としては社会福祉法人やNPO法人、営利法人などでの清掃作業、リサイクル、農作業といった比較的軽居易な作業が行われます - 〈就労準備支援事業〉
生活困窮者の中には1日の生活リズムが整っていない、集団での活動が困難などの事情で就労が難しい状態の人もいます。
このような人に対し、生活訓練や社会訓練、技術習得訓練などを行うことにより、就労のための基礎的な能力を形成することを目的として事業です。
居住場所を確保するための支援内容
職を失うことによって負担になるのが、居住費です。
そこで支援法では、緊急雇用創出事業臨時特例基金事業として平成 21年 10月から行われている住宅支援給付金を制度化し、都道府県等に対し、「住居確保給付金」を支給するように求めています。
給付金の対象となるのは、下記の条件に当てはまるものです。
- 離職後 2年以内で経済的に困窮し住居を失った、または失うおそれがある
- 就職に向けた活動をしている
- 離職前に世帯の生計を主として維持していた
さらに、支給要件として月収や同居親族分も含めた資産内容、就職活動をしているかどうかなどが加わります。
この内容は給付金を支給する都道府県によって異なります。
要件を満たす者に対し、原則 3ヶ月(就職活動をきちんと行っている場合は 3ヶ月延長可。ただし最長で 9ヶ月まで)給付金が支給されます。
給付金の額は単身か複数世帯かによって異なります。
東京 23区の場合、単身世帯で 53,700円、2人世帯で 64,000円、3~5人世帯で 69,800円が上限です。
緊急的な保護が必要な者への支援内容
生活保護は受給してないが、住居がなく、一定の水準以下の収入しか得られていない人もいます。
ホームレスなどが想定されますが、中には健康の面での問題を抱えている人も多く、緊急的に保護が必要になることもあります。
都道府県等では、このような人に対して、3ヶ月程度の期間に限り、宿泊場所の提供や衣食の供与などを行う「一時生活支援事業」を実施することができます。
家計の管理についての支援内容
失業や借金などの問題を抱える生活困窮者は、家計の管理についての支援を受けることができます。
具体的には下記のようなことが挙げられます。
- 家計の管理に関する相談
- 必要な情報の提供や助言
- 支出の節約に関する指導や必要な資金の貸付あっせん
学習が必要な者への支援内容
生活困窮者が養育する児童生徒は、さまざまな経済的あるいは精神的な事情によって学習が遅れたり進学の機会を失ったりするなど、学習面での問題を抱えていることが多いのが現状です。
このため、養育相談や学習機会の提供、学習ボランティア等による学習支援などが行われます。
国や地方公共団体の役割と費用の負担割合
生活困窮者自立支援法に基づき、自立相談支援事業や住居確保給付金の支給などの事業を実際に行うのは市(特別区を含む)および福祉事務所を設置する町村です。
都道府県は、市等が行うこれらの事業が適正かつ円滑に行われるように、助言や援助などを行います。
さらに国も、都道府県等が行う各事業について必要な助言や援助を行うことが義務付けられています。
なお、各事業にかかる費用のうち、国が負担する割合と補助が行われる割合は下記のとおりです。
- 自立相談支援事業、住居確保給付金:国が3/4を負担
- 就労準備支援事業、一時生活支援事業:費用の2/3の補助が可能
- 家計相談支援事業、学習支援事業その他の生活困窮者の自立促進に必要な事業:費用の1/2の補助が可能
求職者支援制度との違い
求職者支援制度は、雇用保険を受給できない求職者に対し、職業訓練の受講期間を提供することで求職者の就職や生活の支援をする制度です。
一方、生活困窮者自立支援制度は、求職活動を行うこと自体も困難になっている生活困窮者を対象に生活習慣や社会参加能力の構築なども含めた訓練を実施する制度です。
両制度が適切に役割を果たすことにより、生活保護に至る前のセーフティーネットとしての機能を発揮することが期待されています。
生活保護法との違い
生活保護法にも、「被保護者就労支援事業」があります。
こちらの対象は「現に保護を受けている者」および「現に保護を受けているといないにもかかわらず、保護を必要とする状態にある者」、つまり要保護者になります。
要保護者の状態になるおそれのある者は、生活困窮者自立支援法の事業を利用することになります。
生活困窮者自立支援法の事業の利用者が生活保護を必要とする状態になれば、確実に生活保護につなぐ、生活保護受給者の子どもに対する学習支援については、生活困窮者自立支援法の事業を利用するなど、双方が連携して対象者を支援します。
生活保護になる前に、生活困窮者自立支援法の施策によって救済するのが目的です。
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