希望しても保育所などに入れない「待機児童」が減っています。
2022年4月1日時点で2944人と、直近のピークだった17年の9分の1程度になりました。
しかし都市部では自宅近くの保育所が満員で、「隠れ待機」となるケースが多く残ります。
少子化にも歯止めはかかっていません。
地域の需要に合わせた施設整備とともに、少子化対策の一段の強化が求められます。
待機児童は過去最少を4年続けて更新
厚生労働省による2022年8月30日の発表では22年4月1日の待機児童は前年から2690人減り、1994年に調査を始めて以来の過去最少を4年続けて更新しました。
東京など都市部で大きく減った。全国の市区町村のうち85.5%はゼロになりました。
認定こども園や認可保育所、企業による従業員向け保育など受け皿全体の定員数は21年度に3万1627人分増え、22年4月で322万7110人です。
待機児童が減った背景には子供が新型コロナウイルスに感染することを心配する親の「利用控え」もあるとされますが、施設整備が成果につながったといえます。
利用者とのミスマッチを解消していくことも課題
自宅やオフィスに近い保育所に断られて利用をあきらめるといった事例は、待機児童とみなされません。
こうした「隠れ待機児童」は22年4月で6万1283人います。
最多だった20年4月の7万4840人から2年続けて減ったものの、高い水準にとどまります。
保育所に入れたとしても家や駅から近い施設に全員が入れているわけではありません。
「3人目は絶対に無理」。東京都内の30代の女性会社員は子ども2人の送迎に自転車で1日2時間ほどかかります。
市の調整の結果、2人が踏切を挟んで距離の離れた施設に通うことになったため、日々の子育ての負担感が非常に重いです。
子どもの生まれ月により親が仕事に復帰したい時期も異なるのに、現在は入所を4月に合わせなくてはならないことも多いです。
定員に多少余裕を持ちながら利用者とのミスマッチを解消していくことも課題です。
親の希望と保育所の状況にはずれもある
1歳児と2歳児の受け入れも課題です。
待機児童の77.2%を占め、3~5歳児と比べると多い。
1歳児と2歳児は保育利用率が14年の35.1%から22年には56.0%に上がっており、保育のニーズが強いことが待機児童につながっています。
少子化で子どもの数が減り、一部の地方では保育所に空きが出始めました。
厚労省によると保育施設の定員数に対する利用者数の割合は全国で89.7%で、1割強が使われていないことになります。
最も低い長野県は77.7%でした。
保育所の利用者数が定員を大幅に下回ると、保護者からの保育料や国からの補助金が十分に得られず、運営に支障をきたしかねません。
保育園を考える親の会の代表は「施設が足りない地域ではさらに整備を進める必要がある一方、定員割れの保育所には行政による財政的な支援が求められる」と話しています。
「待機児童ゼロ」に向けて量の確保を進めてきた段階から、地域の実情に合わせた施設整備と保育の質を担保した運営に移す必要があります。
待機児童解消の一因は少子化
待機児童の大幅減は全体として受け皿を増やしていることの成果ですが、数年前と違う要因も出てきました。
未就学児の人口が減っているうえ、新型コロナウイルス感染症流行により0歳児の家庭で育児休業を延長する例が多かったです。
保育所等を利用する児童数は前年比で初めて減少しました。
東京23区の自治体の担当者は「保育の需要減が想定より早くやってきた」と話します。
全国の市区町村の保育需要の見込みや施設の整備計画によると、来春にも待機児童はゼロになる見通しです。
少子化が一因というのは皮肉ですが、待機児童がゼロに近づくことは、子育て世代にとっては歓迎すべきことです。
保育の量拡大に主眼を置いてきたが、質向上に軸足を移す時期に来ています。
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保育所の量も大事だが、質も重要
国の配置基準では4~5歳児は保育士1人が30人をみています。
英国やフランスでは3歳児以上の場合、1人で見る人数は15人以下です。
日本は手薄で万全な保育ができる基準ではなく、現場では散歩中に子どもを公園などに置いたままにしてしまう「置き去り」が多発するほか、死亡事故も無くなっていません。
配置を手厚くする必要性が指摘されて久しいですが、量の拡大を優先するあまり対応が見送られてきました。
少子化対策は道半ば
量から質への保育の転換が進んだとしても、少子化対策は道半ばです。
1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は21年に1.30と、6年続けて前年を下回っています。
21年の出生数は81万1604人で過去最も少なく、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計で標準的な「中位シナリオ」を下回ります。
政府の「全世代型社会保障構築会議」は今後、男性の育児休業の促進や短時間勤務の拡大といった子育て支援策のほか、将来の安心につながる厚生年金の加入対象拡大なども議論します。
子育て支援だけでなく、賃上げを含めて子育て世代の暮らしを良くする環境整備を急ぐ必要があります。
まとめ
保育所の役割を考え直すことも重要となります。
23年4月には子ども政策の司令塔となるこども家庭庁が創設されます。
23年度の概算要求には、孤立の恐れがある未就園児を保育所で週に何日か定期的に預かるモデル事業が含まれる。
地方のみならず都市でも定員割れで経営難に陥る保育所が増えると想定され、少子化に対応したモデル作りは不可欠です。
保育事業を手掛ける認定NPO法人フローレンスの代表理事は「保育所は就労家庭の子を預かる以外の用途で使うことに制度上のハードルが高い」とした上で「こども家庭庁が取り組む虐待や貧困の問題解決のためにも保育所を活用していくべきだ」と指摘しています。
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