社会保障

失業保険の基本手当(失業手当)の知っておくべき基礎知識

失業保険の基本手当(失業手当)の知っておくべき基礎知識

失業した時に頼りになるのが失業保険の基本手当(失業手当)です。

基本手当のことを知っていれば、失業後にどのようなプランで再就職すれば良いのかプランを練ることができます。


この記事では基本手当を「もらうための条件」「給付額」「所定給付日数」などを解説していきます。


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失業保険をもらうための条件

失業保険をもらうための条件

失業保険をもらうには、雇用保険に加入していなければいけない

会社を辞めたとき、「失業保険」(雇用保険の失業給付)をもらうためには、どのような条件をクリアしていればいいのかをご存じでしょうか?

「普通に会社勤めしている人だったら、誰でももらえる」と安易に考えがちですが、必ずしもそうとは限りません。


会社を辞めた後に失業給付をもらうためには、大前提となるのが「雇用保険に加入している」ことです。

社会保険(健康保険や厚生年金など)が完備されている会社に正社員として勤めていれば、まず間違いなく雇用保険にも加入しているでしょう。

しかし、アルバイトや契約社員、派遣社員、歩合制の外務員、業務委託(雇用契約でもなく完全歩合制の外部スタッフ扱い)などといった形態で働いている人の場合は、雇用保険に加入していないケースも珍しくありません。


また、中小零細企業のなかには、そもそも社会保険に加入していない会社もあります。

さらには、会社はちゃんと雇用保険の適用事業所にはなっているものの、「海外の現地法人勤務になったときに雇用保険を脱退して、帰国後もそのままになっている」とか、「取締役に就任した時点で脱退した」(取締役は雇用保険に加入できない)といったケースもごくまれにあります。


そこで、チェックしたいのが給料明細です。

この天引き項目の中に「雇用保険料」があれば問題ありませんが、それがなければアウトの可能性が高いです(それでもセーフになる方法もあります)。


ただし、雇用保険に加入していれば必ず失業給付を受給できるわけではありません。

問題になるのは、雇用保険に加入していた期間です。

その期間は、会社を辞める時の都合によって異なり、「自己都合」と「会社都合」とで変わってきます。


退職理由が、自己都合と会社都合によって求められる加入期間が異なる

〈自己都合で退職する人〉

雇用保険に加入していた期間が、会社を辞めた日以前の2年間に12ヶ月以上あること

〈会社都合で退職する人〉

雇用保険に加入していた期間が、会社を辞めた日以前の1年間に6ヶ月以上あること


たとえ自分から辞表を出して辞めても、入社時に雇用保険に加入していて12ヶ月以上勤めてさえいれば、失業保険をもらう資格が生じるわけです。


雇用保険の加入期間は複数の会社で通算できる

では、自己都合で退職すると、1つの会社に6ヶ月しか勤めていない人はもらえないのでしょうか?

その場合でも、それ以前に他の会社にもう6ヶ月勤めていて、その両方を通算した12ヶ月が、後の会社を辞めた日から過去2年の範囲内に収まれば、この条件を満たしていることになります。

要件さえ満たせば、前々職も、通算することができます。


通算されるための要件は2つです。

1つめは「離職日(退職日)から次の職の就職日の空白期間が、1年以内であること」です。空白期間が1年を超えると、通算することができなくなります。

2つ目は、「過去の離職にかかる受給資格にもとづいて、基本手当や再就職手当等の給付をもらっていないこと」です。


給付額(基本手当日額)の一覧表

給付額(基本手当日額)の一覧表
賃金日額 給付率 基本手当日額
■離職時の年齢が29歳以下 または65歳以上
2,574円以上 5,030円未満
5,030円以上 12,390円以下
12,390円超 13,700円以下
13,700円(上限額)超
80%
50%~80%
50%
2,059円~4,024円
4,024円~6,195円
6,195円~6,850円
6,850円(上限額)
■離職時の年齢が30~44歳
2,574円以上 5,030円未満
5,030円以上 12,390円以下
12,390円超 15,210円以下
15,210円(上限額)超
80%
50%~80%
50%
2,059円~4,024円
4,024円~6,195円
6,195円~7,605円
7,605円(上限額)
■離職時の年齢が45~59歳
2,574円以上 5,030円未満
5,030円以上 12,390円以下
12,390円超 16,740円以下
16,740円(上限額)超
80%
50%~80%
50%
2,059円~4,024円
4,024円~6,195円
6,195円~8,370円
8,370円(上限額)
■離職時の年齢が60~64歳
2,574円以上 5,030円未満
5,030円以上 11,140円以下
11,140円超 15,970円以下
15,970円(上限額)超
80%
45%~50%
45%
2,059円~4,024円
4,024円~5,013円
5,013円~7,186円
7,186円(上限額)



給付額は年齢や離職前6ヶ月間の賃金で決まる

求職者給付(失業給付金)は、人によって貰える金額が違います。


賃金日額に基づいて失業期間中の1日あたりの基本手当日額が計算されますが、支給金額は離職前の賃金(ボーナスを除く)の平均額のおよそ50%~80%となります。


給付金額を求めるのに重要な賃金日額について解説していきます。

これは原則として離職前6ヶ月の間に支払われた賃金の1日あたりの金額で、時給や日給で貰っていた場合には、別に最低保障の計算を行います。

賃金日額は退職前6ヶ月間の給与の総額÷180日で計算されます。


次に、基本手当日額ですが、これは賃金日額のだいたい50%~80%の間の額で、年齢と賃金日額によって異なります。


年齢と賃金日額によって異なるということは、世帯として生活費が多く必要であると見込まれる年齢層には多くなっており、反対に所得の高かった人の給付率は低くなっています。


たとえば、離職時の年齢が30歳以上45歳未満で賃金日額が2,574円~5,030円の場合、給付率は8割と設定されているので、2,059円~4,023円が基本手当日額となります。


なお、高年齢被保険者や短期雇用特例被保険者の求職者給付(失業給付金)の基本手当日額を計算する際も上記と同様の計算で算出することになっています。


求職者給付の基本手当の所定給付日数

求職者給付の基本手当の所定給付日数

失業者に支給される求職者給付(基本手当)の給付日数は下記の3つの条件によって決まります。

  1. 離職理由
  2. 被保険者だった期間
  3. 労働者の年齢


具体的には失業理由が自己都合か会社都合かによって、本人が受ける基本手当の所定給付が変わってきます。

自己都合で辞めた人より倒産・解雇などの原因で離職した人の方が保護の必要性が高いので、給付日数も多めに設定されています。


自己都合で退職した人の給付日数(一般受給資格者)

  1年未満 1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20年以上
全年齢共通 90日 120日 150日


一般受給資格者とは、定年退職や自己の意思で退職した者のことです。

一般受給資格者は離職時等の年齢に関係なく、被保険者であった期間に応じて、90日~150日の給付日数となります。


会社都合で退職した人の給付日数(特定受給資格者)

  1年未満 1~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20年以上
30歳未満 90日 90日 120日 180日
30~35歳未満 120日 180日 210日 240日
35~45歳未満 150日 240日 270日
45~60歳未満 180日 240日 270日 330日
60~65歳未満 150日 180日 210日 240日


特定受給資格者とは、事業の倒産、縮小、廃止などによって離職した者、解雇など(自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く)により離職した者のことです。

特定受給資格者と認定された場合、退職時の年齢と被保険者期間に応じて90日~330日の給付が受けられます。


特定理由離職者とは、①労働契約の更新を希望したにもかかわらず、期間の定めのある労働契約の期間が満了し更新されなかった者、②体力の衰えなど正当な理由のある自己都合退職者が該当します。


障害者などの就職困難者の給付日数

  1年未満 1年以上
45歳未満 150日 300日
45~65歳未満 360日


就職困難者とは、身体障害者、知的障害者、精神障害者、刑法などの規定により保護観察に付された者、社会的事情により就職が著しく阻害されている者(精神障害回復者など)が該当します。


高年齢求職者給付金

被保険者であった期間 高年齢求職者給付の額
1年以上 50日分
1年未満 30日分


高年齢求職者給付金は、65歳以上の離職者に支給されます。

初回失業認定日に上記の日数分の基本手当を一時金として、即日、支給決定。


失業手当の給付期間を増やす方法

失業保険の給付期間を増やす方法

失業保険の失業手当は、雇用保険に加入している期間が長ければ長いほど、給付期間も長くなります。


どうせなら、1円でも多く失業手当を受給したいと思う人もいるでしょう。

給付期間の制度を理解した上で、どのようにすれば多くの失業手当を受給できるでしょうか?


もっとも簡単で手っ取り早いのは、会社を辞める時期を少し遅らせて所定給付日数を増やす方法です。


自己都合の場合

たとえば、自己都合で退社する人が雇用保険の被保険者期間があと2ヶ月でちょうど10年になるのに、それを待たずに退社してしまうと、どううなるでしょうか?

10年以上なら120日分もらえるのに90日分しかもらえず、結果的に30日分も損をしてしまうのです。

こんな時は退社する時期をあと2ヶ月後にずらす程度のことは、基本的な仕組みさえ知っていれば誰でも思いつくものですが、これまで何の知識もなかった人はそれすら見逃してしまいそうです。


自己都合で退職する人の場合に気をつけたいのが、できるだけ「被保険者期間が10年・20年の区切りをクリアした時期に辞める」ことです。

クリアするごとに30日ずつ所定給付日数が増えるシステムになっていますから、そこをクリアできるかどうかがポイントになるわけです。


会社都合の場合

一方、会社都合で退職する人は、被保険者期間と年齢の両方のボーダーラインを確認しながら得する退職時期を見つけなければなりません。

被保険者期間では、1年・5年・10年・20年と4つ、年齢では30歳・35歳・45歳・60歳・65歳の5つの区切りがあります。

そのどちらかが微妙なボーダーライン上にあるときは、それを超えてから(ただし、60歳と65歳を超える前に)退職するのが賢明です。


もちろん、突然会社が倒産してしまったような場合には、もはや自分の意思では何もすることができませんが、それ以外の”希望退職”(離職前1年以内に導入され、なおかつ、募集期間が3ヶ月以内のものに限る)に応じるようなケースならば自分の意思で多少は退職時期を前後にずらすことができるはずですから、事前にしっかりと確認しておきたいところです。


仕事を辞めたときの年齢で失業手当が変わる

仕事を辞めたときの年齢で失業手当が変わる

失業手当(基本手当日額)を増やす方法を考えるとき、意外に見落としがちなのが退職時の年齢です。

「年齢条件は、会社都合の場合の所定給付日数にだけ反映されるので、基本手当日額には一切関係ない」と思い込みがちですが、実はそんなことはないのです。

「基本手当日額にはあらかじめ”上限額”が決まっていて、その額より高いときは”上限額”がその人の基本手当日額となる」のです。

この上限額は、退職時の年齢によって決められているわけですから、年齢はおおいに関係があります。


総額10万円も増える

ひとつ例をあげると、45歳の誕生日まであと1ヶ月で退職したAさんの場合、過去半年の給料を180で割った額は1万8000円(平均月額54万円)だったとします。

この額に給付率50%をかけると計算上の基本手当日額は9000円ですが、そこで「月27万円はもらえる」などと早とちりをしてはいけません。


実際には、30歳以上45歳未満の上限額は7605円なので、Aさんの基本手当当日額もこの額となります。

ところが、もしAさんが満45歳の誕生日(厳密には誕生日の前日)を待って退職した場合、45歳以上60歳未満の上限は8370円なので、Aさんの基本手当日額は765円も上がるのです。

「たった765円と侮るなかれ」Aさんの所定給付日数が150日(被保険者期間20年以上の自己都合退職者)ならば、もらえる総額は11万円以上もの差が出ることになるのです。

年齢 基本手当日額の上限額
30歳未満 6,850円
30歳以上45歳未満 7,605円
45歳以上60歳未満 8,370円
60歳以上65歳未満 7,186円


20代や30代で高給取りという恵まれた人は少ないでしょうが、40台になるとそこそこの給料をもらっている人も珍しくありませんので、ボーダーライン上の人は退職時の年齢のことも頭に入れたうえで基本手当を計算しておきましょう。


公共職業訓練を受けると、失業手当が延長される

公共職業訓練を受けると、失業手当が延長される

所定給付日数(失業手当を受給できる期間)を増やすには、とにかく”雇用保険の加入年数”(被保険者期間)を長くするしかないわけですが、たとえ被保険者期間が短い人でも結果的に給付日数を増やす裏ワザがひとつだけあります。

それは、失業手当をもらっている間に職業安定所の紹介で「公共職業訓練」を受講することです。

というのも、失業して雇用保険受給中の人が公共職業訓練を受講した場合、たとえその受講途中で所定給付日数が切れたとしても、「失業手当の支給が訓練修了まで延長される」システムになっているからです。


なかなか就職できない人が闇雲に就職活動を続けても、失業期間が長くなるばかりで、いずれ雇用保険も切れてしまいます。

そこで、そんな人は一度公共の職業訓練施設で用意したプログラムを受講して技術や技能を身につけてから就職活動をした方が、就職できる可能性は高くなるわけで、そのために公共職業訓練を受講中に限って失業給付金の支給を延長しようという制度が用意されているのです。


この制度を「訓練延長給付」と呼んでおり、下記の3つの期間について適用されます。

  1. 訓練などを受けるために待機している期間
  2. 訓練などを受講している期間(最長2年)
  3. 訓練などの修了後に再就職が困難な機関(最長30日)


現実には2.以外はほとんど適用されることはありませんが、2.だけにしてもかなりお得です。(数年前から、長期間休止していた3.が都市部の地域で復活している)

公共職業訓練は、ほとんどが3ヶ月または6ヶ月コースですが、なかには1年コースや2年コース(おおむね30歳以下の若年者が対象)もあります。


つまり、この制度をうまく活用すれば、所定給付日数が90日の人でもそれにプラスして公共職業訓練を受講する3ヶ月から6ヶ月にもわたって失業手当の支給が延長となり、理論的には180日から270日分も受給できる可能性もあるわけです。

もし運よく2年コースに入校できれば、90日の人でもなんと最長で810日前後も失業手当を受講できることになります。


ただし、より長く失業手当をもらうために、受給資格切れ直前になってから訓練を開始しようとするズルを防止するため、現在は、一定の給付日数を残していないと、延長給付はされなくなっています。

具体的には、原則として、所定給付日数の3分の2の手当をもらうまで(上限150日)に訓練を開始しないと延長給付の対象にはなりません。




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