この記事では「傷病手当金」について解説していきます。
「傷病手当金」は公的医療保険制度の保障の一部で、働けなくなった時に給付を受けられるありがたい制度です。
しかし、給付を受けるには条件があり、誰でも簡単に保障を受けられるというわけではありません。
この記事を読めば、「傷病手当金の保障内容」「手続きの方法」「その他のポイント」を知ることができます。
傷病手当金とは
傷病手当金は、病気休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度で、被保険者が病気やケガのために会社を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給されます。
傷病手当金は保険に加入している本人にのみ支給される制度になります。つまり、被扶養者(扶養家族)は支給の要件を満たしても対象外となります。
加入している公的医療保険によっては、傷病手当金がない
傷病手当金はもしもの時に非常に頼りになる保障ですが、残念ながらすべての国民がその権利を受けているわけではありません。
日本では国民皆保険制度があり、誰もが何かしらの公的保険に加入していますが、その公的保険の種類によって傷病手当金の保障が有るか無いかが決まっているのです。
加入する公的医療保険は職業などによって異なります、種類は下記の5つがあります。
種類 | 保険者 | 属性 |
健康保険 | 全国健康保険協会(協会けんぽ) | 中小企業に勤務する方やその家族 |
組合健保 | 大企業に勤務する方やその家族 | |
国民健康保険 | 自営業や専業主婦 | |
共済保険 | 公務員・私立学校の教員やその家族 | |
船員保険 | 船員 | |
後期高齢者医療 | 75歳以上、および65~74歳で一定の障害のある人 |
上記の中で傷病手当金の保障が受けられる公的保険は、「健康保険」「共済保険」「船員保険」のみです。
自営業者などは保障の対象外となるため、必要に応じて民間保険などを活用し、足りない保障を補う行動が必要になるかもしれません。
傷病手当金が支給される4つの条件
傷病手当金が支給されるには、下記の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外・通勤外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 病気やケガの療養により仕事に就けないこと
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
- 仕事を休んだ期間について給与の支払いがないこと
それぞれわかりやすく解説していきます。
業務外・通勤外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
傷病手当金は、業務外・通勤外の病気やケガにより療養中の場合に支給されます。また、療養には入院だけでなく、自宅療養も対象となります。
業務上・通勤途中のけがや病気の場合は、労災保険から所得補償などの保障を受けられます。
業務外であっても、美容整形など病気やケガとして認められないものは支給の対象外になります。
病気やケガの療養により仕事に就けないこと
仕事に就くことができない状態の判定は、被保険者の仕事の内容を考慮し、主治医の先生が労務不能と診断していることが求められます。
連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
業務外・通勤外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。
待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれます。その間に給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。
また、就労時間中に業務外の事由で発生した病気やケガについて仕事に就くことができない状態となった場合には、その日が待期の初日となります。
3日間連続して休むこと=待機の完成
出典:全国健康保険協会
傷病手当金の支給は、3日間連続して休むことが条件の一つになっています。この3日間連続して休むことを待機が完成するといいます。
ケガや病気などで、2日休んで1日出勤を繰り返していては、どれだけ症状が悪くても傷病手当金の対象にはなりません。
仕事を休んだ期間について給与の支払いがないこと
傷病手当金は、業務外・通勤外の事由による病気やケガで働けない期間について生活保障を行う制度です、そのため、療養中であっても給与が支払われている間は、傷病手当金は支給されません。
ただし、給与の支払いがあっても、傷病手当金の額よりも少ない場合は、その差額が支給されます。
傷病手当金の「支給期間」と「支給額」
傷病手当金の支給期間は「1年6ヶ月」
傷病手当金が支給される期間は、支給が開始されてから最長で1年6ヶ月となっています。
たとえば、支給期間中に症状が改善されて1ヶ月だけ出勤することになったが、その後また療養に専念することになっても、就業していた1ヶ月分の期間延長は行われません。
支給開始後1年6ヶ月を超えたら、それ以降は仕事に就けなくても傷病手当金は支給されません。回復の見込みがない場合、条件を満たしていれば、障害年金が一生涯にわたり給付されることになります。
傷病手当金の支給額は「標準報酬月額の2/3」
傷病手当金は1日当たりに対して支給額が決まりますが、その選定方法を求めるために「標準報酬月額」を用います。
対象となるのは、直近1年間の標準報酬月額の平均です。
この標準報酬月額の平均を÷30することで「日額」を算出します、
その日額の2/3が1日当たりの支給額になります。
つまり、過去12ヶ月間の給与を日給で計算し、その2/3の金額を受け取れるということです。
たとえば、標準報酬日額が300,000円だった場合、÷30で日額10,000となり、その2/3の6,667円が1日当たりの支給額になります。
傷病手当金の手続き・申請方法
手続きに必要な書類
傷病手当金を申請するには傷病手当金支給申請書に記入、提出する必要があります。
傷病手当金支給申請書は申請書は、下記の書類4枚1組となっています。
- 被保険者記入用:2枚
- 事業主記入用(会社が記入する):1枚
- 療養担当者記入用(医師が記入する):1枚
傷病により、上記以外の書類の提出を求められるケースもあります。
たとえば、休職理由がけがの場合は「負傷原因届」、けがの原因が第三者による場合は「第三者行為による傷病届」などが必要となります。
必要書類の書き方
被保険者が記入する用紙は2枚あります。
1枚目には「被保険者証の記号と番号」の記入欄があります。それぞれの記号と番号は健康保険証に記載されているので、手元に用意して記載しましょう。
また、被保険者証の記号と番号がわからない場合は、「被保険者のマイナンバー記載欄」にマイナンバーを記入し、マイナンバー確認書類+本人確認書類を添付することで、申請することも可能です。
2枚目には「療養のため休んだ期間」の記入欄があります。この日数が傷病手当金の支給日数となりますが、期間には土日祝日も入るため、すべて含んだ日数を記載しましょう。
手続きの流れ
傷病手当金の支給を受けるための手続きは下記のとおりです。
step
1傷病手当金支給申請書を作成する
step
2医師に「療養担当者記入用」に記入してもらう
書類作成には2週間程度かかる場合もあります。
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3会社に「事業主記入用」に記入してもらう
step
4傷病手当金の支給申請をする
支給申請は書類を受け取った会社が行うのが一般的ですが、本人が直接郵送しても問題ありません。
傷病手当金のその他のポイント
傷病手当金の申請は事後
傷病手当金の申請は事後申請となります。
傷病手当金の申請には、医師の証明(療養担当者記入用)と会社の証明(事業主記入用)が求められており、申請期間が経過したあとでなければ必要書類に記入することができないからです。
長期の場合は1ヵ月ごとの申請が一般的
傷病手当の最長期間である1年6ヶ月をまとめて申請することも可能ですが、その間の収入がまったくなくなる訳ですから、多くの人は1ヶ月ごとに申請を行っています。
たとえば、8/18~8/31の傷病手当を申請する場合には、9/1以降に医師や会社に書類の記入を求め、申請することになります。
傷病手当金を受給中に他の病気を発症した場合
既に傷病手当金を受給している時に、骨折などにより再び傷病手当金の受給要件を満たした場合は、新たに1年6ヶ月の受給期間が発生することになります。
傷病手当金は退職後でも受け取れる
傷病手当金は、退職後でも条件を満たしていれば受け取ることができます。
受け取れる条件は下記のとおりです。
- 退職日に労務できない状況にあること(退職日に出勤していないこと)
- 退職日の前日までに3日間連続で休みがある
- 退職日までに、健康保険に1年以上加入している
- 退職日時点で傷病手当金を受給中、または受給できる条件下にあった
健康保険に1年以上加入している、という条件に関してですが、転職などで会社が変わっていても、通算して1日も空きがなければ受給資格が有るものと見なされます。
傷病手当金はうつ病でも支給される
業務外の理由でうつ病となり就労困難ということであれば、傷病手当を受給できます。
業務上の理由でうつ病となった場合は傷病手当金の対象外となります。
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【まとめ】医療費に関する社会保障の種類をわかりやすく解説
公的医療保険は業務上(公務・職務上)のもの以外の病気やケガについて、医療(現物)と医療費、また療養中の生活費の保障を第一の目的とした社会保険です。国民はだれでもいずれかの公的医療保険に加入者本人または ...
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